精神科Q&A

【1537】パニック障害と診断されていますが、てんかんの疑いはありますか‏


Q 私は20代前半の女性です。3、4年ほど前から不定期で心療内科に通っています。というのも、高校生の頃、登校中に奇妙な発作を起こし(発作といってもいいのか分かりませんが)その時は病気とは思いませんでしたが、症状に悩んでいたら母がパニック障害に関する本を図書館で見つけてきた事からでした。内容に当てはまる部分が多々あり、既に最初の発作から2年は経っていて私は社会人になりましたが、心療内科を受診してみました。結果、やはりパニック障害という診断で、抗不安薬(その時々によって種類も量もまちまちです)を処方され、今に至ります。基本的にはベースになる長時間作用型の抗不安薬と、発作時に短時間型の多少効果が強めな頓服の抗不安薬で過ごしていますが、はっきりいってあまり改善が見られません。発作もしょっちゅう、という訳ではないので、一年に2、3回(仕事が忙しいという理由もあります)症状がひどくなった時だけ通院するようにしています。パニック障害というものをよく知らなかった私は、身近なインターネットで症状や治療法を見ていたりしていましたが、林先生のサイトQ&Aの【1529】の方への「てんかん」の可能性という回答を見て驚きました。というのも、私の症状にぴったり当てはまるのです。元々、パニック障害の典型的な症状の羅列に当て嵌まる項目は多いものの、逆に当てはまらないもの(あって当然だとは思いますが)があるのを疑問には思っていましたが、そういうものだと思って特に深く考えていませんでした。例えば、林先生のサイトのパニック障害の症状で当て嵌まる項目というと以下です。 ・心臓がドキドキする・吐き気またはお腹が苦しい感じ・まわりが現実でない感じ、または自分が自分でない感じ・気が狂ってしまうことへの恐怖・死ぬことへの恐怖 逆に当て嵌まらないのは、前提としての「いったん起こったら急激に(10分以内に)ピークに達します。」というものです。私の場合、10秒程前からなんとなく嫌な感じがして、来るな、と思います。その後、上記の項目の症状が急にきますが、一貫して、まるで違う世界に行ってしまったかのような感覚がベースになっています。頭に色々な映像がつらつら浮かんだりするのですが、発作後には忘れているか、覚えていても全く意味が分かりません。(発作時には意味が分かっているような気がします)そして30秒も経たないうちにおさまり、しかし吐き気と頭痛が延々と続き、体力をかなり消耗します。どこのサイトを見ても発作は10分程度〜長くても一時間以内と書かれていますが、私は上記のようにかなりの短時間です。しかし、その後の不調は続きます。また、発作時にはいわゆるパニック障害としての症状も出ますが、とにかく何かを思い出しそうになるという感覚が圧倒的に強いのです。また、他人との会話も、自分がどう返せば正常なのかが分からず、変な返事を返してしまいそうで無口になってしまいます。この状態は二日くらい引きずります。 ・まわりが現実でない感じ、または自分が自分でない感じ という離人感の範疇だと思い、特に気にはしていませんでしたが【1529】の方の回答を見て急に気になりました。脳の検査をしたことはありません。私のパニック障害の診断は問診のみで下されたものです。私にはてんかんの疑いはあるのでしょうか。


林: あなたにはてんかんの疑いがあります。少なくともパニック障害ではないでしょう。このメールに書かれている症状が正確に医師に伝えられており、それでも脳の検査をすることなく、パニック障害と診断されているのであれば、それは誤診ないしは怠慢な診療と言わざるを得ません。理由は単純で、あなたの発作はパニック発作よりもてんかん発作にあてはまるからです。素人であるあなたが、

元々、パニック障害の典型的な症状の羅列に当て嵌まる項目は多いものの、逆に当て嵌まらないもの(あって当然だとは思いますが)があるのを疑問には思っていましたが、

と一応は疑問はお持ちになっても、すべてが本に書いてある症状にあてはまらないのは当然とお考えになり、医師の診断を信じるのはむしろ正しい姿勢と言えます。
 けれども医師の側からすれば、あなたの発作の描写を聞けば、パニック発作に似たところはあっても典型例からはかけ離れていることは明らかですから、検査もせずに漫然とパニック障害の治療を続けるのは、不合理な診療と言わざるを得ません。

前置きが長くなりました。具体的にあなたの発作を見てみましょう。

10秒程前からなんとなく嫌な感じがして、来るな、と思います。

これは、【1529】にもお書きした、前兆aura と解釈できます。
但し、これだけでは何とも言えません。パニック障害の方でも、発作の前に予感のようなものを自覚されることはあるからです。
 けれどもあなたの場合は、そのあとの症状が、パニック発作よりもてんかんにあてはまるものです。すなわち、

その後、上記の項目の症状が急にきますが、一貫して、まるで違う世界に行ってしまったかのような感覚がベースになっています。頭に色々な映像がつらつら浮かんだりするのですが、発作後には忘れているか、覚えていても全く意味が分かりません。

これは、側頭葉てんかんの発作に比較的あてはまる症状です。この時、あなたが客観的にどう見え、どう行動しているかが本当は知りたいところです。お友達にこの状態を目撃されたことがあれば参考になるのですが。
それから、

とにかく何かを思い出しそうになるという感覚が圧倒的に強いのです。

これも側頭葉てんかんらしい症状です。
デジャヴ Déjà vu という言葉はご存知かと思います。見たことがないはずなのに見た気がする、といった体験を指す言葉です。既視感と訳すこともあります。現在ではデジャヴは日常的にも使われる言葉ですが、元々は側頭葉てんかんの発作に特徴的な症状を指すものです。また逆に、よく知っているはずなのに、初めてのような気がする、という体験はジャメヴ jamais vu (未視感) といいますが、これも側頭葉てんかんの発作にあるものです。いずれも記憶に関連した発作です。あなたの体験している「何かを思い出しそうになるという圧倒的に強い感覚」は、これと共通した色彩を持つものといえます。
さらに、

この状態は二日くらい引きずります。

これはパニック発作ではまずあり得ない症状です。逆にてんかんではこのようなことは十分にあり得ます。この二日間、脳波異常が持続していた可能性が強いと言えます。

以上、この【1537】は、てんかんの可能性が強いです。脳の検査、具体的には脳波とMRI(またはCT)を受けるべきです。てんかんという診断になれば、治療薬はパニック障害とは全く違うものになります。また、20代でてんかんが発症した場合、脳腫瘍など脳内にはっきりした病変があることもあり、その場合は脳外科手術が必要になることもあります。一日も早く検査を受けてください。

 

その後の経過(2010.7.5.)


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る