精神科Q&A
【0183】うつ病とは言えないが、だからといって普通の落ち込みとも異なる「うつ」と擬態うつ病の関係は?
Q: 擬態うつ病拝読しました。内容については理解したつもりです。うつ病以外の病気、または通常の範囲の気分の落ち込み、特に後者の方々が病気という名のもとに不毛な治療を続けることにより、自他ともに及ぼす不利益があるということでしょうか。
ですが、特に著書のほうを見ると、「うつ病」と「擬態うつ病」のコントラストをはっきりさせるためか、例えば「うつ状態」「抑うつ神経症」「軽症うつ病」などと呼ばれるものについて、要するに「『うつ病』とは言えないが、通常の気分の変調とは異質の『うつ』と呼ばれる症状」についての記述が見当たらないように感じました。
これは、私の理解の仕方がよくなかったためでしょうか。それとも、このようなもの自体、先生の定義される「擬態うつ病」になるのでしょうか。
この質問をした理由は、正式な(?)うつ病でなくても、確かに「甘え」とは別の苦渋を味わっている状況の人にとって、「擬態うつ病」の定義は一種の不安を起こすものであるという気がしたからです。「うつ病」と呼ばれないにしろ同じようなうつ状態にある人が、「これは甘えなのか?」とますます落ち込んだり、混乱したり、また、苦しくても表面上、仕事や日常生活をこなしている人に対して、周囲の人が「おまえのは擬態だ」と思って、つらくあたったりしないか?というのが私の危惧していることです。
長くなりましたので、要点をまとめますと、「『うつ病』とは言えないが、通常の気分の変調とは異質の『うつ』と呼ばれる症状」についての先生のお考えをお聞かせ願えれば、ということです。
林: 私の著書を丁寧に読んで頂きありがとうございました。
うつ病とは言えないが、だからといって普通の落ち込みとも異なる「うつ」と擬態うつ病の関係は?
というポイントにお答えする前にひとつ。擬態うつ病の「擬態」とは、別に悪いという意味ではありません。これはたとえば68ページ、「擬態というのは、結果的に似ているということで、最初からニセ物を作ろうという悪意によるものではない。本物に似ているからこそ、自然に、必然的に増殖しているのである。」などをお読み頂ければ明白だと思います。
とは言うものの、本というものは誰もがすみずみまで読むとは限りませんので、「擬態」という単語の持つイメージのために、擬態うつ病というのはニセでよくないものだ、と漠然と感じてしまう方がおられるのは理解できるところです。それなのにこの言葉を使った理由は、ご指摘の通りで、うつ病とそれ以外のもののコントラストをはっきりさせるためです。その他の意味はありません。もうひとつ付け加えますと、擬態うつ病という本を書いた意図は、うつ病とそれ以外のもののコントラストをはっきりさせることによってうつ病とはどういうものかを伝えたかったということです。つまりポイントはうつ病の方であって、擬態うつ病の方ではないのです。このことはあとがきにも書きました。(201ページ)
前置きが長くなりましたが、ご質問のポイント、「うつ病とは言えないが、だからといって普通の落ち込みとも異なる「うつ」は擬態うつ病に入るのか」という点については、もうおわかりと思いますが、イエスです。擬態うつ病とは、定義上、「本当の」うつ病以外のすべてのうつ状態を指すからです。例としてあげられた「うつ状態」「抑うつ神経症」「軽症うつ病」などのうち、「抑うつ神経症」は、定義上擬態うつ病に入ります。「うつ状態」と呼ばれるものの中には、うつ病もそうでないものも含まれますので、どちらとも言えません。ただ一般的な診断のつけ方の傾向としては、うつではあるがうつ病ではない場合に「うつ状態」とか「抑うつ状態」とつけることが多いので、そういう場合は擬態うつ病に入ります。それから「軽症うつ病」は、名前をそのまま解読すれば「うつ病。ただし軽症」ということになるので、擬態ではないことになりますが、こうなると言葉のアヤのようなもので、本当はどういう病態を指しているかはケースバイケースだと思います。
もう一度念のため言いますと、「擬態」というのは悪いという意味ではありません。この点はご注意いただきたいと思います。擬態うつ病であっても、本人のつらさはかなりあるものです。ただしそれを私があえて「擬態うつ病」とした理由は、一般に流布している「うつ病」に関する情報(たとえば、抗うつ薬を一定期間飲めば治る、など)は当てはまらないからです。
この回答を読まれて、まだ不明確な点や納得できない点などがありましたら、またメールを頂ければ幸いです。