精神科Q&A

【0694】先天性相貌失認 (【0683】の続き)


Q【0683】人の顔がなかなか覚えられないで回答を頂きました、30代女性です。 
HP上での丁寧なご回答、ありがとうございました。 
少々長くなりますが、お礼の意味を込めて感想メールを送ります。 

脳の顔を認識する部分が眠っている?欠けている?状態なのかなと漠然と考えていたのが、そうはずれてもいなかったんだなあ、と回答を読んで納得してしまいました。 

先生の文章を読んで新たに「そうそう!」と思うこともたくさんありました。 

特に最近自覚したのですが、私は人の「声」を人の識別にかなり利用している様です。 

といいますのも、 
1年ぶりに会社を訪れたもと同僚に「誰だかわかる?」と聞かれて、やっぱり私は最初はわかりませんでした。しかし「やだ、忘れちゃったんですか?」といわれたその声で、 「ああ!」と明確に思い出したのです。顔のかわりに声を覚えていたんですね。 
同じ理由だと思いますが、芸能人でも女優より歌手の人の方が覚えています。 

また、先日両親とあった時にこの話題を出したところ、なんと父がまったく同じ症状だと言うことが判明致しました。私がいう症状にことごとく「そうそう!」「俺もだ!」と叫んでおりました。また父によりますと、父は兄弟が10人近くいるそうなのですが、その半数がまったく同じ症状だったらしいです。そして、私の父と母は遠い親戚(5親等くらい)です。コレは完全に遺伝と言えそうです。 

先生は私の住んでいる地域に専門のお医者様がいないことを書かれていましたが、今時点で病院にかかる予定はありません。専門の先生が近くにいらっしゃれば一度くらい・・ と思いましたが、飛行機にのってまではちょっと難しそうです。また治療法が無いとも書かれていたのを読んで、そう判断しました。 
ただ、やさしい言葉の数々、林先生の優しさを感じまして嬉しかったです。 

回答の中で「日本ではひとりもいないとされている」とおっしゃられていましたが、実はかなりの人数の同じ症状の人がいると私は考えています。といいますのも、今回この事をインターネットで調べたのですが、ちょっとした日記などで同じような症状を訴えている文章をかなり見かけたからです。「私と同レベル」と思われる記載もずいぶん見ました。しかし、その件について「受診」した人はいない様子でした。この症状についての情報が少ないために、誰も「脳の異常」=「受診すべき」と考えていない様です。不便だなあ、と漠然と考えているにとどまっているんでしょう。つまり日本では一人もいないんですね、きっと。 

30年以上この症状?と一緒に生活してきましたが、学校も問題なく卒業し、仕事も10年以上つづけ、結婚もしておりますので、生きていくのにとりあえず支障はなさそうです。ただしテクニックは必要かな、と思います。観察力をつけるようにしようかな、と思ってます。 

また、同じ症状の父はずっとマスコミ関係で働いてきた人なのですが、「そんなに顔を覚えられなくて、どうやって仕事してたの?」と聞くと「もう、無理なものは無理だ!しょうがないから相手に覚えてもらえ!」という対処方法とはいえない対処方法を聞きましたので、そのくらいの気持ちでやっていこう?かと思います。 

あとは、ドラマでよくあるような「犯人のモンタージュ写真を作る協力」をしなければならない事態にならないことをお祈りしておきます。協力できないことは確実です(笑) 

ちなみに後天的にこのような症状が出た場合には治療法はあるのですか? 
やはり無いのでしょうか。(これはちょっとした興味です) 

おそらくは「自分はこういう個性の人間なんだ」と思っている人が多いであろうこの症状の認知度がもっと上がって、研究が進む日を心待ちにしています。 

深刻な相談が多い先生のサイトで、私のような軽い?質問を取り上げていただき、本当にありがとうございました。 先生のますますのご活躍をお祈りしております。


: ご連絡ありがとうございました。人の認識に声を相当利用しているというあなたの自覚、そして強い家族集積性(遺伝歴)から、あなたがDevelopmental Prosopagnosia (先天性相貌失認)であることが裏づけられたと思います。

回答の中で「日本ではひとりもいないとされている」とおっしゃられていましたが、実はかなりの人数の同じ症状の人がいると私は考えています。

この点についてのコメントは保留したいと思います。先天性相貌失認の人が日本にはいない、というのは、単に病気として認知されていないためいないことになっているに過ぎないと私も思います。しかし、それが「かなりの人数」かどうかはわかりません。病気のメカニズム(メカニズムは厳密にはわかっていません。予想されるメカニズムという意味ですが)からいって、やはりこれは稀な病気だと思います。そして、「・・・が覚えられない」というのは、どんなものについても非常によくある訴えですので、「顔が覚えられない」という人のうち、本当に相貌失認である人はごくごく一部だと思います。あなたのケース【0683】は、症状が客観的かつ詳細に記載されていましたので、まず間違いなく相貌失認であると判断できました。そして今回の【0694】で、それが裏づけられました。けれども、【0683】に匹敵する詳細な記載がなければ、なかなか判断はできません。たとえば【0695】のケースは何ともいえません。やはり本来ならば、【0683】の回答にあるような検査をしてみなければ、相貌失認の診断はできないと考えるべきでしょう。

そして残念ながら根本的な治療法はないのですが(後天性であっても同じです)

生きていくのにとりあえず支障はなさそうです。ただしテクニックは必要かな、と思います。観察力をつけるようにしようかな、と思ってます。 

このようにあなたがおっしゃる通り、何らかのテクニックは必要でしょう。そしてそれが認知リハビリテーションの基礎でもあります。

この症状の認知度がもっと上がって、研究が進む日を心待ちにしています。 

そのためには、当事者であるあなた(そしてあなたのご家族)の、経験に基づいたテクニックが、大いに貢献できると思います。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る