精神科Q&A

【1593】広汎性発達障害の攻撃性に対して薬を用いることへの疑問


Q: 私は知的障害更正施設で、自閉症を専門にした支援を行っている30代の者です。
【0928】広汎性発達障害の娘の攻撃性 から広汎性発達障害についての対応について思うことがありましたので投稿させて頂きます。

私達は、自閉症含め、広汎性発達障害の方々が、落ち着いて暮らせるようにいろんな療育方法、行動療法等を使って支援しています。
その中で、自閉症の方は、先の見通しが経たないこと、待つこと、新しいこと、ちょっとした変化が苦手であること、曖昧な表現が伝わりにくい、そして、言語指示より、視覚的な手がかりのほうが有効であることから、いつ・どこで・何を・どのように・どのくらい・いつまでという情報を、文字や、絵・写真・現物等で伝えています。
このことにより、今まで攻撃性が強かったり、自傷が激しかった方も、ある程度落ち着いて生活できるようになった例をたくさん見てきました。

これは、最近になって取り入れられてきた手法で、少しずつ療育や施設で取り入れられています。ただ、そういった知識がなく、在宅で苦労されている家族はたくさんいるようで、在宅生活で限界を感じ、入所してくる方がたくさんいます。

医療分野の方々も、こういった自閉症の特徴を理解して、受診の待ち時間や受診時の言葉かけなど、配慮してもらえると、不安定になって他の患者さんに迷惑かけることも減るのではないかと思うことがあります。
また、今回の投稿のように、広汎性発達障害の方の攻撃性について、精神科へ相談される方はたくさんいるのではないでしょうか。そのときに、服薬、という方法以外にも、こういった療育や手段、試すべき方法論があるんだということも情報の一つとして、医療の側から家族に伝えられたら、と思い、今回投稿させて頂きました。

福祉の立場から見た一方的な考え方かも知れませんが、利用する方にとって最善の方法が提供されるようになることを願っています。 


林: 貴重なご意見をありがとうございました。
あなたのご意見には、総論としては全く異論はありません。
しかしながら、【0928】に対しては、あなたのご意見は採用できません。

まず、

自閉症の方は、先の見通しが経たないこと、待つこと、新しいこと、ちょっとした変化が苦手であること、曖昧な表現が伝わりにくい、そして、言語指示より、視覚的な手がかりのほうが有効であることから、いつ・どこで・何を・どのように・どのくらい・いつまでという情報を、文字や、絵・写真・現物等で伝えています。

これは、広汎性発達障害の方に対する対応としては、教科書などにも出ている常識的な対応です(専門家であるこの【1593】の質問者の方にあえて申し上げるようなことではありませんが)。したがいまして、それが有効であるのは当然です。ですから、

このことにより、今まで攻撃性が強かったり、自傷が激しかった方も、ある程度落ち着いて生活できるようになった例をたくさん見てきました。

そのようなケースが多数あるのは当然です。
冒頭で私が「総論としては全く異論はありません」と言ったのはその意味です。

しかし、このような対応では通用しないハードなケースもまた多々あるという事実の直視が、発達障害にかかわる場合には重要になることもしばしばあります。
私が【0928】の回答の中で、

理想論を唱え続けるのは危険

と言ったのはその意味です。

このような観点から【0928】に目を向けますと、すでに何の関係もない他人に対して危害を加えていることが見落とせない事実です。

症状としての攻撃性をどう扱うか。これは、発達障害に限らず、きわめて難しい問題です。予防に傾きすぎた対応は本人の回復を妨げます。逆に寛大にすぎた対応は、他害や自傷という、取り返しのつかない結果を招きかねません。
そしてここで重要なのは、もし他害が現実化すれば、その影響は当事者双方にはとどまらないということです。発達障害そのものへの偏見が高まるのを止めることはきわめて困難になります。

したがって、症状としての攻撃性への対応は、きわめて難しい問題とはいえ、【0928】のようなケースについては、それ以上の被害が出ないようにできる限り予防することが必要です。だからこそ【0928】では、薬の使用が必要という回答になっているのです。

したがってこの【1593】の質問者のご意見は、総論としては異論はありませんが、【0928】に関しては採用できません。
理想論を唱え続けるのは危険
ということを、もう一度申し上げたいと思います。教科書通りでは通用しないハードなケースが存在するのです。

とはいえ、【0928】をお読みになった方の中には、「発達障害の攻撃性には薬が必要」と短絡的に理解された方もいらっしゃるかと思います。その意味で、この【1593】は貴重なご意見であり、メールをいただいたことに感謝いたします。【0928】と【1593】をセットでお読みいただくことで、読者の方々にはより深い理解をいただけるものと思います。


なお、蛇足ですが、【1593】のメールの内容についてもうひとつ。
この方は、福祉と医療を別物ととらえ、福祉の関係者と医療の関係者は視点も対応も異なるような書き方をされています。もしかするとこの方の周囲ではそのような現実があるのかもしれませんが、それは異常なことです。福祉と医療を分けるのは行政上のことにすぎず、多くの現場では福祉と医療は一体となって障害者に対応していますし、そうでない現場ではそれを常に目指すのが当然です。


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