精神科Q&A
【0154】 うつ病と診断されている妻は、境界性人格障害か?
Q: 42歳の妻は、10年以上通院投薬を続けていますが回復はあまりみられません。うつ病という診断で抗うつ薬、抗不安薬などが処方されていますが目に見える効果はないようです。
妻は、今の病状の原因は自分の弱さにもあるがその主な原因は私にあり、治らないのも私のほうに原因があると言っています。些細なことで興奮し私を罵倒します。その勢いで家を出ようとすることもあり、止めようとして腕をつかんだりすると暴力をふるったといって警察を呼びます。警察がきたとき説明のためうつ的傾向があり不安定になっていると警官に話したところ、妻は他人にプライベートを話すのは人間として最低であるとして私に謝るよう強要しました。攻撃的になるのは私にだけであり、他人に対しては(上記の警官などを含め)比較的冷静に対処しています。
妻は一年程前から家事ができなくなり、それ以来私が会社を休み家庭のことを一切やっています。私が家事をすることについては、妻は自分はうつ病だから当然だと思っているようです。また、うつ病で楽しいことはないからと言って、通信販売でアクセサリーなどを毎月十万円程度買い続けています。注意すると自分のすることにいちいち干渉しないでくれと言って興奮します。尚、私に対しては攻撃的である一方非常に依存的です。
そんなわけで私は、腫れ物に触るような状況で妻に接しています。先生の著書擬態うつ病の23ページの「自称うつ病」の方にかなり似ているように感じています。抗うつ薬が効かないこと、自分ではなく他人(夫である私も、この文脈では「他人」に入ると解釈しています)を責める傾向が強いこと、などの理由から、うつ病ではなく、むしろ擬態うつ病か、あるいは境界性人格障害その他の病気かと思われますが先生のお考えを聞かせて頂けたらと思います。
林: 奥様はうつ病ではありません。理由はまさにメールにお書きになっておられる通りで、一番はっきりしているのは、自分以外の人を激しく攻撃し、その一方で依存も強いという点です。これはご指摘の通り、境界性人格障害の方によく見られる特徴です。
擬態うつ病をお読みになって頂いたようですので、たとえ医師がうつ病と診断していても、実はうつ病でないことは多いことはご理解頂けていると思います。(擬態うつ病の61ページ以後に書いてあります)。ただ、奥様のケースでは、医師が本当にうつ病と診断しているかどうか、もう一度確かめる必要があると思います。もし本当にうつ病という診断で治療されていたら、転医を考えるべきでしょう。「確かめる必要がある」というのは、医師は本当はうつ病とは考えていなくても、本人や家族から「うつ病ですか?」と聞かれれば曖昧に肯定することは多いからです。また、「うつ状態」という漠然とした説明をすることもよくあります。本物のうつ病以外には抗うつ薬の切れ味はあまりよくないのですが、それでも症状をコントロールするためには、人格障害の方に対しても抗うつ薬を処方することはむしろ普通です。抗不安薬が処方される頻度はさらに高いでしょう。ですから処方されている薬やカルテの病名からは、主治医の下している本当の診断名はわかりません。(抗うつ薬を処方するためには、保険上、うつ病またはうつ状態という病名をつける必要があるのです)。もう一度主治医の見解を確認の上、今後の方針を再考されるべきだと思います。メールを拝読した限り、奥様は人格障害の範疇に入るように思われます。境界性といえるかどうかまでははっきりわかりかねますが。
なお、メールの最後に、「擬態うつ病か、あるいは境界性人格障害など・・」と書かれていますが、「擬態うつ病」は、本物のうつ病以外で、うつ病に似ているものの総称ですので、境界性人格障害なども一種の擬態うつ病とお考え下さい。と言っても、これは私の造語ですので、学問的な意義は乏しいのですが。