精神科Q&A

【1498】曖昧な対人関係を理解できずトラブルを繰り返す部下は病気でしょうか


Q:  私は37歳の女で、中規模の会社に勤務し、15人程度の課の課長をしております。私の課のスタッフAさん(30歳代前半、男性、独身)についてご相談があり、メールを送らせていただきます。

Aさんは半年ほど前に他部署から私の課に異動になりました。通常時期の異動とは異なり半端な時期の異動だったのですが、次のような事情があったということです。
○ Aさんは30歳過ぎの頃に中途採用され前の部署に配属され、約1年後には、仕事がうまくいかないことが原因で出勤ができない状態が数日続き、精神科を受診したところ「うつ状態」と診断され、通院投薬の治療を受け、すぐ通常勤務ができるようになった。
○ しかし、職場で問題が多く(具体的な内容は聞いていません)、前の上司Bさんが音を上げ一刻も早く異動させるよう希望した。(Bさんは、部下の指導に定評ある課長です)
私は責任者という立場ですので、Aさんの異動直前に上記の事情を人事から守秘義務のもとで聞きました。それまでAさんのことは、顔と名前が一致する程度で、ほとんど知りませんでした。
その後、異動してきたAさん本人から、軽いうつ状態で通院中であること、前の部署では力を発揮できなかったこと、新しい部署に移ったので気持ちを切り替えてがんばっていきたいことなどを相談されました。私の方からは、体調がすぐれないときは遠慮なく申し出て欲しいことを伝え、過去のことはいったん置いて、Aさんのいいところが発揮できればいいねという話をしました。

そうしてAさんと一緒に仕事をすることになりました。
そのころのAさんの印象は真面目で正直、強いて言えばやや頑固で不器用かな、という感じでした。「うつ状態」との診断を心配していましたが、とくにかわったこともなく、毎日きちんと定時に出勤し、残業も含めて仕事をしていました(これは今も変わりませんし、「うつ状態」を理由に何かを怠けるといったことは一切ありません)。

そうこうするうち、Aさんが取り引き先の業者とトラブルを起こすことが頻発し始めました。

たとえば、ある業者C社に対して、Aさんの判断で、別の業者と私の会社の打ち合わせに同席を許可したものの、その報告を受けた私や上司の判断でそれはまずいだろうということになったことがあります。
AさんはそのことをC社に連絡する電話で、相手を激昂させてしまいました。
一度はOKしたことをひっくり返すのですから、基本はお詫びし、同席しなくても不利益が出ないよう配慮することをお伝えするという姿勢になると思うのですが、Aさんは相手に対し「なんで同席したがるんだ、その場にいなかったらなにか不都合なことでもあるのか」「同席したっておたくにメリットなんかないのにわからないのか」「しつこいなあ」など、周囲が驚くような発言を繰り返していました。相手が「上司に代わって欲しい」と言ったにもかかわらずAさんが会話の途中で電話を投げつけて切ってしまったため、私から改めてC社にお詫びの電話をを入れたところ、相手の怒りは相当なものでした。私もそれは当然だと感じました。
私には、Aさんがなぜ「怒らせる必要のまったくない相手に対し」「そのような感じの悪い言い方をしたうえに電話を途中で切ってしまうのか」「その業者とは今後も付き合いが続くのに、怒らせたあとどうするつもりなのか」が理解できませんでした。
ただ、電話のこちら側でAさんの発言だけしか聞いていなかったので、電話の向こうで相手がなにか極端に不愉快なことを言ったという可能性もありえると考えました。ですのでAさんに、相手の発言内容について確認しましたが、とくに相手がひどいことを言ったという事実は確認できませんでした。
そこでAさんと私とで電話での言葉の選び方のよくない点を話し合いましたが、なにが悪いのかさっぱりわからない、の一点張りでした。

そのほかにも同じようなパターンで、怒らせる必要のない、あるいは低姿勢に出るべき相手に対して、上記のような居丈高な物言いをすることが続きました。おおよそ2ヵ月の間に、小さいものも含めると10件程度のトラブルがあったと把握しています。これは私が働き始めてからはじめて体験する状況でした。
普段のAさんは、とくに人付き合いのよい方ではないけれど、周囲の同僚とは大きな問題もなくやっているようです。雑談をしていると時々とてつもなく面白いことを言って、笑いの中心になることもあります。ですのでトラブルの原因となった場面での、Aさんの言葉づかいや自己中心的な言い分が、日常目にするAさんの態度からは想像できない点も、私には不思議でした。
いずれにせよ、こういうことが繰り返されると業務に支障が出ますので、先日Aさんとゆっくり時間をかけて話をしました。そこでのAさんの言い分は次のようなものでした。

