精神科Q&A

【1698】躁うつ病とアルコール依存症の母


Q: 私は4人家族の長女で(長男は結婚して家を出ています)相談対象は母親です。母は今年で55歳になります。私は現在28歳です。

母は私が中学生くらいの頃からアルコール依存症でした。いわゆるキッチンドリンカーというやつです。それでも当時は家事はしていました。現在は飲酒を繰り返し、家族に一方的に怒鳴り散らし、父や妹に(殴る蹴るなどの)暴力を振るい、実行に移してはいないけど「刺す」などといって家族を脅しています。家事はほとんどしていません。

うつ病も以前からあったようで、抗うつ剤などを飲んでいます。
不眠症もあり、一時期は睡眠薬とお酒を一緒に飲んでいました。そのときはお酒が身体から抜けている時間が短くて、ふらふらしながら朦朧と、それでも食事などはしていました。会話などは無理でした。下痢と便秘を繰り返していて、トイレに間に合わないことや、身体がふらふらで歩けなくてベットに横になったまま排泄することもありました。このとき
は目も開いていて口ではなにやらもごもごと言っているのですが聞き取れず、寝ているとも起きているともわからない状態でした。

このときは精神病院に連れて行って入院させてもらうようにお願いしたのですが、「この程度の症状では入院はさせられない」と断られました。
病院に連れて行ったときは比較的意識がはっきりしていて支えれば歩ける程度のときに連れて行ったのですが、本人が入院を拒んだため「本人の意思を尊重する」言われ連れ帰ることになりました。
それまでは「今度飲酒したら入院させる」と脅して飲酒を止めさせようとしていたため、これで「入院」を脅し文句に飲酒を止めさせることが困難になりました。
更に母は喘息の既往があり、寒い季節になると喘息発作を起こすために気管支を拡張する薬を処方されています。皮膚に貼るタイプのこの薬を使うと壊れたラジカセのようにしゃべり続けます。今、一方的に自分の言いたいことだけ怒鳴り散らしている様子と似ています。
そう状態のときは家事は基本的にしないのですが、「ここを片付ける」と自分で決めたらひたすらそれをし続け、夜中になっても片づけをしていることもありました。
飲酒のあと二日酔いで嘔吐と下痢を繰り返していたことで、電解質異常を引き起こし体内のカリウム値が低くなっていることと原因不明の低血圧がより鬱に拍車をかけているような気がします。
父と妹に対しては暴力的になることがありますが、いったん時間を置くと何事も無かったかのように話しかけてくるようです。ふらふらして物にぶつかったり、寝ぼけてベッドから落ちてあざを作ったり骨折したりしてはいますが、自傷的な行動に出ることはありません。過去には「死にたい」などといいながら深酒することも多々ありました。「死のうと思った」と処方された睡眠薬を全部飲んだことがあると言っていたこともありましたが、虚言なのかは判断しかねるところでした。

精神病院や心療内科には自分から行きます。自分の話をひたすら聞いてくれたり、欲しいといった薬を処方してくれる医者には長く行きますが、お説教をしたり自分を分析しようとする医者には行かなくなります。複数の医者に通い尋常でない量の薬を飲んでいます。

お酒を買う現金を持たせない。(交通事故を2回起こしているので)車を運転させないようにキーを隠す。など試みてはみましたが、父親が少しよくなったと思うとこれらの制限を解いてしまうので結局短時間で元に戻ってしまいます。母以外の家族がすべて働いているので行動範囲の制限には限界があり、病院などで入院させてお酒を抜くことと規則正しい生活習慣を身につけさせることが理想なのですが、実際は入院させてくれる施設もないですし、お医者さんも「入院対象外」と診断されます。

「過度の飲酒や不規則な生活は痴呆を早める」と言って飲酒を止めさせようと試みていましたが、最近母が見つけた精神科医が「飲酒と生活習慣は痴呆に直接関係しない」と言ったことから、勝ち誇ったように飲酒を再開しました。(三日ほど前に血液検査で尿酸値が異常に高いので痛風になると脅されたことは覚えていないようなのです。)

一定の期間断酒することもありますが、すぐに飲酒を再開してしまいます。今回は私の結婚話が具体的に進みだしたのをきっかけに飲酒を再開したようで、これまでも生活的には問題のある人でしたが、家族に暴力を振るうなど顕著な攻撃的行動に出始めたのはごく最近です。結婚してしまえば、元に戻るだろうと思っていましたが、日に日に酷くなり、新しい精神科医を見つけたことで更に悪くなりました。
「自分の今の状況は全て人のせい」であり「自分は可哀想な人間で常に被害者」「周りは加害者でいっぱい」「自分は誰からも愛されていない」という考えは病的なものだと思います。「人のものと自分のものの区別がつかない」「人の予定を考慮できない」など、一緒に生活しているとこっちまでおかしくなりそうな人です。正直うっとうしいですが、今現在「うっとうしい」ではすまされない状況になっているような気がします。

本人が入院を希望しない以上、措置入院にするには2人以上の精神科医の入院が必要であるという診断をしてもらうか彼女が自傷他害により刑事的な事件を起こす他ないのでしょうか?
「自傷他害」の程度というのもどこまで行けば自傷他害に当てはまるのかわかりません。行動してはいませんが、自分に向かって「刺す」と言ってくる人と同じ屋根の下で過ごすことはとてもつらいですし、暴力を受けている妹はすっかりおびえてしまってうちを出て行くために行動しています。
私も2ヶ月後に結婚を控え、家を出る日が近づいています。妹と私が家を出た後、父が殺されるのではないかと心配です。すっかり、最低な形で家族がばらばらです。
母がアルコール依存症であることは確かだと思いますが、アルコールに依存する原因が彼女の性格的なものが原因なのか、病気のために起こっているのかがわかりません。
家族も疲れ果てています。断酒をさせるにはもう入院させるしかないと思いますが、入院させる方法は上記のほかには無いでしょうか?
先生のご意見を聞かせてください。長々とすみませんでした。


