精神科Q&A

0472】弟は本当に悪性症候群ではないのでしょうか


Q私(28歳 男性)の弟(20歳 男性)は、小学校の4年あたりから不登校気味になり、性格も活発な性格から徐々に消極的になり、学力低下・集中力低下が感じられました。

 中学校に入り、その傾向は強くなり、更に外食時などは、「他人が自分のことを笑っている」と訴えたり、極度に他人の目を気にするようになりました。

 高校は受験したものの、入学式とその翌日しか登校せず、中退してしまいました。

 その頃初めて母と精神科を受診し、「統合失調症の疑いがある」と宣告されました。

 しかし、この時母も私もこの宣告を受け入れることができませんでした。

 はじめの一年位は外来で受診をしながら(一週間に一回)リハビリにも参加していました。

 二年目あたりから、天井を見据えたまま何時間も布団の中で動かず、話しかけても返事をしない、病院へも行きたがらないという状態が見られるようになりました。

 何とか本人を説得し、再び病院へ通うようになり、無口でしたが、徐々に病状も落ち着いてきたように思っていました。

 はじめ、弟は自分の内面や症状(自分の考えが世界中に知られている)を、誰にも話しませんでしたが、二年程前に「今まで誰にも言えなかったんだけど・・・」と打ち明けてからは、口数も増えてきました。

 その後、私に度々悩みを打ち明けるようになり、妄想も治まってきたかに思えましたが、今まで見れなかったテレビに話しかけたり、ドライブ中などは、前を走行するの車のブレーキランプが、自分に対しての嫌がらせではないかと訴えたりすることもありました。

 そんな状態が二年程続いた今月の朝、全身が硬直し、ひどい発汗、ふるえ、目は開いたまま、意識もない状態になり、救急車で病院へ運ばれました。母の話では、45日程不眠が続いていた様です。

 はじめ、家から近い病院(通院していた病院とは違う)へ搬送され、「悪性症候群」と診断され、硬直を抑える注射を打たれましたが、その病院では対応できないと言われ、結局救急車で30分程かけて、いつも通院している病院へ搬送される途中、意識が戻り、硬直も治まりました。

 病院に着いて点滴をしている途中、自分で点滴の針を抜いて立ち上がり「死にます!」と何度も叫びながら外へ出ようとし、現在隔離室で拘束され、薬で落ち着いている状態です。

 担当医によると、「自分の考えがみんなわかられている。誰も信じられない。死にたい。」と訴えていたそうです。「悪性症候群の可能性は低く、今までの薬(セレネース・ウィンタミン)を中心に治療を続けていく」という考えのようでした。本当に悪性症候群ではないのでしょうか?また、急にこの様な状態になることもあるのでしょうか?

 

: 抗精神病薬による悪性症候群が発生するのは、抗精神病薬開始の一ヶ月以内が90%以上です。弟さんのケースは、メールから判断する限り、二年ほど前から抗精神病薬を飲みつづけていると解釈できますので、悪性症候群が発症する可能性は低いといえます。

 ただし、最近処方が大きく変更されたというような事実があれば別です。また、同じ処方であっても、疲弊した状態などでは悪性症候群が発生しやすくなりますので、

45日程不眠が続いていた」

というのは気になるところです。

気になるところではありますが、やはり一般的には、この時期になって悪性症候群が発生するのは考えにくいことです。

 もっとも、考えにくいとか考えやすいとかではなくて、事実はどうかというのが問題です。

 そうしますと、悪性症候群の定義は何かということになります。実は確定した定義というものはないのですが、診断基準はいくつか提唱されています。ここに示します。ただしこれらは「提唱されている」ということにすぎないので、絶対のものではありません。

 いずれにせよ、薬と症状に因果関係があるかどうかということが最大のポイントになりますが、この因果関係ということがなかなか立証できないのです。

 弟さんのケースでは、悪性症候群以外に考えられるのは、緊張病の発症です。これは別の病気が発症したということではなく、統合失調症(精神分裂病)の緊張症状が現れたということです。致死性緊張病という病態もあり、弟さんの症状はこれに似ています(ですから、「急にこの様な状態になることもあるのでしょうか?」に対するお答えはイエスです)。

 もっとも、致死性緊張病といっても必ずしも死に至るわけではありません。また、悪性症候群といっても、必ずしも悪性というわけではありません。むしろ軽い症状の段階で適切に治療されて回復することのほうが、最近は多いと思います。そして軽い場合に、それを悪性症候群の軽いタイプ、あるいは不全型と呼ぶか、そもそも悪性症候群と呼ばないかは、言葉の使い方の問題にすぎず、本質的にはあまり意味がありません。もし「弟は本当に悪性症候群ではないのでしょうか」と質問された意図が、悪性なら心配だ、というところにあるのでしたら、それはあまり気にされなくていいと思います。

「統合失調症の疑いがあるという宣告をなかなか受け入れることができなかった」

と記載されています。その気持ちはよくわかりますし、今では診断を受け入れておられると思いますが、事実を直視して適切な治療を受けることがもっとも大切です。そして、診断を受け入れ難い人は、病気のいろいろな症状を薬の副作用と考えがちであることも付記しておきます。

 なお、もし弟さんに見られた今回のエピソードが悪性症候群の不全型(と呼ぶかどうかはともかく)であったとすると、ひとつ気をつけなければならないことは、将来の悪性症候群の発生です。悪性症候群の既往があると、また悪性症候群になる確率が高いことは、確かな事実です。先に書きましたように、処方が同じでも、疲弊した場合などには悪性症候群になる可能性がありますので、この点には十分な注意が必要でしょう。


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