精神科Q&A
【0458】誰か分からない人物が、泣き喚いて、別の誰かに死に物狂いで何かを訴えている、という感覚・・・これは何でしょうか
Q: 28歳の女性です。
最近になって幻聴?のようなものが感じられ、転勤もあったのでそのストレスかな、と思い、最初はあまり気にしていなかったのですが、度々なので次第に怖くなってきて、ネットで調べたところ先生のページを拝見し、自分に当てはまるものがないかと探してみましたが、どれも当てはまらないようなので、何か教えていただけることがあれば、と思いご相談しました。
私が感じるのは、正確には声ではありません。音でもありません。
あっ、また来る!というのが分かり、次第に、ある決まった心象風景?のようなものに頭も心も支配されてしまいます。
それは、私か誰か分からない人物が、泣き喚いて、別の誰かに死に物狂いで何かを訴えている、という感覚です。
なんと言っているのかは分かりません。
しかし、聞いている側(こちらも漠然としています)はうなずいて黙って聞いているだけで、その死に物狂いの訴えを聞き流している、という感じです。それによって訴える側は尚更パニック状態になり、金切り声をあげて叫びつづける、というような感じです。これはイメージです。
これらのことは、人が見えるわけでもないし、声が聞こえるわけでもありません。
ただ、こういうイメージが毎回遠くから徐々に近づいてくるような感じで、最後には普通に家事をしているのに心と頭はそれで埋め尽くされている、という状態になってしまいます。
それを無視しようとして無理に普通に行動しつづけるのですが、頭と動作が切り離されてふわふわし、頭はそれで一杯です。
最初は、不思議な感覚だなー、ちょっと怖いぐらいにしか感じませんでしたが、今ではそれが来そうになるとものすごく恐ろしくなり、やめてくれやめてくれと必死でその感覚を払いのけようとするのですが、絶対に消えません。これが2分から3分続きますが、その間はこれより長く感じられます。一人でいるときにしかならず、誰かと話せば治るので電話をしたりすることもあります。
長くなってしまいますが、実はこれと同じような感覚は、本当に小さいころからありました。小さいころは目覚めているときではなく、同じような内容の悪夢を見たという記憶があります。それが最初で、あとは本当にたまにその感覚がよみがえってくるという感じでした。
大学生のときにバスの中で同じ感覚がやってきて、おかしくなるんじゃないかと思ったことがありました。その後はめったにそういうことはありませんでした。
しかし、ここ最近、月に1、2度ぐらいの頻度で現れるので、怖くなってきました。始まってもすぐに治るので大したことはないのでしょうが、こういうものを幻聴と呼ぶのか、それとは別に何かこういう症状があるのか、教えていただけたら幸いです。
林: 可能性は三つあると思います。(1) 病気ではない (2) 精神分裂病(統合失調症) (3) てんかん の三つです。脳波の検査だけは受けたほうがいいでしょう。
そのまえに、この症状をなんと呼ぶかというご質問ですが、それはかなり難しい質問です。
幻聴とはいわないでしょう。幻聴というのは、あくまでも「聴こえる」という感覚があることが必要です。
ということは逆に、「聴こえる」という感覚があるかどうかが、幻聴と呼ぶかどうかの鍵ということになります。
「正確には声ではありません。音でもありません」
ということは、聴こえるのではないと思われますが、しかし、
「私か誰か分からない人物が、泣き喚いて、別の誰かに死に物狂いで何かを訴えている、という感覚です・・・なんと言っているのかは分かりません」
とお書きになっているのは、なにかが聴こえているともとれます。聴こえていれば、それは幻聴だということになります。
おそらく、あなた自身も、聴こえているのか、聴こえていないのか、どちらかと問われると、よくわからないのではないでしょうか。
それは、精神分裂病の幻聴のはじまりの時期に、よくある体験です。
最初は、聴こえているのか聴こえていないのかよくわからない。自分の考えている内容が頭に浮かんでいるような気もするし、それが声になっているような気もする。自分の考えでなく、他人の考えのような気もする。
というような漠然とした感覚が、徐々にはっきり聴こえる幻聴という形になることが、精神分裂病ではよくあります。「聴こえる」といっても、「声というより意味が聴こえる」と表現される場合もあります。
この漠然とした体験を何と呼ぶかは難しいところです。「知覚表象」と呼ぶこともありますが、「知覚」として体験されているかどうかはまた難しいところです。
「一種の自我障害」と呼ぶこともできます。ただしこう呼んでしまうと、それは精神分裂病をほぼ前提としていることになります。
話をあなたのケースに戻しましょう。
あなたの体験は精神分裂病の幻聴のはじまりの時期によくある体験、だからあなたが精神分裂病だという意味ではありません。
私がさっき「精神分裂病の、特にはじまりの時期には、これに似た体験をする方がいらっしゃいます」と言ったのは、精神分裂病の方がよくなってから話を聞くと、こういう体験を語ってくださることがある、ということです。つまり医療の場面からみた判断にすぎません。
実際には精神分裂病以外でも、このような体験をされる方はたくさん(たくさんと言えるかどうかはまた問題ですが)いらっしゃるようです。それをどう考えるべきかは、今のところわかりません。病気とはいえないケースもたくさんあると思います。
以上が(1) 病気ではない (2) 精神分裂病(統合失調症) の解説です。
もうひとつ、(3) てんかん の可能性があります。
てんかんとは、正確には、脳の神経細胞が急に正常とは違った活動をすることによる症状です。けいれんが代表的な症状ですが、そのほかにもあらゆる症状がありえます。それをすべててんかん発作といいます。
てんかん発作の中には、知覚の領域に出るものもあります。つまり、幻聴や幻視などです。もっとまとまった体験が発作的に出てくるものもあります。つまり、あなたの症状はこれかもしれないということです。
あなたの場合、症状の始まりと終わりがかなりはっきりしていますね。これは精神分裂病よりむしろてんかんを思わせる特徴です。
そしててんかんは脳波で確実に診断できます。治療法も確立しています。ですからこの回答の最初に書いたとおり、まずは脳波の検査を受けることをおすすめします。また、てんかんの原因として、脳内の病変も考えられますので、MRIかCTの検査も受けたほうがいいでしょう。
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