精神科Q&A

 【1294】躁うつ病の症状か否か


Q: 31歳女性です。私は派遣社員として半年ほど働いていましたが、就業開始当時から社風が合わないこともあって気分が落ち着かず、倦怠感を感じやすく集中力が続かない、周囲の音(人の足音や話し声、電話の音等)が異常に気になるといった症状が現れ、仕事が手につかない→ミスが増える→そのせいで周囲に迷惑をかけている→気分が落ち込む→仕事が手につかないという悪循環を繰り返すようになってしまいました。 
うつ状態の改善効果や脳の働きが良くなる効果と謳われているサプリメントを半年ほどいろいろ試したりしたのですがどれも実感がなく、サプリメントの容器が部屋にずらりと並んでいる光景が自分でも異様に思え、どうしようもない気持ちになり精神科へ診察に行ったところ軽い躁うつ病ではないかとの診断をされました。 
やはり素人判断でサプリメント等を試すのはお金と時間のムダかもしれません。これまで私は精神科や心療内科について不信感を抱いていたのですが、林先生のご意見を読んで診察を受ける決心がつきました。ありがとうございました。 

仕事の方は先日体調を理由に契約を終了していただきました。 
以前別の事情で契約の早期終了を希望した時は人手不足を理由に断られたのですが、その後うつ状態がひどくなりそのことを理由に再度契約の早期終了を相談すると、あっさりと今の作業が終わったら来なくて良いと言われてしまいました。 

現場の上司は「体調のことを優先するべきだから」と言ってくれましたが、私には「仕事ができない状態の人間は来なくていいし、お金も支払えない」と言われているようにしか思えなくて、その後またさらにうつ状態がひどくなり、それまでベタマック50mg×朝1回と頓服用にソラナックス0.4mgだったのを抗うつ剤(ジェイゾロフト25mg×朝1回)を追加していただきました。 

他の方の相談等を読んでいると私の症状は軽いせいか薬の量も少なすぎるように思えるのですが、主治医としては、躁うつ病のU型(双極性2型)の可能性が高く今はまだ症状も軽く見えるので、躁転しないよう最初からむやみに抗うつ剤の投与はしない方がいいという方針だそうです。 
正直症状が楽になるのであればどんな薬でも試したいという気持ちだったのですが、以前別の心療内科で抗うつ剤を処方された時は副作用がひどくベッドから起き上がれない状態になったことがありますので、今の主治医の判断を信じて徐々に投与量を増やしながら様子を見ていくようにしたいと思っています。 

主治医には信頼を置いているのですが、今回は林先生にご相談したいことが二点ありメールをお送りさせていただきました。 

まず一点は、意欲がわかず仕事が手につかないのが本当に躁うつ病だけが原因なのかということです。 
私の場合は「以前はできていたことができなくなった」というよりは学生のころから集中力がなく勉強が手に付かなかったようなところがありましたので、最初私は注意欠陥障害(ADD)を疑っていたのですが、以前別の心療内科でそのことを相談したところそんなことは自分の専門外だから知らないと言われてしまいました。 
仕事については「期限までにこれだけのことをやらなくてはいけない」という認識はあるのですが、頭がぼんやりしていて気がつくと何時間も経っていたり、逆にイライラして手につかなかったり、他のことで気が散ってしまったりといった感じです。またうつ状態がひどい時は仕事中でも些細なことで涙が出てきて仕事が手につきませんでした。「仕事が手に付かない」といっても、その理由は日によって違うような気がします。 
しかし期限間際には集中して仕事を片付けられることもあり(それでもミスは多い方だと思います)、その落差が自分でもかなり激しいのではないかと思えます。 
今の主治医にはまだその可能性について聞いてはいないのですが、精神科でADDのことを聞くのはやはりおかしいことなのでしょうか? 

私の場合気分が落ち込むというよりも、集中力や判断力の低下が原因で仕事ができず気分が落ち込んでいるような状態ですので、次に仕事を見つけようにも症状が治らない限り同じことを繰り返してしまうのではと思っています。 
ADDでないとすれば、中学生の頃に自分には何もできず存在価値がないという気持ちから登校拒否になったことがありますが、もしかするとその頃からうつの症状があったのかも知れないと思っていたりします。 
とにかく集中力がないせいで自分の人生は何をやってもうまくいかない、とすら感じているので、どうにかしたいと思っているのですがどうすれば良いのかわかりません。 
しかし子供の頃から勉強に集中できない、忘れ物が多いなどの症状がありましたらので(小中高校と成績は好きな教科は好きな教科と嫌いな教科で差が激しく、先生にもよく不思議がられていました)、これはもう病気が原因などではなく性格的なもので、あきらめるしかないのでしょうか。 
またこういったことを精神科の医師に相談しても良いものなのでしょうか。 

もう一点は個人的なお話で恐縮なのですが、躁うつ病の治療を続けるにあたって、抗うつ剤の量や種類が変わった場合などは、躁転する場合のことなどを考えて病状を見てくれる人が側に居た方が良いと主治医に言われました。私は現在は一人暮らしですが事情があって実家へは戻ることができないので、年齢的なものもありますし結婚した方が良いのかと考えていますが、今の交際相手が精神科の病気に理解のない人なので、逆に自分にとって負担になるかも知れないと思っています。 

