●● サイコバブル社会
   膨張し融解する心の病
    林 公一 著  技術評論社
  2010年6月25日発売

まず、事実から。
(1)心の病についての情報は、かつてないほどの勢いで広まっています。
(2)気分障害(うつ病など)患者数は、この10年間で2倍以上に増え、100万人以上になっています。
(3)メンタルクリニックの数は、この10年間で約2倍です。
(4)抗うつ薬売り上げは、この10年間で約5倍、1000億円市場になっています。
(5)ハラスメント、虐待は、かつてないほど問題視されています。
(6)ストレスは、かつてないほど問題視されています。

 どれも、心の病に関する事実です。
 けれども、では、(1)〜(6)のうち、どれが原因で、どれが結果でしょうか。
 たとえば(2)の患者数と(4)の抗うつ薬売り上げ高との関係は? 患者数の増加が原因で、その治療のために抗うつ薬が使われたのでしょうか。だとすれば(2)が原因で(4)が結果です。でももしかしたら、逆に(4)が原因で(2)が結果ではないでしょうか。つまり、膨れ上がった抗うつ薬市場の維持のために、うつ病の診断が乱発されているのでは?
 (2)の患者数と(3)のメンタルクリニック数の関係についてはどうでしょうか。これも(3)が原因で(2)が結果ということはないでしょうか。つまり、急増したメンタルクリニックの維持のために、心の病の診断が乱発されているのでは?
 (5)のハラスメントや虐待、そして(6)のストレスは、本当に増えたのでしょうか。増えたのは実数ではなく、情報だけではないでしょうか。
 すると(1)の「心の病についての情報」が、(2)(3)(4)(5)(6)のすべての原因?

もちろん心の病についての情報が広がることによる恩恵ははかり知れないものがあります。その結果、多くの人々が早い段階で精神科を受診して適切な治療を受けることが出来るようになっています。

しかし他方、病気でないのに精神科を受診し、「病名を欲しがる人」がじりじりと増えていることも否めません。また、そうした人々に対し、精神科医はすぐに病名をつけすぎるという批判も水面下に生まれています。いや、すでに水面に浮上しているといえるかもしれません。精神科医は、ノーマルな心をアブノーマルと診断して、不要な、ないしは、無効な治療をしている。このような精神科医の姿勢をアブノーマライゼーション、それに対する社会からの反動をネオ反精神医学。本書ではこのように名づけてみました。

心の病の人々を救うための情報の広がり。それによる恩恵を光とすれば、光には必ず陰を伴います。アブノーマライゼーション、そしてネオ反精神医学がこの陰にあたります。陰がこのまま拡大すれば、本当に必要な人に医療が届かなくなる。それを危惧して私はこの本を著しました。

なお、サブタイトルの「膨張」「融解」は、それがそのままタイトルのサイコバブルを示しています。「膨張」はともかく、「融解」の英語がバブル? それについてはこの本を手に取ってお読みください。
心の病の膨張が、心の病を融解させ、そして心の病の融解が、心の病のさらなる膨張を引き起こしている。その相乗作用が日々進んでいる、それが現代社会であり、本書のタイトル、『サイコバブル社会』です。


1章 うつ病
2章 アスペルガー障害
3章 アルコール依存症
4章 PTSD
5章 サイコバブルとサイコバブル

章タイトルを見ると、1章から4章は病気の解説のようですが、実際には病気を通してサイコバブル社会の問題を見て感じていただくという内容です。5章「サイコバブルとサイコバブル」は、誤記ではありません。「膨張」と「融解」を表す章タイトルです。その説明も、本の中にあります。


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