精神科Q&A

【0447】婚約者のアルコール問題 


Q:  私は29歳の女です。
 私は現在、30歳の婚約者と同棲中(来春挙式予定)なのですが、以前から彼のお酒の飲み方に小さな疑問があり、もしかするとアルコール依存症なのでは?と考えていました。

 彼はもともと独りでいるのが好きな性格で、あまり社交的ではないのですが、飲み会に参加する機会があると(真面目な気質なので、その場を盛り上げようという気概もあるのでしょうが)ハイペースで酒を飲んで、「毎回必ず」途中で記憶を失います。
そして、「酒に呑まれたから」という言い訳もむなしく、哀しいほどおかしな行動をします。(友達の靴下を脱がして足をなめるとか、友達に暴言を吐くとか、大抵は本人が面白いと思っての行動なのですが的外れな結果なのです。)
 友達はそれを見て楽しいから、その後も酒を勧めてきます。
 そして、家に帰ってきてすぐに床に就くのですが、その後も途中で起きて、トイレではないところ(玄関やお風呂)で用を足そうとしたり、実際にしてしまったりしています。

 家では毎日、一人で部屋にいる状態を作って350mlのビールを3本飲みます。彼にとってはそれが寝酒、習慣になっている状態です。そして、買い置きなどしているとあるだけ飲んでしまうので毎日自分で買いに行ってもらっています。

 どちらにしろ、どの場合も「楽しい酒の飲み方」とは程遠い場所にある飲み方です。明らかに自分を消し去りたい、もしくは自分の内面に深く潜り込むといった感じに見受けられます。

 先日、彼が飲みに出かける機会があり、いつも記憶を失うので心配だったのですが、結局本人も記憶のない状態で朝方家に戻ってきました。
 私もイラついていたので言葉が荒かった事を今更反省していますが、喧嘩になり、暴力で向かってきました。この時は、部屋がめちゃくちゃになり、私も怪我をして本当にひどい事件だったので本人は反省していました。

 が、しかし、今日また飲み会があり、早く帰ってきてとお願いしたところ、早くは帰ってきたのですが、もう記憶の無い状態で、しかもトイレを我慢しきれずに帰り道でお漏らしをしてしまったのだそうです。

 これは笑い事ではないと思い、いろいろ調べて、彼の行動は病気であるということを知りました。自己診断や久里浜式アルコール症スクリーニングテストで彼の行動を考え、試してみましたが、どちらの結果もアルコール依存症の可能性が大きい状態であると考えられました。

 先日、本人が手先の痺れを訴えていました。目で見ても確認できないほどのものだったので疲れからきたものかと思いますが、この場合、アルコール依存によって発生したと考えられる可能性はどのくらいあるでしょうか?

 私はこのままだと彼が入院しなくてはならない状態になるのではと思い、不安でなりません。先ずは、本人と話し合う時間をつくって最寄の病院で受診してみることを促したいと思っています。その他に彼のために私のできることが何かありますでしょうか。教えていただければ幸いです。

: あなたの婚約者の方はアルコール依存症だと思います。アルコール依存症の治療はアルコールをやめること以外ありません。あなたのすべきことはただひとつ、この方がアルコールをやめることの手助けをすることです。

 そのためには、あなたの計画しておられるように病院を受診するのは良い方法だと思います。ただここでひとつ重要な注意点があります。

 それは、病院を受診することでかえってアルコール依存症の悪化の手助けをしてしまう可能性があることです。アルコール依存症の家族カウンセリングルームの最初に「病気の進行に手を貸さない」と書いたのは、そういうことが非常に多いためです。例として「肝臓だけ治して飲める体にする医者」と書きましたが、もっとよくあるケースは、医者が「ほどほどに飲むのならいい」というようなアドバイスをすることです。アルコール依存症の人はこの言葉を聞くと「医者がアルコールを飲むことを許可した」と判断しますので、医者としては最悪の対応ということになります。また、【0418】のようにせっかく受診しても空振りに終わるおそれもあります。ですから、受診される前に、その病院の先生が本当にアルコール依存症の診療能力があるかどうかを確認することが大切です。残念ながら精神科医であってもアルコール依存症の診療は事実上できない医師が多いのが現状です。

 それから、医者だけでなく、あなた自身が、この方のアルコール依存症の進行に手を貸さないことが大切です。アルコール依存症の治療を願ってメールを出しているあなた自身が、まさかそんなことをするとはお考えにならないと思いますが、実はそういう方でも知らず知らずのうちに手を貸していることは非常に多いのです。これもアルコール依存症の家族カウンセリングルームに書いたことですが、慢性的に進行するアルコール依存症では、その経過中にさまざまな問題が起こっています。その問題のうちのどこかで本人が本当に困るという体験をすれば、依存症からの回復のきっかけになり得るのですが、ご家族の方が問題の後始末を担当してしまうために大事に至らず、結果としてアルコール依存症がどんどん進行するというのがよくあるパターンです。

 あなたも振り返ってみてください。この方のアルコール問題をあなた自身が後始末してしまっていないかどうかを。たとえば暴力を受けた後の対応は適切だったのでしょうか。

 「アルコール依存症の妻」という、類型があります。過度に尽くしてしまうというのもそのひとつです。はたからみると「よくできた奥様(a)」という評価を受けることが多いものです。さらに「それがどうしてあんな男に(b)」と続くこともあります。(b)はともかくとして、(a)は確かによくあることで、そのことが逆に夫のアルコール依存症を育んでしまったというケースが多々あるのです。

 以上のようなことを頭においたうえで、この方のアルコール依存症の回復(アルコールをやめること以外の治療法はありません)に適切な手助けをされることを願っています。

 なお、最近みられたという手先の痺れは、アルコールによる末梢神経障害か、もしくはアルコール離脱症状でしょう。アルコール性の末梢神経障害は、手足の先に出るのが特徴です。また、アルコール離脱症状としては手の震えがよく知られていますが、その前の段階として、指が痺れるということを自覚されることもよくあります。文字を書いてみれば震えていることが明らかになります。


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