精神科Q&A

【1521】統合失調症の姉の、薬の副作用による体がねじれて曲がるような姿勢の異常


Q: 55歳の姉のことで質問させてください。私は52歳の妹です。
姉は15歳で統合失調症を発症しました。
 発症当時に1年ほど入院、電気けいれん療法を行い、投薬処方で退院。その後、在宅で趣味(絵画・生け花)をたしなむ程度の社会生活を送っていました。時々は、開放病棟に短期間の入院はしていました。家族は両親と3人姉妹です。姉は長女です。
妹二人が独立したあと、両親との3人暮らしをしていましたが、12年前に父が死亡。その後、母との二人暮らしをしておりました。
デイケアなどには通っておりませんでしたが、外来治療にはきちんと通い、服薬も処方されたものはきちんと飲んでおりました。家事もある程度手伝って暮らしておりました。

5年前、50歳の夏に幻聴・妄想が急激に悪化し、当時通院していた大学病院に、緊急で閉鎖病棟に医療保護入院をしました。1年後に、ある程度落ち着いたので、長期療養できる民間病院に転院しました。しかし、幻聴・妄想は悪化するばかり。投薬量が1桁違いで増量されたようです。さらに1年後に、これ以上は、薬のコントロール不可ということで、電気治療をすすめられました。もう一度、大学病院に戻りまして、麻酔下で電気けいれん療法を行いました。20回実施しましたが、実施直後にしか効果なく、薬は少ししか減りませんでした。
そして4ヶ月後に、また、別の民間病院に転院しました。現在、入院している病院です。つまり、3年前から今の病院に入院していますが、そのころから、体が右に傾きだし、昨年は、体がねじれて曲がって、みかけの身長が20cmも縮んだように感じられました。今年になって、なおいっそう、体が曲がり、本当に身長が30cmは縮まっているように思います。顔もまっすぐ上げることができず、首をひねったようにして、下から見上げます。股関節も膝も曲がってしまいました。歩行器で歩いています。
主治医とは、何回か面談をお願いして、説明をいただいております。

※主治医の説明
「薬の副作用としての姿勢の異常である。薬を減らしてあげたいのはやまやまだが、幻聴・妄想が強いので、減らせない。新薬だけでは不十分で、副作用が強いといわれる旧薬も使っている。大学病院に戻す対象ではない。難治性患者である。刺激が多いと症状が悪化するので、個室で対応。(閉鎖病棟内での行動は自由)。あまりにもひどい時は、保護室対応。4人部屋に戻ったり、職員の入れ替わりがあっただけで、症状悪化。そのつど、個室に戻したり、慣れるまできめこまかく対応。幻聴・妄想が強いが、話はできるし、人格の崩壊や認知症までにはなっていない。(記憶力はかなり低下している。)経過をみていくしかない。」

※幻聴・妄想の内容
被害妄想(いじめられる・盗まれる・殺される),関係妄想(入院患者や職員は、昔の知り合いや家族),性的妄想(結婚など)。

※薬の処方(2年前のもの・・・リスパダール以外は、大きな変更はないと思われます)
1.セルベックス細粒10%   1日3回
2.ファモスタジン散2%   1日3回
3.リントン錠3mg 1日2錠×3回
4.ワイパックス錠0.5   1日1錠×3回
5.タスモリン錠1mg     1日1錠×3回
6.チスタニン錠       1日1錠×3回
7.リスパダール内用液 1mg/1ml 1日定期に3回 プラス 臨時。
     ※これは、1年前から2mg/2ml  を1日定期に4回(毎食後と就寝時) プラス臨時に4本まで使用と増量。
8.コントミン錠25mg    1日1錠×3回
9.コントミン錠50mg    1日1錠×3回
10.ヒルナミン錠25mg   就寝時1錠
11.ロヒプノール錠2    就寝時1錠
12.ネルボン錠5mg   就寝時2錠
13.プルゼニド錠      就寝時3錠
14.アローゼン0.5g     就寝時1包
15.モービック錠5mg    夕食後2錠
16.ポステリザン軟膏2g     1日1回程度


林先生への質問です。
Q1.姿勢の異常はなんとかならないものでしょうか?
Q2.副作用の少ない薬に本当に変えられないのでしょうか?
Q3.難治性と言われていますが、転院などで回復を期待することはできないものでしょうか?

長文になりましたこと、お詫び申し上げます。
どうぞ、回答をいただけますようにお願いいたします。
家族として、第三者のご意見を伺い、何らかの光明を見出したいと心から願う次第です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。


林: これは抗精神病薬の副作用としての遅発性ジストニアです。したがって、原因はこれまで長期に渡って投与された大量の薬ですが、この方の統合失調症の症状と経過からみて、薬を大量投与しなければ打つ手がなかったと思われます。遅発性ジストニアの改善のためには当然ながら原因薬を減らすことができれば一番いいのですが、この【1521】では、症状からみて、現時点で抗精神病薬を減らすことは不可能でしょう。
 そうしますと、今の薬はそのままにして、なんらかの治療をすることになります。遅発性ジストニアに対しては、色々な薬物療法が試みられており、ビタミンE、アミノ酸(分岐鎖アミノ酸)などの有効性が証明されていますので、まずはこれらを試みることが勧められます。
 ただし、ビタミンEにしてもアミノ酸にしても、画期的に効くということは稀です。「有効性が証明されている」といっても、わずかに改善が認められるというのが実際のところは大部分です。つまり遅発性ジストニアは難治です。

ではお手上げかというと、そうではありません。このような場合、ボツリヌス療法という方法があります。その名のとおり、ボツリヌス菌の毒素を用いる治療法で、そうお聞きになると怖いという印象を持たれるかと思いますが、正しく行なえばきわめて安全な治療法で、効果も著しいものがあります。参考文献もご参照ください。「ボトックス」という商品名の製剤を筋肉注射するのが基本的な方法です。
 ただし、保険適応が限られていること、治療者の腕によって成績にかなりの差があることも知られています。したがって、信頼できる病院で行なう必要があります。普通は精神科で行なうことはなく、神経内科やリハビリテーション科で行なわれる治療法です。この【1521】のケースは、今は民間病院に入院中ですが、大学病院にも過去にかかっておられることのことですので、まずはその大学病院でご相談するのがいいと思います。

以下、ご質問項目への回答です:

Q1.姿勢の異常はなんとかならないものでしょうか?

上記のとおり、ボトックスによる効果が期待できます。

Q2.副作用の少ない薬に本当に変えられないのでしょうか?

【1521】は、統合失調症の中でも、薬への反応性がかなり悪い(つまり、薬が効きにくい)ケースのようであり、既にこれまで様々な薬物療法が試みられていますので、いま薬をかえて副作用を軽くするという方針は現実的でないでしょう。

Q3.難治性と言われていますが、転院などで回復を期待することはできないものでしょうか?

転院そのものに意味はありません。が、上記のとおり、ボトックスによる治療目的の一時的な転院には意味があります。ただし、精神症状がある程度安定していないと、ボトックス治療の可能な病院への転院は難しいでしょう。今でも幻聴・妄想が強いとのこと、「強い」とはどの程度であるか、このメールには記載がないのでわかりませんが、一定以上に強ければ、少なくとも現時点での転院は困難でしょう。


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