精神科Q&A
【0455】診断書に「自律神経失調症」と書かれて、先生への信頼を失いました (続き)
・・・続きです
同じひとりの患者さんの病名でも、場面場面によって、また書類によって、変わってくるのはむしろ普通なことです。もちろんそれがいいことであるとは言いにくいのですが、現実にはそうせざるを得ないと思います。
「場面場面によって、また書類によって」というのは、「主治医の頭にある診断名(これを通常は「本当の」病名、あるいは「正式な」病名と呼ぶことになるでしょう)」、「患者さんに伝える病名」「ご家族に伝える病名」「カルテ上の病名」「診断書の病名(同じ診断書といっても、職場や学校に出すものと、治療費補助の請求のために役所に出すものとは事情が違ってくるでしょう)」などによって違うということです。
たとえば「精神分裂病(統合失調症)」という病名を考えてみましょう。精神分裂病は全人口の0.7%の人がかかっている病気ですから、非常に多い病気であるといえます。ですから「主治医の頭の中にある診断名」が「精神分裂病」であることは、率からいっても非常に多いことになります。
けれどもこの病名をご本人に伝えるのがいいかどうかは、ケースバイケースになります。ご家族に対しても同様です。
職場への診断書についても、「精神分裂病(統合失調症)」と書くことは、ご本人の不利益になる可能性が高いでしょう。そんな病名を書くわけには普通はいきません。もっとイメージのよい軽そうな病名になるでしょう。
そして同じ診断書でも、治療費補助や年金を請求する場合には、軽そうな病名を書いたら逆に受理されないということになりなすので、また病名は変わってくるでしょう。
このような状況がいいとは言いにくいですが、患者さんの利益のためにはそうせざるを得ないというのが現状です。
もっとも、このようなことをすべて承知したうえで、それでも病名は正式なものだけを常に使うべきだという考え方もあります。それは傾聴すべき意見ではありますが、少なくとも今の日本では現実的でもなく一般的でもないといえます。
なお、このように病名が曖昧になることの問題点の一端は、自律神経失調症の書斎に書いてあります。