精神科Q&A

【1631】病名が統合失調症から統合失調感情障害に変わりました。経過は良好です(【1203】のその後)


Q【0975】私は擬態統合失調症でしょうか および、【1203】奇怪なビラを撒こうとする症状が残っています で質問し、ご回答いただいた28歳男性です。その後の経過を報告申し上げようとメールいたします。 

1)現在の診断名は統合失調感情障害(分裂感情障害)(主治医は非定型精神病と同じ、とのご見解でした)です。 

2)処方内容については、抗精神病薬は一切カットし、1年以上経過しますが、統合失調症様の症状はほぼありません(ときたま、疲れたときなどに一過性の幻聴様のものがあります。これについて主治医に相談申し上げたところ、「自分で幻聴と認識して、これだけ病識がしっかりしているので、大丈夫」とのことでした。頓服的に以前処方されていたリスパダールなどを服用するのはよくないか、とお尋ねしたところ、「止めてください」とのことでした)。蛇足ですが、【1323】の回答文に多少関連して主治医に「私の分裂感情障害の場合は、抗精神病薬の予防服用は不要でしょうか」とお尋ねしたところ、「どうしても『これは酷い』というときになったら考えるよ」とのことでした。現在の処方内容は、・デパケンR 800mg/day ・ランドセン 4mg/day ・ユベラ錠 500mg/day ・ビタメジン 6カプセル です。「ユベラ錠は脂溶性ビタミンですので、長期服用を避ける方向で減薬していきませんか」と申し上げたところ、「漸減していって様子を見て、問題がなければ、さらに減らしてみよう」とのことでした。

3)遅発性ジスキネジア(私の主訴は構音障害でした)については、私が独自にネットで調べ、ビタミンE(ユベラ錠)600mg/day、ビタメジン6カプセルで対処していただきました。これで1年じっと待ちました。(主治医に対処法を訊ねても、確立した治療法がないので難しい、とのことでしたので。アミノ酸やビタミンEの有効性も、主治医の先生は口にこそしないものの、大多数の精神科の先生はご存じないと思われます) 

昨年まで陰性症状様の部分がありましたが、それが消え去ったのとほぼ同時期に躁転しました。具体的には、・大声でリビングで誰彼となくつかまえてしゃべる ・勧誘セールスの人や運送屋に対し横柄な態度 ・柄の悪い言葉遣いをする ・気に入らないことがあると店員や社員の名前を控えて本社にクレームのメールを送りつけるなど、 でした。その間、「躁状態になっている」との認識は半々といったところでした(「半々」というのは、「躁状態である」という認識はありつつ、それを抑えられない。そして、自分がそのような怒声や憤怒の情を持つのは、少なからず相手に原因があるからであって、自分の訴えは至極正当なものである、という感情がないまぜになった状態のことです)。それらの症状は隔週の通院で、逐一主治医の先生に報告しておりました。 以前から処方されていたリーマスからデパケンRに変え、血液検査をして増量した現在(5ヶ月ほど経過後)になって、躁状態はかなり抑えられています。うつ状態もありません(副作用による眠気がありましたが、だんだんと慣れてきました)。 今後の方針としては、「とりあえず躁うつの波を抑えることに重点を置いていくが、ほぼ寛解していると考えられるので、投薬量は相談の上漸減。まだ若いのでいろいろ苦しかっただろうけど、今後のこと(大学への復学・再受験など)を考えて大丈夫。手帳などは無いほうが良い」とのお言葉をいただいております。 


林: 経過のご報告に感謝します。

1)現在の診断名は統合失調感情障害(分裂感情障害)(主治医は非定型精神病と同じ、とのご見解でした)です。 

今後も慎重に治療を続けることをお勧めします。
統合失調感情障害 (分裂感情障害、非定型精神病; いずれも同じものと考えて差し支えありません) は、ある時点の精神症状だけを見れば統合失調症と区別がつきませんが、経過としてみると、その精神症状は必ず躁状態かうつ状態の時期に一致しているものをいいます。このように文章で書くと、統合失調症と明確に区別できそうですが、実際には「その精神症状は必ず躁状態かうつ状態の時期に一致している」という判定は、容易なケースもあるものの、なかなか難しいケースも多いものです。


