精神科Q&A

 【0687】アメリカで抗うつ薬を飲んでいるのですが、帰国してからの治療は?


Q: 私はアメリカ在住の学生、男性の29歳です。 
[現在までの過程] 
 日本に居るときにアモバンという睡眠薬を処方されてそれを服用していたのですが、 数日経過した後、服用後幻覚および錯乱を体験しました。その後は就寝できたのですが、次の日は非常に抑鬱的で非常にいらいらして、かつ暴力的になりました。その翌日はアメリカに帰る日だったのですが、航空機の中でしばらく休む事ができ、だいぶ落ち着きを取り戻しました。 

 しかし、今学期は難易度の高い教科をいくつか取っていたのに加え、上記の幻覚及び錯乱を経験した後からいままでできていた事がどうしてもできなくなり、今迄A以外取った事なかったのにも関わらず試験で失敗するようになってしまいました。何とか取り戻そうと必死で努力したのですが状況は改善せず抑鬱的になってきて、試験が返却された後、力が抜けてしまい車に戻ってしばらく(1時間程度)放心状態でどうやったら楽に確実に死ねるか、また自分は人に迷惑を掛けてばかり等と脳が勝手に思考を繰り返していました。この時は自分の体がうまく制御できず、運転もまともに出来ませんでした。次の日が別の教科の試験だった為、何とか気合いを入れて帰って勉強しました。 

 父親が重大なうつ病で数年間入院して居りましたので、比較すれば大した事無いと考えて居りましたが、一応学校の保健センターに行って相談したところ(死にたいと思っていた事は話しませんでした)、医師の診察を受けておいた方が良いとの助言を受けたため、診察を受ければ何とか為ると自分を騙し、数日後診察を受けに行きました。然し乍ら、その医師は大変不親切で話もほとんど聞いてくれず部屋を出て行ってしまった為最後の望みが切れて、エアバッグを無効化した後高速道路で側壁に200km/h程度で激突すれば死ねるか等と思い、また手元に拳銃がない事を悔やんだりして居りました(1時間程)。

 死ぬ事はいつでもできるし、うまく運転できないため適切な場所に行ける前に事故を起こしてしまうと自分を再び騙し、学校の保健センターに行き状況を話すと、警察を呼ばれて近くの病院のERに送られ、そのまま閉鎖病棟に強制入院させられました。説明として、「私は私自身に危険な為、最大72時間の強制入院を行う、また72時間を超える場合は裁判所の判断になる」との記載がありました。そこではWellbutrinXL 150mg 1日1回朝1錠(以降全て1日1回朝1錠です)を処方されました。またアモバンは危険なので破棄するように指示されました(幻覚の99.9%は薬物によるものであるとの説明を受けました)。結局2泊3日で退院させてもらえましたが、服用後4 日で世界はこんなにも明るかったのかと感動し、嫌な気分がさっぱり消えてしまいました。また、精神科医より州政府及び裁判所に通報が行われ、銃の購入、所持が禁止されました。 

 退院後、退院の条件として外来の精神科医に通うという事であった為、予約を入れて通院を開始しました。初日の診察時間は4時間程で、自分を追い込むような考えはやめる等のお話を頂きました。また「いやな気分をさようなら」という本(先生のサイトのうつ病の図書室にも掲載されている書籍です)を至急航空便で入手しよく読んで、ネガティブな考えのみではなく、ネガティブとポジティブのバランスを取る事も指示されました。考え方を変えないと一生薬を服用しなければならなくなるとの事でした。3回目の通院で、医師と話しているうち、実はanxiety disorder(不安障害と勝手に訳しました)が原因でうつ病を起こしていると診断され、Wellbutrin XL 150mgに加え、Zoloft 25mgを服用するように指示されました。この時、小学生の頃、地震に対する恐怖で体調を崩し数週間学校に行けなかった事や、他に家族や自分の心配事で腹痛が止まらなかった事をお話させて頂きました。 

 Zoloftを服用後2週間程で様々な不安感は薄らいできましたが、医師よりWellbutrin XL 150mgはできれば中止したいので徐々に量を減らす為翌朝よりWellbutrin SR 100mgに切り替えるよう指示されました。XLに戻したい場合はいつでも戻して良いとの指示でした。翌朝SRに切り替えましたが、夜中に強い不安感が襲ってきて、勝手にSR 100mgを夜中に1錠服用してしまいました。このため、翌朝よりは元通りXLに戻しています。現在では時々死ねたら良い等と軽く思う事は有りますが、具体的な自殺の計画等は有りません。また、麻薬覚醒剤等は一度も服用した事は有りません。 