彼とは以前入籍はせず4年ほど一緒に住んでいたのですが、一緒に住むのが徐々にイヤになり(私がテレビが嫌いなのを知っていて早朝でも夜中でもお構いなくテレビをつける、家事を一向に手伝わない、仕事が辛いと口をきかない、私の方がラクをしているというニュアンスのことを言う等些細なことですが)去年私の方から申し出て自分で部屋を借りて一人暮らしを始めました。 
今考えるとこの時期は軽い躁状態だったようにも思えますが、相手の態度に耐えられなくなったことに加え、自分が相手に頼って生活をしていることで負担をかけているのではという気持ちに耐えられなくなって起こした行動でもあります。 
いずれにしても相手は「お前がうつ病なんだったら自分だってそうだ」というようなことを言ってきたり(彼自身が心療内科の診察を受けたことはありませんが)、「会社を辞めたんだから治るだろう」「結局は性格の問題、そんなこと気の持ちようで自分で病気だと思い込んでるだけ」「医者の判断なんてアテにならない」などと言ってきます。また抗うつ剤の副作用で少し気分が悪かったり夢見が悪いという話をすると「病気でもないのにそんな薬を飲むからだ。やめてしまえ」などと言われてしまいました。 

子供の頃私の叔母が躁うつ病で叔父に理解されず辛そうにしていたのを見ていましたし、うつ病というのは一度治っても再発することがあるでしょうから、理解のない相手を一生を共にするべき相手として選ぶのはやはり難しいことのように思えます。相手に少しでも理解してくれるよう説得する自信は私にはありません(とにかく自分の考えていることが一番正しいと思っているような人ですから)。また彼の意見を聞いていると、自分は本当は病気などではないのかもしれない、治療など続ける必要もないのでは?と思えてきます。そういった人と一緒に暮らすよりは、これまで通り一人で住んで躁うつ病の治療を続けた方が良いのでしょうか? 

私としては主治医の診断を信じて治療を続けていきたいと考えていますが、上記の2点については主治医に相談しても良いことなのかどうか判断しかねたので、一度林先生のご意見をお聞きできれば幸いです。 


林: 「軽い躁うつ病」と言われたとのことですが、残念ながらこのメールからはあなたの診断名が推定できません。したがいまして、ご質問の第一、今のあなたの自覚症状が躁うつ病によるものかどうかについては、そもそもあなたが躁うつ病か否かがわかりませんので、回答不能です。ご質問の第二、躁転への危惧についても、やはりそもそもあなたが躁うつ病か否かがわかりませんので、同様に回答不能です。

診断名が推定できないのは、まず、躁状態の症状が何ひとつ書かれていないからです。このような状況では、当然ながら、躁うつ病か否かの判断はできません。

また、うつ状態についても、

社風が合わないこともあって

としていくつか症状をお書きいただいていますが、このような場合、はたしてうつ病なのか、それとも会社にうまく適応できないことによる反応なのか、なかなか判断は困難なのです。会社以外の場面での症状の情報がほしいところです。

それから、「軽い躁うつ病」「双極性障害2型」と言われているとのこと、この二つはほぼ同じ意味(厳密には同じとはいえませんが、そもそも「軽い躁うつ病」というのは特に基準のない用語ですので、ここでは同じとして話を進めます)で、うつ状態と、軽い躁状態を繰り返す病気のことです。これは病気として存在することは確かですが、「軽い躁状態」の判断は時には非常に難しく、本当に双極性2型なのか、それとも病的とは言えないレベルの性格の問題か、あるいは境界性人格障害などの人格障害か、区別がつきにくいこともしばしばあります。(ですから、あなたの彼氏のおっしゃる「性格の問題」という見解も、無下に否定することはできません)。叔母様が躁うつ病であったということからは、遺伝的には躁うつ病の可能性が高いという判断も不可能ではありませんが、そもそもその叔母様が本当に躁うつ病だったのかという問題が残ります。

ですから、このように診断名の鑑別が難しいケースでは、信頼できる精神科医を主治医にすることが、今後のためには必須といえます。上に挙げた例のほか、あなたのご指摘のようにADDもそう簡単には否定できません。

最初私は注意欠陥障害(ADD)を疑っていたのですが、以前別の心療内科でそのことを相談したところそんなことは自分の専門外だから知らないと言われてしまいました。

そのような医師は心療内科医としても精神科医としても(この二つにほとんど違いはありませんが)、存在価値がありません。たとえて言えば、咳が止まらないので呼吸器内科にかかったら、「結核と肺がんは自分の専門外だから知らない」とその呼吸器内科医が言ったというようなものです。そんな医師にかかってもよくなる見込みはありません。

結論として、信頼できる医師にかかり直し、きちんと診ていただくことをお勧めします。

こういったことを精神科の医師に相談しても良いものなのでしょうか。

この意味のことをあなたは何回か繰り返し書いておられます。答えは「良い」です。精神科医の扱うものは、病気から病気とはいえないものまで、幅広い範囲にわたっています。ですから、患者さんの側から「相談してはいけないこと」はないのが原則です。逆に、「そんなことは専門外だから知らない」と拒否するようでは、良い精神科医とは言えないと考えるべきでしょう。(もちろんだからといって精神科医が何でも応じられるというわけにはいきませんが)

なお、念のため付け加えますと、さきほど「性格の問題も無下に否定できない」と言いましたが、これは決して「性格の問題である」と暗に言っているのではありません。自己判断や他の素人判断をせず、きちんと診断を受けてください。おそらくあなたの診断は、メールからだけでは(いくら詳しく書かれても)不可能で、直接診察した医師でないと下せないと思います。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る