精神科Q&A
【0493】ここ数年、徐々にトラブルに際して前向きに対処しようとする気力が劣っていて、将来に希望が持てないような気持ちになっています。うつ病でしょうか。
Q: 45歳の男性です。15年前に勤めていた会社を辞め、1人で小さな電気工事会社を営んでおります。
ここ2か月ほど、憂うつな気分が続いています。
きっかけは、仕事上のちょっとしたミスと、それに対するクライアントの強い口調の叱責です。
ミスは適切に対処すれば回復できるものであると信じていますし、強い口調でクレームをつけられた場合には、まぁしばらくは凹んだ気分にもなるでしょうが、普通であればその気分がずっと長引いたりはしないはずのものと思っています。
ところが、今回は(あるいは今回も)憂うつな気分からなかなか回復することができません。実はここ数年、このようなきっかけが原因で憂うつな気分に打ちひしがれ、それが長引くことが多いのです。
今回の憂うつの直接の原因は、前述したように、仕事上のちょっとしたミスと、それに対するクライアントの強い口調の叱責ですが、憂うつな気分から抜け出せないでいる理由は、私にその仕事を自分だけで成し遂げるだけの自信がないからなのだと考えています。
その仕事に経験のある人物2人をスタッフに入れ、彼等に技術的な事柄を任せて仕事を遂行しようと考えていたのですが、ミスは彼等から出ました。
いや、彼等のせいにはできないと考えています。彼等のミスをチェックできなかった私が当然責任を負うべきでしょう。
クライアントに対して、今後は私が責任をもって対処していきたいと堂々と表明したいと思っているのですが、実際には自分一人では解決するだけの自信がないために、これからもスタッフに頼らざるを得ないのです。
私が辛いと思っているのは、このような状況の中、私の気付かなかった次のミスが発覚するのではないかと常に怯えてしまっていること、そのために他の仕事が手に付かなくなっていること、さらには、クライアントの叱責の中には明らかにこちら側だけの責任ではないだろうと思える場合があるにもかかわらず、畏縮してしまってそれに対して反論できないでいることなどです。
仕事をしている以上当然のことですが、トラブルやミスを引き金として憂うつな気分になることは時にありました。以前であれば、その憂うつな気分は時間が解決しましたし、自分も積極的な気分で問題を解決しようと考えることが出来たのだと思います。
ところが、年々そういうポジティブな感覚が少なくなって来ているような気がしています。
5年前に同様な出来事があった時から日記をつけるようになりました。
日記と言っても毎日書くのではなく、書きたいことがある時だけ書くようにしたものですが、結果として何かトラブルが有って打ちひしがれた気分の時に記録することが多かったようです。
それを読み返してみて感じるのは、今は5年前よりもはるかに、トラブルに際して前向きに対処しようとする気力が劣っていて、将来に希望が持てないような表現になっていることです。
現在の憂うつ自体は直接的な原因がはっきりしたものではあるのですが、この5年間、いままで興味を持って来た趣味に対しても興味を持てなくなってしまっていたり、将来に対する漠然とした夢は描けるものの、それに対してどう対処して行こうかと考えるととたんに八方塞がりな気分になってしまったりしていることから、もっと深い原因が憂うつを引き起こしているのではないかと疑っています。
眠れないということはないものの、もともとお酒が好きなので夜は飲むため、お酒の勢いで眠りにつくことができるという事なのかもしれません。
最近は、朝目が覚めるととたんに仕事の事などを考えて、あっと言う間に身体の様々な筋肉が緊張して硬直するのが分かります。
自分は、自尊心ばかり強くて実際には特にすぐれた技量を持たない中途半端な人間になってしまったと、自責の念に苦しい思いをすることがよく有ります。
そのために、将来の経済的不安に対しても、前向き、楽観的に考えることが、以前より出来なくなっています。
夫婦間のあつれきも、子供の非行問題もなく家庭には恵まれていると思いますが、それがなおさら、自分がしっかりしてないから、家族に経済的な迷惑をかけてしまうかもしれない、いやそれ以前に、ボクがこんなにウジウジとしていしていたら、家族をハッピーにできないと、悩んでしまったりもしています。