[ご質問] 
1 私の感触としてはWellbutrin XLは大変よく効いているのですが、このまま医師の希望に反して服用を希望しても良いでしょうか。また、その際のデメリットは何でしょうか。 
2 私はただ怠け者で頭が悪いだけで、そもそもうつ病では無いのではないかと感じています(擬態うつ病)。うつ病との診断も文化や考え方の違いによるものではないかとも感じていますが、如何でしょうか。 
3 Zoloftを服用開始後不安感は薄らいだのですが、肉体的に体が重いだるい疲れるなどの症状が度々あります。Zoloftは私には向いていないのでしょうか。 
4 アモバンには確かに精神障害等の副作用があるようですが、これが原因で上記の様な継続的な問題が発現する事はあるのでしょうか。 
5 日本に帰国し、日本の精神科医の診察を受ける場合にはどうしたら良いでしょうか。調べたところ、どちらの薬剤も日本では発売されていないようで不安になりました。 

 私の担当医はコロンビア大学のメディカルスクールを卒業するなど大変優秀な先生ですが、私の英語力が低い為、言葉の微妙なニュアンスが伝わらず苦労しています。また、精神科医は私を心配させまいとどうも本当の事を言って頂いて無いようで却って心配になってしまっています。先生のご方針として「事実を伝えて頂ける」との事ですので、失礼を承知でメールさせて頂きました。 


林: 

1 私の感触としてはWellbutrin XLは大変よく効いているのですが、このまま医師の意向に反して服用を希望しても良いでしょうか。また、その際のデメリットは何でしょうか。 

希望することは構わないと思います。ただし、医師がなぜ減量を示唆しているのか、その理由をよく確認することが必要です。
 服用を続けた場合のデメリットは、一般的なことを除けば(一般的、というのは、どんな薬でも飲まずにすめばそのほうがいいということです)、質問4にもあるとおり、日本に帰国する時点ではどうしてもやめなければならないということです。それを考えますと、他の薬にしていただいたほうがいいと思います。

2 私はただ怠け者で頭が悪いだけで、そもそもうつ病では無いのではないかと感じています(擬態うつ病)。うつ病との診断も文化や考え方の違いによるものではないかとも感じていますが、如何でしょうか。 

うつ病の診断は、ある程度までは文化や考え方の違いによるものもあります。しかし、そうしたものを超えた、はっきりした病気としてのうつ病が存在します。あなたの場合、これまでの経過を拝見すると、うつ病の診断はかなりはっきりしていると思います。擬態うつ病ではないでしょう。慎重な薬物療法が必要です。

3 Zoloftを服用開始後不安感は薄らいだのですが、肉体的に体が重いだるい疲れるなどの症状が度々あります。Zoloftは私には向いていないのでしょうか。 

だるい、疲れるなどの症状が、副作用であるか、それともうつ病の症状であるかという判断はなかなか難しいこともあります。主治医の先生におききください。

4 アモバンには確かに精神障害等の副作用があるようですが、これが原因で上記の様な継続的な問題が発現する事はありうるのでしょうか。 

「ありうるのでしょうか」というご質問に対しては、ほとんど常に「ありえます」という答えになります。しかし、事実上アモバンでこのような問題が継続することはほとんど考えられません。可能性はゼロに近いといっていいでしょう。

ただし、ごくわずかの可能性でも、あなたの経験した幻覚がアモバンによるものであるとしたら、アモバンを続けて飲む理由はありません。他の薬に変えるという処置は正しいでしょう。

なお、

幻覚の99.9%は薬物によるものであるとの説明を受けました

この説明は全くの誤りです。聞き違いではないでしょうか。たとえば、幻覚でもその種類によっては、薬物で生じやすいものがありますから、そのことを言われたのではないでしょうか。ですから私の推測としては、このときの説明は、
「あなたの経験したxxxxxxという種類の幻覚は、その性質上、薬によって生じた可能性は非常に高い」
というようなものではなかったのでしょうか。

5 日本に帰国し、日本の精神科医の診察を受ける場合にはどうしたら良いでしょうか。調べたところ、どちらの薬剤も日本では発売されていないようで不安になりました。

確かにWellbutrin (Bupropion) もZoloft (Sertraline) も、日本にはない薬です。入手する方法はないこともないのですが、正式なルート以外で輸入された薬は、まがいものである可能性も強いのでおすすめできません。米国ご滞在中に、日本にもある薬に徐々に変えていただくようにすることをおすすめします。


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