精神科Q&A
【0243】音楽の幻聴について
Q: 43歳会社員の主人は、病気らしい病気はしたことがなく、性格的にも、なんにも問題のない明るい性格です。ただ本人が言うところによると始終、頭の中で音楽が鳴っているそうで、それは、何か集中してない限り(その時は消えるそうです。)すぐ鳴り出すのだそうです。(何も関係のない明るいポップスが多いそうです。)それは、布団に入ってからもそうです。 30歳頃位から始まったらしいのですが、本人は、共存しているらしく、「また始まった」などと気軽にいっていますが、私は、普通ではないような気がして仕方ありません。睡眠不足がちで、とにかくテレビが大好きです。このことも関係あるのでしょうか? 幻聴というほどの物でもなく、それ以外はなにも問題はありません。このまま放置しておいてもいいものでしょうか?
林: これは音楽幻聴です。「幻聴というほどの物でもなく」とお書きになっていますが、現象としてはれっきとした幻聴です。問題は放置しておいていいかどうか、つまり病気の症状かどうかということです。
実はこれはよくわかっていません。あまり研究されていないからです。
結論を先に言いますと、一応脳腫瘍など(特に右脳)の可能性を考えて、MRIかCTスキャンの検査を一度は受けた方がいいでしょう。その結果異常がなければ、様子を見るということになると思います。
音楽幻聴についておそらく最も有名な論文は、1990年にBritish Journal of Psychiatryに発表された "Musical Hallucinations" だと思います。それによると、この症状が見られる人は、女性、60歳以上、耳の病気(難聴)、脳の病気(右半球の腫瘍や血管障害)に多い傾向があり、精神疾患とは無関係であるとまとめられています。そうしますとご主人のケースで可能性があるのは脳の病気だけですので、一度は検査をした方がいいということになります。
音楽幻聴全体からみると、精神疾患との関係はあまりないようですが、逆に精神疾患、特に統合失調症(精神分裂病)の音楽幻聴についての研究は日本にもいくつかあります。それによりますと、初期は苦痛がむしろ強く、その後に主体性が失われ(たとえば、他人から無理に聞かされていると感じる。さらにその他の統合失調症の症状が出てくる)、それを過ぎるとむしろ苦痛がなくなりとりとめないものに変わるという経過が典型的とされています。
【参考】
●Musical hallucinations A historical and clinical study (by Berrios GE)
British Journal of Psychiatry 156: 188-194, 1990
上記の1990年の論文です。
●分裂病の音楽幻聴
(馬場存ほか)
精神医学39巻1号 15-21, 1997年
●分裂病の音楽幻聴(第2報)
(馬場存ほか)
精神医学42巻1号 45-52, 2000年
この二編に統合失調症(精神分裂病)の音楽幻聴がまとめられています。