○C社は味方だと思ってつきあってきたが、少し前にC社のDさんに「おたくの対応ちょっとおかしくない?」と言われた。これは裏切りだ。今はC社は敵だから怒らせても構わない(「おたくの対応ちょっとおかしくない?」という発言とそれが発せられた場面を考えると、私にとっては笑いながら切り返してその場で終わるようなことですが、もしかするとAさんにとっては一大事だったのかもしれません)
○敵になった人はとことん怒らせないと気が済まない。敵と話をしているとイライラして我慢がならない
○だからC社に電話したときは、初めから怒らせてやろうと思っていた

上記以外のトラブルについても確認したところ、ほぼすべて同様のパターンで発生していたようです。「味方だと思っていた」人からの、私から見ると些細な発言によって相手を「敵」だと見做し、そうするととにかく相手を怒らせることに意識がいってしまうという感じです。
私から「敵、裏切り、味方という極端な単語が頻発するのは仕事の場面には不適当かもしれない。仕事では、お互いが相手の欠点やちょっと腹のたつ部分を飲み込んで、そのあたりは曖昧にしながらお互いの利益のために付き合いを継続することはよくある。相手の言い分一つ一つに腹を立てるのではなく、案件によっては判断を保留しながら付き合うこともあるよ」という話をしたところ「曖昧な関係」「判断を保留」という言葉の意味がまったくわからない、敵と味方以外にどんな関係があるのか、という返答でした。
話の間中、Aさんは繰り返し「味方に裏切られたから敵だと思うという僕の感情の動きは間違っているんですか」「僕の感情を否定するのですか」と言っており、その問いに対して、私は「人の心の奥底の感情の動きに対して、正しいとか間違っているとかを他人がジャッジすることはできない。でもそれをそのまま仕事の場面に持ち込む行為は社会人としては不適当だと思う」と返答しました。
けれども、Aさんの関心はとにかく「自分の感情の動きが正しいか間違っているか」の一点に絞られている様子でした。その問いを発するとき、Aさんの表情は顔の左右がアンバランスにゆがみ、目がすわっている感じで、こういう言い方は不適当かもしれませんが、個室内で一対一で話しているのが恐くなりました。ただし、このようなAさんの姿は、トラブルについて話し合っているとき以外目にしたことはありません。

その話し合いの際、さらにAさんが言っていたことは、前の上司Bさんも私も、Aさんが以前勤めていた会社の上司も、曖昧な指示を出すことが多く、Aさんはどう動いてよいかわからないとのことでした。
たとえば「一応事前にE社に伝えて仁義切っといたほうがいいよ」(コンペの参入業者を増やすとき、普段から無理を聞いてもらっている古参業者E社に事前通知するように、との指示)、「関係者全員、早急に集まって話を擦りあわせておいてね」(ある問題が発生したとき、関係者全員集まって状況確認と対応協議するように、との指示)、といった私からの指示がまったく理解できなかったそうです。内容だけではなく、それが自分に対する「指示」だという事実がわからなかったそうでまったく実行しておらず、結果的にはそれがさらにトラブルを拡大させたようです。
どういう言い方なら理解できるか尋ねたところ、たとえば後者であれば「明日中に、Fさん、Gさん、Hさん、Iさんに内線をかけて、みんなの予定があいている時間帯を確認して、第○会議室を押さえ、それから決定した日時と場所をまたFさん、Gさん、Hさん、Iさんに連絡しなさい」という言い方でなければ指示だとは認識できないというのです。Aさんによると「連絡しなさい」という言い方でも実はまだ曖昧で、連絡方法はメールなのか電話なのか、いつまでに連絡しないといけないのか、そこまではっきりさせてほしいそうです。

話し合いは長時間に及びましたが、Aさんは結局「(上述の敵、裏切り、味方という)僕の感情は間違っていないんですね」と締めくくり、安心した様子で帰っていきました。私の話し方の未熟さもあったのでしょうが、こちらの話はほとんど伝わらなかったようです。

このとき聞いたAさんの見解は私には大きな驚きでしたし、困惑しました。
Aさんが普段から目立って自己中心的であったり、わかりきった言い訳を繰り返すような人であれば、私も悩まないかもしれません。でもAさんは、人が見ていないところで地味な作業を黙々とこなすような誠実な面があり、関係のはっきりした相手である顧客との一対一の関係では、たいてい信頼を得ています。
一方、ある時期までにある状態を作るために、めざす到達点から逆算して段取りを考え実行するような仕事はかなり苦手なようです。そういった仕事ができていないことがわかったときに確認すると、たいてい「自分の担当だと思っていなかった」「指示されたという自覚がない」という返答が帰ってきますが、単なる言い訳には聞こえず、本当に理解できない様子が窺えます。