林: お母様がアルコール依存症であることは疑いありません。躁うつ病かどうかははっきりしません。パーソナリティ障害(人格障害)かもしれません。しかし今それをはっきりさせることにあまり意味はないでしょう。このままではアルコールによって、本人が破滅するか、ご家族が破滅させられるかのどちらかないし両方になるのは確実です。それもかなり近い将来に現実化するでしょう。
それを回避するには、アルコールをやめるしかありません。そして、これまでの経過と現状からみて、入院しなければやめることはできないでしょう。つまり、入院できなければ絶望だということです。
いや入院してもやめることはできないかもしれません。となれば、もはや方法はなく、絶望だということです。けれども、一縷の望みはありますので、なんとか入院していただくようにすべきです。質問者は措置入院のことを言っておられます。措置入院は、規定としては「自傷他害のおそれ」ですが、実際の運用上は、純粋に「おそれ」の段階で措置入院の適用になることは稀です。この【1698】のケースでは、むしろ医療保護入院を考えるべきでしょう。それなら十分に可能だと思います。
但し、入院は回復に向けて半歩踏み出したにすぎません。
入院中にアルコールを断ったとしても、それだけではほとんど意味がありません。アルコール依存症の入院治療は、その多くの部分が断酒教育です。しかしこの【1698】のケースでは、すでに精神的にも相当にアルコール依存症が進行しており、断酒の動機づけ自体がきわめて困難でしょう。配偶者であるお父様に、アルコール依存症についての危機意識がほとんどなさそうな様子でもあり、退院後まもなく再飲酒となる可能性はかなり高いといえます。なんとかして入院が可能になった場合には、ご家族全員が相当の覚悟をもってその後の対応にあたらなければ、入院しても何の意味もなかったということになるでしょう。

なぜここまでアルコール依存症が進んでしまったのか。絶望的な状態になってしまったのか。
もちろん本人の責任もあります。アルコールのもつ強い依存性という薬理作用も大きな理由です。しかし、この【1698】のケースではっきりいえるのは、本人の周りにたくさんのイネイブラーがいたということです。

病院に連れて行ったときは比較的意識がはっきりしていて支えれば歩ける程度のときに連れて行ったのですが、本人が入院を拒んだため「本人の意思を尊重する」言われ連れ帰ることになりました。

本人の意志を尊重する。いいでしょう。美しい言葉です。しかしそれによって、アルコール依存症の進行を止めるチャンスが見送られたのです。この医師は、イネイブラーです。

精神病院や心療内科には自分から行きます。自分の話をひたすら聞いてくれたり、欲しいといった薬を処方してくれる医者には長く行きますが、お説教をしたり自分を分析しようとする医者には行かなくなります。複数の医者に通い尋常でない量の薬を飲んでいます。

本人にとって、やさしい言葉をかけてくれる医師。いいでしょう。しかしそれによって、アルコール依存症の問題から目がそらされ、進行に手を貸すことになっていたのです。本人の希望を聞き入れてきた医師達、彼らはイネイブラーです。

お酒を買う現金を持たせない。(交通事故を2回起こしているので)車を運転させないようにキーを隠す。など試みてはみましたが、父親が少しよくなったと思うとこれらの制限を解いてしまうので結局短時間で元に戻ってしまいます。

制限したら本人が可哀そう。いいでしょう。美しい言葉です。しかしそれによってお父様は、本人を破滅へと(そしておそらくは死へと)追いやってきたのです。お父様は、イネイブラーです。

「過度の飲酒や不規則な生活は痴呆を早める」と言って飲酒を止めさせようと試みていましたが、最近母が見つけた精神科医が「飲酒と生活習慣は痴呆に直接関係しない」と言ったことから、勝ち誇ったように飲酒を再開しました。

この精神科医は・・・いや、もはや説明は不要でしょう。

「自分の今の状況は全て人のせい」であり「自分は可哀想な人間で常に被害者」「周りは加害者でいっぱい」「自分は誰からも愛されていない」という考えは病的なものだと思います。

この病的さは、もちろん本人に内在していた部分もあるでしょう。しかし、それを受け入れてきた周囲の人々は、病的な考えの成長に栄養を与えていたともいえます。

自分に向かって「刺す」と言ってくる人と同じ屋根の下で過ごすことはとてもつらいですし、暴力を受けている妹はすっかりおびえてしまってうちを出て行くために行動しています。

ここまでの事態になれば、出て行かれようとするのは自然でしょう。好んで破滅の巻き添えになる人はいません。

私も2ヶ月後に結婚を控え、家を出る日が近づいています。妹と私が家を出た後、父が殺されるのではないかと心配です。すっかり、最低な形で家族がばらばらです。

お母様がアルコールをやめなければ、完全に崩壊するでしょう。

母がアルコール依存症であることは確かだと思いますが、アルコールに依存する原因が彼女の性格的なものが原因なのか、病気のために起こっているのかがわかりません。

それを追求することに意味はありません。アルコール依存症であるという事実が、その事実のみが、最大の問題です。そして、アルコールをやめなれば、この先には破滅と絶望しかありません。
お母様を見捨てるか、それともご家族が強い意志を持って協力し合い、入院から断酒につなげるか。そのどちらかしかありません。


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