精神科Q&A
【0369】難治性うつ病と言われ、入院を勧められたのですが
Q: 36歳独身男性です。仕事は自営ですが1年以上仕事ができてません。
1年位前から体だだるくなり内科で2回検査をしましたが異常無しと言われ、精神科に行くように言われました。
最初は精神科の先生の診断ではうつっぽいな〜と言う事で抗鬱剤を処方してもらいました。
それから、睡眠障害(不眠、過眠)、やる気なし、体のだるさがひどくなり、正式にうつ病と診断されました。最初は1日でトフラニール75mg、ソラナックス0.4mg、ハルシオン、ロヒプノール1mで徐々にトフラニールを増やしていき、150mgまで処方されました。半年くらいで大分良くなったので薬を減らしたところ、また逆もどりしてしまいました。それからまたトフラニールを1日200mgまで増やして飲んでいましたが、ここ2ヶ月位は1日中寝て(ゴロゴロではなく寝ています)いて、トイレと食事くらいにしか起きません。今の主な症状は、体のだるさ、眠気、何もやる気がない(お風呂、テレビなど)というものがほとんどで、落ち込みや自殺願望はありません。良くなった時にはパチンコや犬の散歩などにも行ってたのですが今は前より何もする気がありません。
良くなれば自然に遊びに行きたくなるだろうと思っていますが今はそういうことは1ヶ月に2〜3度あるかないかです。
そして先生に言われたのが「難治性うつ病」と言うことでした。
同じ薬(トフラニール)だけを長く飲むより替えた方が良い場合もありますか?
入院しての点滴治療を勧められていますが、飲み薬と点滴では効果は違うのでしょうか?
十分な休養と薬を飲んでいるのに一向に良くならないので家族も心配しています。
うつの症状で過眠になってるのか副作用でなってるのか先生も迷っている様子です。
あまり寝てばかりいるので3週間前からトフラニールを75mg、プロチアデン75mgに変えましたが症状は同じです。入院しても薬が同じなら意味がないと思うのですがどうでしょうか?
早く治して仕事や遊びにも行きたいのですが・・・
林: まず、あなたの診断はうつ病で間違いないと思います。難治性といえるかどうかは、きわどい所です。
最初に、トフラニールを150mgまで増やして良くなったという経過は、(よくなるまで半年はやや長いにしても)、うつ病としては典型的です。そのあとは薬を減らしても症状は出ない場合も、減らすとすぐに症状が出る場合もあります。出ないケースの方が多いと思いますが、あなたのようなケースも稀というほどではありません。
その時点でまた薬を増やすと良くなることが多い(たとえば【0042】)のですが、200mgという、以前よりも多い量にしても良くならないということも時にはあります。それがなぜかということは、脳内のレセプターの関係から説明できないこともないのですが、仮説的な部分が多い説明になりますので、あまり意味はないと思います。ただ、そういうケースもあることは事実です。
トフラニールを200mgにしてからどのくらいたつのか明記されていませんが、「2カ月」という期間この量を飲んでいて、それでも改善しないとなると、薬は変えるべきだと思います。抗うつ薬治療の論文では、あるひとつの抗うつ薬が効かない場合、他の薬に変えてもあまり意味はないと書かれていることが多いのですが、それはおそらく全体として見た場合であって、ひとりひとりの患者さんで見ると、抗うつ薬を変更すると効果が出てくることは比較的よくあります。俗にいう、「合っている薬、合っていない薬」というのがあるのだと思います。
今の過眠が、うつ病の症状なのか、副作用なのか、先生が迷っておられるというのは理解できます。抗うつ薬を増量して、あなたのような症状が続いている場合にはよくあることです。しかし、今の症状が副作用だけとは思えません。
ですから、「トフラニールを75mg、プロチアデン75mgに変えた」という方針に、私は賛成できます(私ならここでプロチアデンは使いませんが、この辺は医師の好みの問題もあり、なんとも言えません)。処方変更して3週間で効果が見られないとなると、次はトフラニールを中止して、プロチアデンを150mgとするのが、方針としては一貫していると思います。
あるいはここで入院治療に切り替えるという方針もあり得ると思います。
「入院しても薬が同じなら意味がないと思うのですが」というお気持ちは理解できますが、うつ病の治療は決して薬だけではありませんので、入院してより密接に医師とコミュニケーションを取ること(これを精神療法的アプローチということもできます)や、環境を変化させることが、プラスに作用することは十分考えられます。また、薬の効果も入院の方が細かく見ることができます。
それから、入院でなければ出来ない薬物療法として、点滴があります。「飲み薬と点滴では効果は違うのでしょうか」というご質問ですが、答えはイエスです。抗うつ薬の点滴(アナフラニールという抗うつ薬です)によって、劇的に良くなることはしばしばあります。
さらに考えられる方法としては、電気けいれん療法もあります。今のあなたの症状で、しかも一回目の入院では、日本の標準的な医療としては、電気けいれん療法は行わないのが普通ですので、おそらく今回は勧められないと思います。しかし、これも効果は十分に期待できます。
結論としては、今のあなたの症状に対しては、
・外来でさらに抗うつ薬の変更・増量を行う
・入院してアナフラニールの点滴を行う
のいずれかが、一般的かつ適切な治療だと思います。
それから最後に重要なことは、あなたの症状は間違いなく治るということです。うつ病は、治ります。