ある時は、私の昼食中に書類をみてほしいとAさんが来たのですが、まったく急ぎのものではないようだったので「急ぎで見ないといけない書類?」「いいえ」という会話を経て「今食事中だから後で」と断った(つもりだった)ところ、Aさんは「大丈夫です、食事中でも見られます」と言ってどんどん話を続けてしまったことがあります。私と一緒に食事をしていた人たちはクスクス笑っていましたが、本人はまったく気づきませんでした。ほんとうに些細なことではありますが、このような日常的な場面で相手の都合がわからないことがたびたび起こっています。こういったことも私がAさんに違和感を覚えてしまう原因になっていると思いますが、自分でも細かいことを気にしすぎのような気もしますし、そうであればAさんに申し訳なく、どう考えたらよいのか悩んでいます。

話がそれてしまいました。Aさんの言動がトラブルの原因となってしまったケースに戻ります。
トラブルの原因をみていくと、「敵か味方か」といった極端な認識以外にも共通点があることがわかってきました。
一対一ではなく関係者が三者以上いるときや、関係が単純明快ではないとき(技術が高く逃したくない業者ではあるが、最近ちょっと納期遅れが目立つので、そこははっきり言って直してもらわないといけない、あるいはやや被害妄想的なクレームをしつこく言ってくる顧客だが、クレームの内容には傾聴すべき点もあり即時に対応すべき事柄を含んでいる、というような)に、トラブルが起こるようです。

その後、少し時間をおいてもう1回話し合いましたが、Aさんの話はほとんど上記とかわらないものでした。具体的には、相手は裏切ったから敵だ、敵と話すとイライラする、自分の感情の動きは間違っているのか、という主張の繰り返しでした。
Aさんに自覚がない限り同じトラブルが繰り返されると判断し、現在はAさんが担当していた渉外的な仕事は私が代わって担当するか、あるいは対応や返答を一つ一つ細かく指示し、予想外の反応があったときはすぐ交渉を保留して報告してもらい、あとは私が引き継ぐようにしていますが、この方法は長続きするものではなく、対応に苦慮しています。
指示の仕方については、曖昧な言い方をしないよう気をつけていますが、指示を出すのは私だけではありませんので、ある程度ざっくりした言い方でも理解できなければ、今後仕事に支障を来すことは想像に難くありません。
仕事の進め方を変更したあと、Aさんの様子は以前とあまり変わらないように見えます。

それから、関係ないかもしれませんが、Aさんにはかなりはっきりした吃音があります。
少しでも緊張するような場面では発話の冒頭が相当出にくく、同じ音を繰り返したり冒頭の音が出るまでにしばらくつまってしまったりします。また、文節ごとに言葉がとまり、次がスムースには出ないので、打ち合わせのときなどには、会話のテンポが掴めず聞き手がとまどっていると感じることもあります。普段のAさんは決して無口ではなく同僚とも楽しそうに談笑していますし、そんなときは言葉が比較的滑らかに出るのですが、仕事の場面では人と話すことに悩んでいたり苦手意識を持っていたりするのかもしれません。それが度重なるトラブルの原因だとは私には思えませんが、これは第三者の勝手な考えに過ぎず、本人がどのように感じ、受け止めているのかはわかりません。
またAさんはいわゆる一流大学の出身で、学力的には平均より優れていたと推察できます。

長々と失礼いたしました。
質問をまとめます。

1) Aさんの思考や言動は、どのような背景から生まれるものだとお考えでしょうか。
「うつ状態」と関係あるものでしょうか。休暇等が必要な状況なのでしょうか(とご質問しながら申し訳ないのですが、現在もAさんが通院・投薬治療中かどうかはわかりません)。
2) Aさんが「敵か味方か」「敵は怒らせる」といった極端な考え方をしてしまうことについて、なにか理由はあるのでしょうか。あるいは理解しようとすることが間違っているのでしょうか。
3)Aさんは「曖昧」「判断を保留」といった人間関係や状況が理解できないようです。
また「いつ、どこで、だれに、なにを、どのような手順で……」がすべて規定された指示でないと、指示されたと認識できないと言っています。そのようなことは本当に起こり得るのでしょうか(私が見たところ、Aさんは一時逃れの言い訳で言っているのではなく、一生懸命考えても心底理解できない様子に見えました)。
4)Aさんに接するとき、留意すべき点はありますでしょうか。

