精神科Q&A

【0241】高校生のリストカットへの対応


Q: 私が教員をしている高校のある女子生徒(15歳)がリストカットを行っています。 約半年ほど続いているようです。 最初は精神状態がかなり不安定(自分にとって望ましくないことがあると 激しく取り乱す・カッターナイフで無数の浅いきずをつける)な状態に陥っていました。 最近はずいぶんと落ち着いてきていますが テストの前に過呼吸になったり、 突然泣きだしたりします。リストカットも頻度は減ったようですがまだしているようです。学校は一時全く来られないことがありましたが、今は毎日登校しています。 
 治療については、2つの精神科と1人の心理 療法士にかかったことがあります。 そのうち最初に通院した精神科では、「うつ病」と 言われたようです。ただし、そこは本人が気にいらないため、2度ばかり通院してやめたようです。 もう一つの病院では、保護者いわく「思春期の一過性のもの」といわれたらしく、安定剤や睡眠薬のようなものを処方してもらっているようです。ただ、この病院も本人が気に入らず、 母親が薬だけたまにもらいにいったりするだけのようです。 心理療法士の方は、本人がいたく気にいっており定期的かつ携帯などでも相談しているようです。 私も会ったことがありますが、なんか本人の 自尊心を100%満たしてあげて、安定させているだけで、これで治るのかと疑念があります。 
 腕を切って、それをみせびらかせたりするので 最初は本当にびっくりしました。 私のせいなのかと随分悩んだこともありましたが どうも、これは、自分の問題が解決できず (対人関係や勉強など)逃げているのではないかと思うようになりました。 なぜなら、私が知る限りは、取り乱した行為の原因を全て自分以外(家族、学校、私、友人)のものに求めるからです、 また、一方的に話す、彼女が原因と思うことを 徹底的に攻撃するなど、どう考えても 思春期の悩める状態というよりは、 ただのだだっこです。 
 保護者も悪いひとではないのですが、 原因をもとめたがり、とにかく登校してくれれば という印象が強いです。 
 よくわからないのですが、「できることとできないことをはっきりさせ、見捨てず見守る」ようにしていますが、心理療法士、ボーイフレンド、 家庭、他の教員とそれぞれ思惑が違いつらい立場にいます。 
 いったいリストカットとは何で、どう対応するのがよいのでしょうか。特に、このまま現在の心理療法士にかかっていていいのか心配です。 ご助言いただければ幸いです。


: リストカットは、境界性人格障害の人によく見られる症状ですが、リストカット(またはその他の自分を傷つける行為)がほとんど唯一の症状で、人格障害とまでは言えず、診断のつけようがないケースがかなり増えているようです。その本質(または背景)が何であるか、研究は数多く行われていますが、決め手がないというのが現状です。ですからご質問の中心の「リストカットとは何か」に関しては、正確に答えられる人は存在しないと思います。
 ただご質問の生徒さんは、リストカット以外にもいくつもの問題を持っておられるようです。15歳ですので人格障害と診断することは出来ませんが(18歳以上であることが診断の条件のひとつになっています)、本質的にはかなり境界性人格障害に近い病態だと思われます。
 今の治療でいいかどうかに疑問をお持ちなのはもっともだと思います。現在この生徒さんがかかっておられる心理療法士の対応は、(メールからは表面的なことしかわかりませんが)、精神医学の常識からすれば正しいとは言えないでしょう。ご指摘のように、単に本人の自尊心を満たすだけでは一時的な安定しか与えることしかできず、どこかで破綻する(つまりいつまでも自尊心を100%満たし続けることは不可能なので)ことが当然予想されます。治療者(心理療法士であれ、医師であれ)が携帯などでも相談に乗るというのは、一見すると親身になっているように見えますが、一般的には密着しすぎで不適切とされる対応です。
 けれども、だからといって間違いであるとも言い切れません。何より大切なのは、本人が何らかの治療を継続して受けることですので、いくら正しいとされている治療でも、本人に受ける意志がなければ何の意味もないのは明らかです。今の心理療法士の方の治療は、まずは本人との信頼関係を築くためのもので、真の治療の前段階としてやっておられるのかもしれません。現実にはそういうことが必要なこともあるものです。
 また、そこまで考えていないとしても、「誤っている」とされる治療法でも、治療者の熱意のためか、結果としてはうまくいくこともあります。(ただし私の経験では、そういうことは極めてまれで、患者さんと密接になりすぎる治療者は、それが医師であれ心理療法士であれ、結局は破綻することが多いように思います)
 で、「このまま現在の心理療法士にかかっていていいのか」というご質問に対しては、結局は何とも言えません。経過を見ていくしかないと思います。
 なお、教師であるあなたの対応としては、お書きになっている「できることとできないことをはっきりさせ、見捨てず見守る」が、まさに適切だと思います。


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