精神科Q&A

【2162】覚せい剤使用で少年院に行った息子は、精神病なのか、私が叱りつけた事が原因で非行に走ったのでしょうか‏


Q: 私は40代女性です。こんな質問はこちらにはふさわしくないようにも思いましたが、息子の状態は、ただの非行なのか、それとも精神病なのか、それとも私が原因を作ってしまったのか知りたく、先生のお考えをお聞きできたらと思いメールを書いています。 息子は健康な体で生まれましたが、幼いころは姉たちがトランプをして遊んでいれば並べたトランプをバラバラにしてしまう、私が友人と長電話をしていると、バケツに水を汲んできて床の上にばらまき、びしょびしょにしてしまう、お友達をつっついたりして注意を引くけれど、限度が分からずそのまま泣かせるまで叩いてしまったり、落ち着きのない幼児時代だったと思います。構ってほしかったのだと思いますが、あまりに酷いので、叩いてひどく叱ったこともありました。 このころ、母親である私は、姑、大姑、義理の妹、義理の叔母とうまくいかず、表面上は普通に接していましたが(妹や叔母が毎日遊びに来ていました)心の中はひどく傷つき、煮えくり返っていた時期でもあります。八つ当たり的に叱ってしまったりしていた時期がありましたが、反省してそんな叱り方はやめました。夫は私がそんな状態であることに気が付かなかったようです。
小学生のころは、興味のあることには積極的に発言をしたりしていたようですが、どちらかというと教室でじっとしていることが苦手で立ち歩いたり、行動が自分中心だったりすることが多く、6年間続けたサッカークラブでも、親しい友人はできず、仲間外れになっていたこともあったようです。構ってほしくてしつこくしてしまう、こだわりが強い(靴ひもはしばった両端が同じ長さでないと納得せず、できないと癇癪を起す)靴下の縫い目が気になり、縫い目が当たる靴下をはかせるとやはり癇癪をおこす。服の襟もとのラベルが肌にあたることが気になり怒るので、当時の服のラベルはみんな切り取りました。 小学4年の時、カードゲームにはまり、コンビニで万引きをしてきました。もちろんコンビニでお金を支払い、子供と一緒にお詫びをしてきました。 成績は中の下でした。じっと座るのが苦手なので、集中力もあまりないように感じました。でも、子供らしい明るさと元気の良さがあると思っていたので、この子の個性、と受け止めていました。
中学に入り、立ち歩きや靴下などへのこだわりは軽減してきたようでしたが、お友達へのしつこさは相変わらずで、そのことが原因で取っ組み合いのけんかに発展してしまったことも何回かありました。そのつど、加減しないといけないでしょう、と注意しながらお詫びをしました。部活のサッカーは頑張って通っていましたが、変わらず自分中心のプレーで、最終的に引退試合ではレギュラーを外され、自分の思う結果は残せませんでした。引退した後も、後輩に個人技を教えたりして頑張っているように見えましたが、受験に集中するよう禁止されてしまいました。そのころから友達が変わり、「うちは厳しすぎる、ほかの家はもっと自由だ」と言うようになり、夏休みを過ぎ周りが受験モードになってくると完全にその雰囲気から外れ、塾も行きたくないと逃げ回り、2階から飛び降りるようなお芝居をしたり、ストレスからか、塾帰りに万引きを繰り返していた時期もありました。そんなに塾が嫌ならと辞めさせました。
それから夜遊びが始まり、高校へは進学したくないと目標を失い、その代わりに学校の遅刻やさぼり、友人や先輩宅への無断外泊などが始まりました。親が何としても止めようとすればするほど生活や態度が乱れていきまして、夜中にこっそり女子を連れて帰ってきた際、朝気が付いて夫が叱ると家を飛び出して外の石を家に投げつけ、家のガラス窓の1階は全部と2階の一部全部で22枚割ってしまいました。
その後、家出を繰り返すので、本人の行きそうな先輩の家などに夫が行き、無理やり連れ戻すなど何回かしましたところ、「なんで自分の行く場所がわかるんだ、盗聴器を仕掛けていやがる」と電気やコンセント類などを破壊したり、分解して壊してしまいました。