以上、質問をまとめてみましたが、精神医学に関わることなのかどうか判断がつきません。自分の理解を超えた性格の部下とうまく仕事を進めていけない自分の未熟さが原因なのかとも思っています。
したがって林先生にご相談するのが妥当なことかどうかわかりませんが、もし妥当性があるようでしたらよろしくお願いいたします。

長文をお読みいただき、ありがとうございました。


林: Aさんは発達障害(アスペルガー障害ないし高機能自閉症を含む)の可能性が最も高いと思います。その他、前頭葉機能障害パーソナリティ障害(人格障害)なども考えられますが、説明の順序として、最も考えられる発達障害を中心に回答していくこととします。
 発達障害という判断の根拠は、非常に硬直した対人関係です。このメール全体から読み取れるAさんの人物像は、発達障害に見られるものによく一致しています。それを端的に表現するのはなかなか難しいのですが、あえていえば、「知能は低くないのにもかかわらず、多くの人が常識として自然に身につけている対人関係技能を持っていない。のみならず、そのような対人関係技能が自然であるとか、さらには必要であるという認識が全く持てない」ということになります。以下、いくつかの点についてこれにそって説明しますと、

Aさんの印象は真面目で正直、強いて言えばやや頑固で不器用かな

これを、その対人関係障害の一つの表れとみることが出来ます。もちろん、「真面目で正直、やや頑固で不器用」な人はたくさんいらっしゃり、そういう方々の多くは発達障害ではありませんが、Aさんの場合は、他の所見と合わせ、この印象が発達障害の表れと判断できます。

雑談をしていると時々とてつもなく面白いことを言って、笑いの中心になることもあります。ですのでトラブルの原因となった場面での、Aさんの言葉づかいや自己中心的な言い分が、日常目にするAさんの態度からは想像できない

発達障害の人の中には、雑談の段階で奇異な印象を持たれるケースもありますが、そこまでいかないケースも多々あります。Aさんがそれに当たるといえます。Aさんの場合は、結果としては自己中心的にみえても、それは発達障害によるもので、普通の意味での自己中心的な人とは質が違うのです。

「曖昧な関係」「判断を保留」という言葉の意味がまったくわからない、敵と味方以外にどんな関係があるのか、という返答でした。

これは「硬直した思考」という表現に当てはまります。発達障害の人の一つの特徴として、たとえ普通の意味での知能が高くても、このような曖昧さが理解できないということがあるのです。発達障害の人の中に、数学などの領域で時に天才的な才能を発揮する人がいらっしゃるのは、この思考の特徴に関係していると思われます。
しかし、現実の対人関係では、曖昧な理解や対応が要求されることが多いのは当然で、「理屈だけいえばそうだけど実際はそうはいかない」ということも多いものです。発達障害ではこのようなことが理解しにくいことが多く、その結果、対人関係に相当な問題が生じることがあります。このAさんもその例の一つといえるでしょう。

内容だけではなく、それが自分に対する「指示」だという事実がわからなかったそうで

これも上記と似て、曖昧な内容が理解しにくい、ないしは出来ないのです。間接的な言葉や、言外の意味がわからない、または、行間が読めない、などと表現されることもよくあります。

「連絡しなさい」という言い方でも実はまだ曖昧で、連絡方法はメールなのか電話なのか、いつまでに連絡しないといけないのか、そこまではっきりさせてほしいそうです。

これも上記と同様の認知パターンの問題です。

Aさんが普段から目立って自己中心的であったり、わかりきった言い訳を繰り返すような人であれば、私も悩まないかもしれません。でもAさんは、人が見ていないところで地味な作業を黙々とこなすような誠実な面があり、関係のはっきりした相手である顧客との一対一の関係では、たいてい信頼を得ています。
・・・
単なる言い訳には聞こえず、本当に理解できない様子が窺えます。


その通り、質問者の印象は正鵠を射ています。Aさんには悪気はなく、言い訳や言い逃れをしようという意図もないと思われます。ただ、普通なら自然に理解できることが、Aさんには本当に理解できないのです。

