精神科Q&A

【1460】何かといえばうつ病をタテにとる社員は擬態うつ病でしょうか


Q: 私は、社員5名で、ソフトウェア開発を行う零細企業を経営している、47歳の男性です。

この度、中途入社の社員(29歳男性)を雇ったのですが、雇ったとたんに、お客様で納期遅延を起こし、先方の部長からお叱りを受けてしまいました。
このため、この社員に理由を聞いたところ、いきなり「実は、私は、うつ病です。」と告白されてしまいました。
詳しく話を聞くと、7年前から通院しており、今まで症状は軽かったが、最近また体調が悪くなってきている、とのことでした。
その後、しばらくすると、遅刻や無断欠勤が増えてきたので、
・うつ病の事は、私も先方の部長も知っているから、無断欠勤は困るので、休む時には連絡だけはして欲しい。
・連絡するのは、社会人の最低限のマナーである
と伝えたところ、Webから「うつ病」の症例を大量に抜粋したメールを送信してくるとともに、次のような返答をしてきました。
・「モラルが欠如している」というのは間違っていると思います。私の病気についてまったく理解していただいていないというのが現実だと思います。たんなる「なまけ症」とか「意思が弱い」とか「気合が足らない」など精神面ばかり言われますが、これはれっきとした病気なのです。たとえばインフルエンザやガンとかと同じ病気なのです。
・たとえばインフルエンザで高熱を出して休んでいるときおまえはモラルが欠如していると言いますか?確かに社会人として最小限の連絡は必要でしょう。しかしこの病気はそれすら出来ないこともあることを理解していただきたいのです。意識不明の人に連絡しろっていっても無理ですよね。この病気はそれに近い状態になることもあるのです。特に今回は落ち込みの具合がひどく、自殺企画まで行きました(遺書も書きました)「モラルが欠如している」しているのではなく「健康管理が出来てない」という方が正確だと思います。
・症状は出るのではなくずっと続いていて、時折悪くなります。抗鬱剤は症状が悪くなる時だけではなく毎日飲んでいます。症状が悪くなる兆候はほとんどありません。急に悪くなったり予想がつきません。悪い時は(今回のように)全てがイヤになり、連絡するという事もできなくなります。今回はこれまで経験した中で最大の落ち込み方でした。
・これから死のうかと考えている時に連絡しようという気にはなれませんでした。

また、これまでの彼の行動を整理してみると、次のような行動を取っています。
・自分から「自殺」すると言い出す
・前の会社の社長の悪口を、頻繁に言う
・仕事を失敗したり、無断欠勤、遅刻したりすると、「うつ病」だから仕方がない、と言う。
・「毎日 薬を大量に飲んでいる」と言うが、飲み会に誘うとアルコールを飲む
・主治医に仕事の仕方について相談したい、と言うと、プライバシーの問題を持ち出して面談を断る

先生のホームページを拝見して、「擬態うつ病」について読ませて頂きましたが、どうも彼の行動は、それに近いような感じがします。

これからも、彼の主治医と面談したい旨を説明し、主治医と面談する方向に、彼を説得していくつもりです。
また、彼が、本当に「うつ病」であれば、休職させ、治療に専念させたいと思っております。
わずかな資料で申し訳ありませんが、彼が「うつ病」なのか「擬態うつ病」なのかを、ご判断して頂ければと思っております。

お忙しいところ申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。


林: 自分がうつ病であることを前面に出し、自分勝手な行動を正当化するのは、まず間違いなく擬態うつ病です。本物のうつ病の人は、そういうことは決してしないといっても過言ではありません。したがって、この29歳の男性は、その全体像から見て、うつ病とは考えられません。
本人の申し立てるひとつひとつの症状だけを項目としてみると、うつ病らしく見える点もあります。けれども、たとえば自殺にしても、この人のように口に出すことによってむしろ周りを操作する道具のように使うのは、うつ病の自殺念慮とは似ても似つかないものです。自分の非を責めるどころか全く認めないのも、うつ病の特徴に反しています。不調を訴えながら飲み会には出てくるというのもうつ病としてはおかしな話です。
そもそも、この人は本当にうつ病と診断されているかどうかも不明です。
擬態うつ病といっても、本人にはそんなつもりもない場合も多いのですが、この【1460】は自称うつ病と言うべきでしょう。こういう人のために、本当のうつ病の人が多大な迷惑を被っています。厳しく対処すべきです。


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