やっとのことで入学を決めた私立高校もすぐに辞めてしまい、暴走族に入り、窃盗で鑑別所に入りました。その後、保護観察処分になり、家に帰ってきました。親のつてで入社させていただいた塗装店で働いたりさぼったりしながらも1年半ほど勤めました。皮肉なことにその頃シンナーを覚えたようです。 取り上げても隠してもすぐどこからか仕入れてきてしまう、叱っても全く効果はなく、叱ったり説得したりすればするほど酷くなるという経験から、「体に悪いことはやめてほしい、そんな姿を見るのは悲しい」と伝える程度にしていました。暴走族仲間でシンナーやガスパンをやっていても、時期が来ればやめるという話も多く聞くので、ただの遊びだ、と考えるようにしていました。そう考えないと辛すぎました。でもしまいには一日中吸っているようになってしまい、保護してもらうしかない、と断腸の思いで警察に願い出たところ、「ガスパンは違法ではない。シンナーは現行犯で、かつ自分で吸入を認めないと逮捕できない」と相手にされませんでした。
この頃になると、本人も体がきつく、幻聴や幻覚が出てきて困るようで、自分から「病院へ行きたい」と言うようになりまして、薬物依存専門の病院へつながることができました。精神科での病名は「薬物性精神病」との診断でした。 リスぺリドン、スルピリド、レキソタン、ニューレプチル、ロヒプノール、リスパダール、レンドルミンなどか処方されました。それらを服用すると一日中寝たきりだったり、体調もすぐれず、新しく見つけてきた造園屋の仕事にも差支えたため、今思えば不適切でしたが薬を控えたりしました。
そのあと、シンナーやガスパンは辞めていたので、本人は自助グループ、親は家族会に参加してみようとしていた矢先、家の中から注射器が見つかったので、まさかとは思いましたが保護司へ相談の上、警察に通報しました。 今は覚せい剤使用の罪で、中等少年院長期の処遇を受け、少年院へ入っています。 
幼いころは、落ち着きのなさ、こだわり、順番が待てない、じっとしていられない、という症状があったため、ADHDではないかとも思いましたが、学校その他で指摘されたことはありませんでした。どこに相談したものかと考えながら時を過ごしているうちに中学生になり状態が軽減したようでしたので、思春期特有の反抗かと考えたり、非行の対応をしながら、結局こんなことになってしまいました。 2人の姉は普通に成長し、非行が始まっても特に差別することなく、本人が寄ってくれば話し相手をするなどそこそこの兄弟関係だったと思います。親としても、仕事で多忙ではありますが、贅沢はできませんが家族でささやかな旅行をしたり、子供たちとのコミュニケーションを楽しんでいました。 なのに、どうしてこんなことになってしまうのでしょうか。仲良くしていれば、多少の非行はあっても一線を越すことはないだろうと信じておりましたが、本当に辛く、すべてに自信がなくなってしまいました。
ちなみに、少年院では本人頑張って過ごしており、幸い今のところ依存症の症状は出ていないということで、医療少年院へは行かず、一般の処遇を受けています。少年院でも精神科の先生が診察してくださっており、特に指摘がないので発達障害や精神病もないということです(直接医師の先生とはお話が出来ず、担当の先生から聞きました。) が、中学生の時「盗聴器が仕掛けられている」という発言があり、このサイトの記事を読んでいて、統合失調症の発現だったのでは、など考えてしまいました。家族関係に問題がないように思っているので、薬物の乱用に走ってしまうのは、なにか精神病があるのではないかと思ったりするのです。それとも、問題がないと考えているのは私が自分で気づかないだけで、私におかしいところがあるのでしょうか。それとも、対応がいちいち不適切だったのでしょうか。幼いころ叱りつけたことがトラウマとなり、愛されていないと感じさせてしまったのでしょうか。
来年少年院から出てくるので、親の支援のもとに精神科に繋がった方がいいのか、または、問題に気が付かない親元などに帰ってくるより親から離れて(本人が望めば)ダルクの寮などでしばらくお世話になるのがいいのか、何が本人のためになるのか考えてしまっています。 息子の精神的になにか病気があるのなら、それを知って、これからの道筋の参考にしたいと思うのです。よろしくお願いいたします。 お忙しいところ長々申し訳ありません、読んでいただいてありがとうございました。