ネット上に掲載されているうつ病の自己診断テストをすると、軽い抑うつ状態と結果がでることは多いのですが、それだけではなんとも判断ができないでおります。
自分が治療をする状態であるのかどうか、ご教示頂ければ幸いです。
林: うつ病の可能性が強いと思います。受診して治療を開始されることをお勧めします。
あなたがメールに書かれたひとつひとつの項目は、どれもうつ病にあてはまるものです。そして何より、そうした状態に対するあなたのとらえ方、つまりひとことで言ってしまえばご自分を責める姿勢が、いかにもうつ病らしいものといえます。発症は漠然としているようですが、すでに5年が経過しています。お一人で悩み続けるのはやめて、病院にいらっしゃることをお勧めします。
今いった「ひとつひとつの項目」とは、たとえば以下のような点です:
「強い口調でクレームをつけられた場合には、まぁしばらくは凹んだ気分にもなるでしょうが、普通であればその気分がずっと長引いたりはしないはずのものと思っています。ところが、今回は(あるいは今回も)憂うつな気分からなかなか回復することができません。実はここ数年、このようなきっかけが原因で憂うつな気分に打ちひしがれ、それが長引くことが多いのです」
あなたのおっしゃるとおり、以前ならすぐに回復できた落ち込みが、長引くようになっているというのは、うつ病のひとつのサインです。
「憂うつな気分から抜け出せないでいる理由は、私にその仕事を自分だけで成し遂げるだけの自信がないからなのだと考えています」
自信喪失も、うつ病の代表的な症状のひとつです。
「私が辛いと思っているのは、このような状況の中、私の気付かなかった次のミスが発覚するのではないかと常に怯えてしまっていること、そのために他の仕事が手に付かなくなっていること」
これは自信喪失ととることも、不安ととることもできるでしょう。
「クライアントの叱責の中には明らかにこちら側だけの責任ではないだろうと思える場合があるにもかかわらず、畏縮してしまってそれに対して反論できないでいる」
これまではできていた反論ができなくなってしまったと察せられます。とすると、症状の進行と考えられます。
「年々そういうポジティブな感覚が少なくなって来ているような気がしています」
いかにもうつ病らしい経過です。
「それを読み返してみて感じるのは、今は5年前よりもはるかに、トラブルに際して前向きに対処しようとする気力が劣っていて、将来に希望が持てないような表現になっていることです」
おそらくあなたの日記に如実に表れているのだと思います。5年間でうつ病が進行してきているのでしょう。
「この5年間、いままで興味を持って来た趣味に対しても興味を持てなくなってしまっていたり」
このように、仕事だけでなく、趣味のような楽しみの感覚も失われてきたとなると、うつ病の診断がかなり確実になってきます。
「将来に対する漠然とした夢は描けるものの、それに対してどう対処して行こうかと考えるととたんに八方塞がりな気分になってしまったりしている」
八方塞がりな気分。うつ病の方がよく感じられることです。
そしてあなたは
「もっと深い原因が憂うつを引き起こしているのではないか」
と疑っておられます。確かにそうだと思います。その「深い原因」が何であるかは、なかなかわからないものです。それを追求するよりも、今は治すことを第一にするべきだと思います。
「最近は、朝目が覚めるととたんに仕事の事などを考えて、あっと言う間に身体の様々な筋肉が緊張して硬直するのが分かります」
このような形で朝に調子の悪さがはっきり出るのは、うつ病に典型的です。
そしてこの文章に代表される自責感です。
「自尊心ばかり強くて実際には特にすぐれた技量を持たない中途半端な人間になってしまったと、自責の念に苦しい思いをすることがよく有ります」
以上、どれもうつ病の症状に一致します。そして何より最初に申し上げたように、個々の項目はもちろん、今の状態に対するあなた自身のとらえ方が、典型的なうつ病の人に一致しています。治療を受けてください。うつ病は治ります。