「今食事中だから後で」と断った(つもりだった)ところ、Aさんは「大丈夫です、食事中でも見られます」と言ってどんどん話を続けてしまったことがあります。

このようなことも、発達障害の人ではしばしば見られます。つまり、理屈だけからいえば、この時のAさんの報告は、食事中であろうとなかろうと、聴けば理解できる内容なので、「食事中だから後」にする必要はないのです。食事中にはそういう話をしない、という常識は通用しません。なぜなら、「食事」と「報告」は、理屈の上では無関係だからです。
ここで出すのはやや不適切ですが、似た例を挙げますと、トイレの個室に入っている同僚に向って、延々と仕事の報告をした発達障害の人を最近私は実際に診たことがあります。彼はその行為について同僚から当然ながら強く非難を受けたのですが、これまた当然ながら彼にはなぜ非難されたか理解できず、「トイレの中にいたって話は聴けるじゃないですか」と言い張っていました。

一対一ではなく関係者が三者以上いるときや、関係が単純明快ではないとき(技術が高く逃したくない業者ではあるが、最近ちょっと納期遅れが目立つので、そこははっきり言って直してもらわないといけない、あるいはやや被害妄想的なクレームをしつこく言ってくる顧客だが、クレームの内容には傾聴すべき点もあり即時に対応すべき事柄を含んでいる、というような)に、トラブルが起こるようです。

質問者のこの観察はかなり鋭いです。まさにこのようなことが、発達障害の人の認知、ひいては対人関係で問題になるのが常です。その背景にはここまで説明してきたような事実があるのです。

Aさんにはかなりはっきりした吃音があります。

この症状との関係は不明です。しかし、吃音に限らず、微妙な神経症状が合併していることも、発達障害では時にあります。

Aさんはいわゆる一流大学の出身で、学力的には平均より優れていたと推察できます。

この回答の最初の方にお書きしたとおり、普通の意味での知能は低くない、むしろ高いことも、発達障害(アスペルガー障害、高機能自閉症)ではしばしばあります。

というわけで、Aさんは発達障害の可能性が高いといえます。さらに詳しくいえば、アスペルガー障害か高機能自閉症でしょう。アスペルガー障害と高機能自閉症の違いは、かなり専門的なことでもあり、また、そもそも両者は同じものであるという説もありますので、ここでは省略します。
 それから、冒頭で申し上げた通り、前頭葉機能障害やパーソナリティ障害の可能性も捨て切れません。しかし、これもまた専門的なことになりますが、これらにはかなりの共通点もあり、現時点の診断基準ではそれぞれ別の疾患ということになっていますが、将来的には重なりがはっきりしてくる可能性も十分にあります。

まとめとして、メール最後の質問の一つ一つにお答えします:

1) Aさんの思考や言動は、どのような背景から生まれるものだとお考えでしょうか。
「うつ状態」と関係あるものでしょうか。休暇等が必要な状況なのでしょうか(とご質問しながら申し訳ないのですが、現在もAさんが通院・投薬治療中かどうかはわかりません)。


上記の通り、発達障害の可能性が高いです。単なるうつ状態ではありません。

2) Aさんが「敵か味方か」「敵は怒らせる」といった極端な考え方をしてしまうことについて、なにか理由はあるのでしょうか。あるいは理解しようとすることが間違っているのでしょうか。

その考え方そのものが、発達障害の認知パターンの特徴の一つです。

3)Aさんは「曖昧」「判断を保留」といった人間関係や状況が理解できないようです。
また「いつ、どこで、だれに、なにを、どのような手順で……」がすべて規定された指示でないと、指示されたと認識できないと言っています。そのようなことは本当に起こり得るのでしょうか(私が見たところ、Aさんは一時逃れの言い訳で言っているのではなく、一生懸命考えても心底理解できない様子に見えました)。


この回答も2)と同様です。質問者の方は、Aさんを非常によく観察しておられることがよくわかります。

4)Aさんに接するとき、留意すべき点はありますでしょうか。

Aさんは、コンピューターのような人だと理解し、接するのが適切です。

この言い方(コンピューターのような人)は、時に差別的だなどと非難を受けることがあるのですが、Aさんのような発達障害(と思われる)人の特徴と接し方をひとことでまとめる言葉としては、かなり的を射ているものです。
コンピューターのよう、とは、つまり、「明確に指示されたことはきちんと出来る」、いや、むしろ「明確に指示されたことは、普通の人よりはるかにきちんと出来る」ことを指しています。他方、「明確に指示されないことは出来ない」のです。質問者の方がAさんに持っておられる印象は、これに一致していることが理解していただけると思います。質問者はAさんの上司とのこと、指示を出されることが多いと察せられますが、その際には常にこのことに留意され、普通以上に(「以上」とは、10倍くらい、とお考えください)、明確な言葉でお話しになることで、トラブルを避け、Aさんの能力を引き出すことが出来るはずです。

その後の経過(2009.4.5.)


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