精神科Q&A
【0233】人格障害による迷惑電話等の行為への対応について
Q: 39歳男性です。キリスト教会の牧師をしておりますが、職務上関わっている人(47歳男性)のことで、相談があります。この人は昨年当方の教会に来て、家族に暴力をふるってしまう自分を変えたい旨を話されました。その後数回面談しました。以後しばらくは、教会の礼拝にも真摯な態度で熱心に出席していました。しかし、当時から問題点を感じさせる要素があり、それは、
(1) 自分の内面的なことや、家族関係について話そうとしない。
(2) 牧師である私に対し、過度に依存的な態度・傾向がみられた。
(3) 過度に自己満足的な態度(こちらの話を全部聞かずに早合点し、勝手に感動するなど)。
という3点です。このうち、(1)については、話したくないものを無理に聞き出すこともないと思っていましたが、本人が聞いてほしいと話し始めたはずなのに、いつのまにか話をはぐらかし、無関係な方向にもっていくということが度重なり、おかしいと感じ始めました。
その後、急速に酒量が増えた様子で、また家族との関係も悪化し、夜中に警察が来る、奥さんが夜逃げする、などの出来事がおこりました。また、当時、彼の長男が登校拒否状態にあったのですが、その原因が学校側にあると一方的に決め付け、担任を自宅に呼びつけて怒鳴る、学校や教育委員会に1分おきに電話をかけ続け混乱に陥れる、などの行為を繰り返しました。
しかし、なぜか私が間にはいって仲裁するとおとなしくなるので、家族や学校の先生たちの依頼によって私が仲裁に駆けつけるということが度重なりました。そういった出来事の中に彼の過度の依存を感じ、問題に思いながらも、当面の問題解決のために私が動くということが続きました。
その後、家族からの要請によって、家族と共に彼を説得し、病院(アルコール病棟)に入院させました。しかし、本人は治療意欲がまったくといっていい程なく、治療プログラム終了前に退院してしまいました。入院中、病院のスタッフもかなり彼には手をやいていたようです。
退院後、病院にいれられたという逆恨みから私との関係が急速に悪化し、何度も罵倒をくりかえすようになり(それ以前から私に対しては、無条件で尊敬するかと思うと手の平を返したように罵倒するということが繰り返されていましたが、この頃からは罵倒のみになりました)、教会の電話がなりっぱなしになりました。怒っているときには会話することはできない旨を何度も繰り返しつたえましたが、一方的な電話が続きました。
私も精神的にまいってきたので、精神保健福祉センターの保健婦さんに相談した上で、電話を一時つながらないようにする措置をとりました。しかし、今度は教会以外の私の関係している施設にまで迷惑電話が何回も掛かってくるようになりました。何とか電話をやめさせる方法がないか、福祉保健センターに相談しましたが、「当方には強制執行力がないので警察に相談してほしい」といわれ、警察に相談したところ、「迷惑電話だけでは身柄の確保などはできない。せいぜい電話で注意するくらいしかできない。ガラスが割られたり暴力をふるわれたりという被害があったら110番してくれ。また、家族が同意すれば措置入院(医療保護入院の誤りか?)ができるだろう」とのことでした。
私の精神的ダメージも大きく、また迷惑電話等により教会の業務にも支障をきたしています。警察も保健所関係も病院も役所も(ある意味では当然かもしれませんが)、所掌する範囲以上のことは決してしてくれず、途方にくれていたところ、先生のHPにある境界性人格障害の解説を拝見し、彼の症状・現状についてようやく納得がいきました。
さて、ここで質問ですが、今後私はどのような対応をとるべきでしょうか。彼からのコンタクトが無い限り、私から関わることはしないことに決めましたが、迷惑電話などがあった場合、どのような対応をとったらよいでしょうか。
彼の家族は、措置入院あるいは医療保護入院が可能であれば同意しますといっています。
このようなケースでは、医療保護入院は可能なものでしょうか?
林: ご本人のために真摯に努力されたのにもかかわらず、逆に恩を仇で返され、精神的ダメージを相当受けておられること、お察し申し上げます。また、迷惑電話により実際的な被害、特にあなた自身の信用を損なうような事態になっていることにもご心痛のことと思います。
ご質問にお答えする前に、まずこの47歳の男性の診断ですが、ひとつはアルコール依存症、さらに人格障害(おそらくは境界性人格障害)があることはまず間違いないと思います。
ただし、アルコール依存症の人の大部分は人格障害ではありません。また、境界性人格障害の人の大部分がこのように人に多大な迷惑をかけるわけではありません。ですからこの人は例外的なケースです。まずそのことをご理解いただきたいと思います。
逆に言うと、この人のようなまれなケースに対しては、決まった対応方法というものはなく、ケースバイケースで応じるしかないというのが実情です。画期的な方法はありません。
まず迷惑電話をはじめとする迷惑行為に対してですが、原則として必要なことは、対応の仕方を統一するということです。たとえば掛かってきたらすぐ切るとか、何か事務的な決まった言葉を告げてから切るなど、みんなで統一した形で対処することです。境界性人格障害でもこの種の人は、特に他人を操作する術に長けているということにも留意が必要でしょう。
それから医療保護入院や、場合によっては措置入院も可能だと思います。ただし、入院が解決につながるかどうかは別です。こういう人に関しては、入院は一時的な手段にすぎず、退院後また同じことが繰り返される可能性が大きいかもしれません。
以上、どれもあまり有効な対策とは言えず申し訳ありませんが、これが現実というものです。
なお、繰り返しになりますが、境界性人格障害やアルコール依存症の人の中で、この人のように多大な迷惑をかけるケースはまれだということをもう一度ご理解ください。