精神科Q&A
【0302】大丈夫な幻聴と、大丈夫じゃない幻聴の境目は?
Q: 28歳女性です。現在、精神科に通院しており、パキシルとソラナックスを処方されています。診断ははっきりと聞かされていないのですが、抗うつ薬を飲んでいるのでうつ病なんだろうと思っています。
でも私には幻聴があるんです。それで、自分はもしかしたら分裂病なんだろうかとも思っていて、もしそうなら今の薬でいいのか不安になって、思い切って質問させていただくことにしました。
はじめて幻聴をきいたのは、4年前、4年前、精神的肉体的疲労を覚えていた時のことです。それから度々『幻聴』を聞くようになりました。内容は音楽や歌声などで、たまに雑音の向こうから男性の声がしますが、語りかけてはきません。
先生のサイトを拝見して、【0243】で『音楽幻聴』という言葉を知りました。
私の祖母も脳梗塞を3回起こしており、脳の病気なのでは?と思いましたが、主治医にその旨相談すると「30歳前後では起きない」と言われました。
「統合失調症(精神分裂病)の幻聴なのか?」と質問すると「幻聴とわかっているなら問題ない」とのこと。
以下、私に聞こえる幻聴についてです。
@幻聴が起きる場所は特定した場所でおこる訳ではありません。
A頭のなかで「音」を思い出すことはあるけど、それとは別です。はっきりと違います。
B外から聞こえる「音」は、距離感があって、外から聞こえる音とわかります。
「幻聴かな?」と思う「音」は、距離感がなくて、降ってくる感じ。
自分と外界の間に空間があって、そこから聞こえてくるように思えます。
C特に命令されたり、悪口を言ってくる訳ではありません。
単純に、「聞かされてる」感じです。
D毎日ある訳じゃなくて、ときどき聞こえてきます。
また、聞こえるときは、自分を追い込んでいるようなときにあるようです。
主治医は「誰かに聞かされているとか、心あたりはないか?」と聞いてきましたが、様々なジャンルの音楽(インストゥメンタル)や雑音まじりの声を聞かせてくれるようなはた迷惑な隣人や知人の存在に心当たりはありません。
主治医は「自分で幻聴とわかっていれば大丈夫」と言いますが、私自身は「もしこれが毎日になったら」「狂っているのでは」「統合失調症(精神分裂病)なのでは」と心配になります。
大丈夫な幻聴と、大丈夫じゃない幻聴の境目はどこにあるのでしょうか。
林: 難しい質問ですが、端的にお答えすると、あなたが統合失調症(精神分裂病)である可能性は低いと思います。ただし、脳腫瘍などの疾患(脳の病気)の可能性は残されていますので、一度はCTかMRIの検査を受けるべきです。
統合失調症の幻聴は、典型的には自分に対する悪口・中傷・命令など、被害妄想の色彩があります。また、たとえはっきりした被害妄想でなくても、多かれ少なかれ被害的なニュアンスを伴うものです。実はこの「ニュアンス」というのが微妙なものなので、直接お話をお聞きしないとなかなか判断できないのですが、あなたはかなり冷静に内容を分析しておられますし、また主治医の先生が精神分裂病でないと判断しておられることもあわせて、被害的なニュアンスはないと考えていいと思います。だとすると、統合失調症性の幻聴とは考えにくいということになります。
また、統合失調症では、特に初期には「自分の考えていることが声になって聞こえる(これを考想化声といいます)」という幻聴(または幻聴かどうかはっきりしない体験)も多いのですが、あなたの場合は漠然と「聞かされている」という体験ですので、それとも異なるようです。
「自分で幻聴だとわかっている」というのは、それ自体は統合失調症の幻聴でもあり得ることですが、あなたの場合は上のような他の所見とあわせると、「自分で幻聴だとわかっている」ということも、統合失調症ではないと考える理由のひとつになります。(ただし、あくまでも「上のような他の所見とあわせると」という条件がつきます)
したがって、あなたの今の幻聴は、統合失調症性のものとは異なります。
ただし、【0243】にもお書きしましたように、統合失調症以外で幻聴が出るのは、脳腫瘍のような脳の病気の可能性がありますので、CTかMRIの検査を一度は受けておくべきだと思います。(30歳前後でも十分可能性はあります。主治医の先生が「30歳前後では起きない」とおっしゃったのは、脳梗塞のことでしょう)