2)処方内容については、抗精神病薬は一切カットし、1年以上経過しますが、統合失調症様の症状はほぼありません

統合失調感情障害で、抗精神病薬の長期投与が必要かどうかはケースによって異なります。この【1631】では、抗精神病薬は中断されていますが、感情調整薬のデパケンR (バルプロ酸)が処方されており、おそらくこの薬はベースとして長期に投与する方針と思われます。合理的な方針と判断できます。(但し、ケースによって異なります。この【1631】でも、はたして本当に抗精神病薬の長期投与が不要かどうか、今後の経過を慎重に見ていく必要があります)

3)遅発性ジスキネジア(私の主訴は構音障害でした)については、私が独自にネットで調べ、ビタミンE(ユベラ錠)600mg/day、ビタメジン6カプセルで対処していただきました。これで1年じっと待ちました。(主治医に対処法を訊ねても、確立した治療法がないので難しい、とのことでしたので。アミノ酸やビタミンEの有効性も、主治医の先生は口にこそしないものの、大多数の精神科の先生はご存じないと思われます) 

アミノ酸やビタミンEが遅発性ジストニアに効く可能性があることは、【1521】にもお書きした通り、広く知られています。ご質問の遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬の慢性投与の副作用として生じ得るという点、不随意運動であるという点では遅発性ジストニアと共通点がありますが、実際には遅発性ジスキネジアと遅発性ジストニアは別のものです。そして、アミノ酸やビタミンEが効く可能性があるのは遅発性ジストニアのほうであって、遅発性ジスキネジアに効く可能性はほとんどありません。しかしながら、これも【1521】の参考文献の解説にお書きしたことですが、遅発性ジストニアと遅発性ジスキネジアは、しばしば混同されるという誤解がなされています。専門家でない人が混同するのはやむを得ないともいえますが、医学論文でも同様の誤りがなされていることも時にあります。

そして、遅発性ジストニアに効く「可能性」も、現実にはかなり小さい可能性であることもまた広く知られていることも【1521】にお書きした通りです。この【1631】の主治医の先生がこれらの薬のことを口にされなかったのは、「効くという説はあるが、実際にはかなり怪しい説である」との認識であったと予想されます。したがって、「確立した治療法がないので難しい」という、この主治医の先生のご説明は事実を正確に伝えているものです。(この点を含め、この主治医の先生のご説明・ご方針は、正確かつ理にかなったものであることが読み取れます。今後もこの先生についていかれれば、経過は良好なものになるでしょう。もし【1631】の質問者が将来、この先生の方針が不合理で従えないと感じられるようなことがあった場合、それは質問者の精神症状の悪化に基づくものであると考えるべきで、そういう時こそ先生の指示に忠実に従うことをお勧めします)
 ご自身の症状の治療法について、【1631】の質問者は、独自にネットでお調べになったということですが、多くの場合そのような検索結果はあまりあてになりません。「〜が効く可能性がある」「〜が効くというデータがある」ということと、実際にその〜が治療に使えるほどの有効性があるということは一致しないからです。(そもそも、遅発性ジスキネジアと遅発性ジストニアが混同されているのは上述の通りです。これは質問者が情報を読み間違えられたのかもしれませんし、元の情報が誤っていたのかもしれません)

なお、この【1631】の質問者は、このメールをお書きになった時点で、まだ多少の躁状態が残っていると思われます。それはここに掲載したメールの内容、及び、メールに書かれていて掲載の際には一部削除した内容から推定できます。【0975】の頃よりはかなり改善されていることは確かだと思いますが、まだちょっとしたきっかけで急激に再燃する可能性はかなり残っていると思います。慎重な治療継続をお勧めします。


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