林: 長い経過、それも、母親である質問者にとってつらい経過を、詳細にお書きいただきありがとうございました。
回答を要約すると、
息子さんには、ADHDないし発達障害の傾向が認められる。これが、十代になってからの薬物乱用等の行動に相当に影響している。
ということになります。

以下、順にご説明していきます。

幼いころは姉たちがトランプをして遊んでいれば並べたトランプをバラバラにしてしまう、私が友人と長電話をしていると、バケツに水を汲んできて床の上にばらまき、びしょびしょにしてしまう、お友達をつっついたりして注意を引くけれど、限度が分からずそのまま泣かせるまで叩いてしまったり、落ち着きのない幼児時代だったと思います。

これらからは、ADHDの疑いありといえます。
そして、

こだわりが強い(靴ひもはしばった両端が同じ長さでないと納得せず、できないと癇癪を起す)靴下の縫い目が気になり、縫い目が当たる靴下をはかせるとやはり癇癪をおこす。服の襟もとのラベルが肌にあたることが気になり怒るので、当時の服のラベルはみんな切り取りました。

こうしたこだわりは、発達障害にしばしば認められるものです。そして、一般に、ADHDと発達障害の区別は必ずしも明確ではなく、ある一人の方に、両方の傾向が認められることはよくあります。この【2162】のケースもそうであるといえます。

中学入学後の、

お友達へのしつこさは相変わらずで、そのことが原因で取っ組み合いのけんかに発展してしまったことも何回かありました。

この記載をはじめとする友人関係の困難さは、発達障害(の傾向)が大きく影響していると判断すべきでしょう。

その後のいわゆる非行の範疇に入る行為も、その影響をぬきにして考えることはできません。
 また、

家出を繰り返すので、本人の行きそうな先輩の家などに夫が行き、無理やり連れ戻すなど何回かしましたところ、「なんで自分の行く場所がわかるんだ、盗聴器を仕掛けていやがる」と電気やコンセント類などを破壊したり、分解して壊してしまいました。

これは、質問者がご心配されているように、統合失調症の発症という可能性もないことはありませんが、この【2162】の症状と経過の全体像からみて、発達障害(の傾向)を基盤にした、妄想的な反応とみるほうが妥当だと思います。

その後の、

幻聴や幻覚が出てきて困るようで、

については、症状の具体的記載がありませんので判定不能です。しかし、この時点ではかなり違法薬物を使用しておりますので、薬物が原因の可能性が高いとみるべきでしょう。

覚せい剤を始めてからは、覚せい剤による精神症状がかなり重なっていると思われますので、個々の症状について、その原因をひとつにしぼることはもはや不可能です。

以上、冒頭に要約した通り、

息子さんは、ADHDないし発達障害の傾向が認められる。これが、十代になってからの薬物乱用等の行動に相当に影響している。

といえると思います。その意味では質問者の、

幼いころは、落ち着きのなさ、こだわり、順番が待てない、じっとしていられない、という症状があったため、ADHDではないかとも思いました

という推定は正鵠を射ていたといえます。
けれどもここで、

が、学校その他で指摘されたことはありませんでした。

という事実、さらには、

少年院でも精神科の先生が診察してくださっており、特に指摘がないので発達障害や精神病もないということです(直接医師の先生とはお話が出来ず、担当の先生から聞きました。)

ということからすると、ADHDや発達障害と診断できるレベルではなかったとも考えられます。ここまでの回答で
発達障害(の傾向)
という表現を取ってきた理由はそこにあります。

そういたしますと、

2人の姉は普通に成長し、非行が始まっても特に差別することなく、本人が寄ってくれば話し相手をするなどそこそこの兄弟関係だったと思います。親としても、仕事で多忙ではありますが、贅沢はできませんが家族でささやかな旅行をしたり、子供たちとのコミュニケーションを楽しんでいました。 なのに、どうしてこんなことになってしまうのでしょうか。

という疑問が生まれるのはよく理解できるということになります。そして、

仲良くしていれば、多少の非行はあっても一線を越すことはないだろうと信じておりましたが、本当に辛く、すべてに自信がなくなってしまいました。

という悲痛な叫びもよく理解できるところです。

発達障害という診断

発達障害の傾向
の区別は、そもそもが曖昧なものです。そこには明確な基準はなく、ある程度は恣意的に線を引く以外にありません。そして、
発達障害でない人を発達障害と診断してしまうことによる、本人や家族のデメリット
もある一方で、
発達障害の人を発達障害でないと判断してしまうことによる、本人や家族のデメリット
の両方が存在します。
これは、アスペルガーをはじめとする発達障害という診断名が一般に広く知られることによって、多くの場面・人々に直接関係する大きな問題になっています。(これについては、サイコバブル社会 に詳しくお書きしてあります)

この【2162】のケースは、学校や矯正施設で、発達障害が見落とされてきたのかもしれません。あるいはそうではなく、発達障害と診断できるレベルではなかったのかもしれません。けれども、もし後者であるとしても、「発達障害の傾向」が、今の【2162】の方の状態を作った大きな原因の一つであることは否めません。すなわち、いわゆる「発達障害の二次的障害」であるといえます。

したがって、

幼いころ叱りつけたことがトラウマとなり、愛されていないと感じさせてしまったのでしょうか。

とは言えないまでも、

対応がいちいち不適切だったのでしょうか。

というふうに言うことは可能です。
ただしそれは結果論であって、決して質問者である母親に責任があるということはできません。結果からみれば、
発達障害としての対応をしてきていれば、こうはならなかった
といえるというにすぎません。あくまでも「結果からみれば」です。
しかしながら、サイコバブル社会にお書きしたように、「発達障害の傾向のある人を、発達障害と診断する」ことによるデメリットも厳然と存在しますので、この【2162】のようなケースの場合、どのようにするのが最善だったかは非常に難しい問題と言わざるを得ません。

(2011.12.5.)


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