精神科Q&A

【1743】のぞかれている・強迫・自分の考えにツッコミが入る・・・


Q: 長男の精神的な症状がどういう治療で改善するのかアドバイスお願いします。現在17歳ですが、一昨年の高校一年のときに友人関係や勉強についていけなくて外出するのが怖くなりカーテンの隙間からのぞかれているような気がして精神科を受診しました。2週間程度ルーランという薬をもらって飲んでいましたが一向によくならないし不安が強くなり精神的にかえって動揺が激しくなったので、先生も内服をとめて様子をみようということになりました。そのうち覗かれているという感覚はうすれましたが今度は精液にまつわる不潔恐怖で手洗いの強迫性障害が始まりました。ルボックスを処方してもらい3週間ほどのませましたが手洗いは改善せず、真夜中になるとかえって不安が強くなるので先生に相談すると薬も必ずしも効くというわけでもないので止めて様子を見ることにしました。手に何かぬるぬるした感じがとれなくて5時間も浴室からでてこないこともありすべてが汚いので家も引越さないといけないしすべてのものを捨ててくれと言われました。何で僕だけがこんなめにあうのか。みんなは楽しく学校に行ってるのにもう死にたいといって包丁を自分にむけて、お母さんごめんな。と自殺めいたことも2,3回ありました。心の問題だけなのか精神科の先生に聞いても経過を見ないとなんともいえないといわれ本人も副作用を気にしてずっと無投薬でカウンセリンのようなこと(自分を責めない。自分を認めて周りに感謝する)を受けて少しずつよくなっていつのまにか手洗いもすっかりなくなっていました。
集中力がなくなって勉強は相変わらずできないようでしたが、高校中退したため大学受験をめざして予備校に通いだしました。朝起きられないのでサボっている日のほうが多いながらも少しずつ以前の息子に戻ってきたと喜んでいました。
ところが、最近性的な雑誌を書店で購入してからまた汚れているという感情が再発して手洗いがはじまり、その雑誌から何かが飛んで周りが汚れた気がして気持ちが悪いそうです。生きてる心地があんまりしなくてなにかを考えようとすると頭がしまった感じがして痛くなりふらっとしたり、眼のピントがあわなくて眼が出てる感覚だとか、予定をたてるとしょっちゅうお腹が痛くなってしまい思い通りにいかないといってかんしゃくをおこし大声をだすかと思えばわあわあ泣いたりすることもあって精神的に不安定です。そうかと思えば本人は無理に笑おうとしてんねんといいますがはたからみればテレビをみて楽しそうに笑っています。本を読んでも字を読んでいるだけで全然頭にはいってこないで理解できないし、いつもボーとした感じが続いているそうです。食欲も食べないわけではないけどおいしいと感じられないし、いくら食べても満腹感がなく、逆に食べなくてもあまり空腹感も感じないそうです。こめかみの頭痛を強く訴えるので2ヶ月ぐらい前に MRIもとってもらいましたが問題ないようでした。なんとか大学に行きたいと思っているのに、勉強をしないと駄目だと思うのに、もうどうでもいいやと思ったり、自分の考えがうまく整理して正確に伝えられないとだめだから精神科にいってもどうせわかってもらえない。もうあかんと思うと汗がでてきて体がしばられたようで不安が増すようです。兄弟と話をしてるときは全く普通の会話のようだし、本人も時々いい感じだけど中学生の時のように頭がすっきりした感じはこうなってからほとんどなくて、聞いたはずのこともよく忘れるし言葉がときどきはっきりしゃべれないといってます。【1329】のような関係念慮と似たこともよく話しています。自分の考えにツッコミがはいるような考えが同時に頭の中にうかんできてつらそうにしているときもありました。声が聞こえるの?ときくとそうでもないようです。長くなりましたが、今は精神科にいくべきだと思っていますが、どういった病気でどういった薬が必要でしょうか?


林: 息子さんは統合失調症にほぼ間違いないと思います。早急に精神科を受診し、薬物療法を始める必要があります。

一昨年の高校一年のときに友人関係や勉強についていけなくて外出するのが怖くなりカーテンの隙間からのぞかれているような気がして精神科を受診しました。

「カーテンの隙間からのぞかれているような気がして」は、統合失調症の発症と解釈できる症状ですが、これだけですと特に病気でなくてもあり得ることですので、そのときにご本人から直接お話を聞かないと、統合失調症の徴候らしい訴えかそうでないかは判断できません。けれども、

2週間程度ルーランという薬をもらって飲んでいましたが

このようにルーラン(抗精神病薬)が処方されたということは、その精神科医は、統合失調症の可能性ありと判断したと考えられます。しかし、

一向によくならないし不安が強くなり精神的にかえって動揺が激しくなったので、先生も内服をとめて様子をみようということになりました。

このことからは、統合失調症の可能性はあっても、まだまだわからないとその精神科医が判断していたことが窺われます。けれども、

そのうち覗かれているという感覚はうすれましたが今度は精液にまつわる不潔恐怖で手洗いの強迫性障害が始まりました。

この経過を見ますと、この時点でやはり統合失調症の可能性はかなり高いと考えるべきです。強迫という症状(「不潔恐怖」は強迫の一つです)は、強迫性障害の典型的な症状ですが、統合失調症の初期にもあり得ることは【1165】【1317】などの実例からもわかる通りです。そしてこの【1743】のケースでは、強迫症状の前に、「カーテンの隙間からのぞかれているような気がして」という症状が認められていますので、統合失調症の可能性がきわめて高いといえます。
そしてさらに次の経過、

生きてる心地があんまりしなくてなにかを考えようとすると頭がしまった感じがして痛くなりふらっとしたり、眼のピントがあわなくて眼が出てる感覚だとか、

本を読んでも字を読んでいるだけで全然頭にはいってこないで理解できないし、いつもボーとした感じが続いているそうです。

これらも、統合失調症の初期症状として矛盾はありません。
これらがなぜ統合失調症の初期症状といえるのかということの説明はなかなか難しいのですが、統合失調症 患者・家族を支えた実例集 のケース2などがご参考になると思います。

【1329】のような関係念慮と似たこともよく話しています。

これは診断のためにきわめて重要な情報ですので、具体的な内容をお書きいただきたいところでした。残念ながら「関係念慮と似たこと」という記述だけでは、診断的な価値はほとんどありません。しかし、

自分の考えにツッコミがはいるような考えが同時に頭の中にうかんできてつらそうにしているときもありました。

これは統合失調症のかなり典型的な症状です。したがいまして、ここまでの経過とあわせ、息子さんが統合失調症であることはほぼ間違いありません。

声が聞こえるの?ときくとそうでもないようです。

これは、幻聴の有無をお確かめになろうとしたのだと察せられますが、このような直接的な質問で幻聴の有無がわかるとは限らず、また、発症の初期にははっきりとした幻聴はないことも多いので、幻聴が確認できないことは、統合失調症の診断を否定する根拠にはなりません。むしろ、上記の、「自分の考えにツッコミがはいるような考えが同時に頭の中にうかんできて」は、自分の思考が自己の所属性を失っているというもので、統合失調症にきわめて特徴的な体験です。これを自我障害の表れといったり、自生思考といったりすることもありますが、このような体験からはっきりした幻聴体験に移行していくのが、統合失調症の一つの典型的な経過です。

以上、息子さんは統合失調症にほぼ間違いありません。この時期には、突然に激しい取り返しのつかない行動が見られることも少なくありません。早急に精神科で治療を始めてください。



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