精神科Q&A

 【0623】母が、体内に虫が潜んでいるといってききません


Q: 私は20歳の女性です。42歳の母の、(本人曰く)体内に潜んでいる虫のことについての相談をお願いしたいと思います。 
家族は父、母、私の3人です。 

おそらく、母はもともと精神的に弱いほうだったのだとおもいますが、そのおかしさに、私が気付きはじめたのは小学生になってからでした。 

きっかけは、私が小学校のプールでうつされてしまった、ケジラミでした。 
髪の毛には卵が産みつけられ、かゆくなるというものです。 
母が、すぐに気付き、薬局に売っている駆除の薬ですぐに治りました。 

しかし、しばらくすると、今度は母の頭にもケジラミが発生したというのです。 
(今考えるとこれも本当かはわかりませんが。) 
彼女自身も駆除の薬を何度か使っていたのを覚えています。 

それで、一旦は終わったと思っていたのですが、私が小学校高学年になった頃、もう一度ケジラミをもらってきてしまいました。そのとき、母親はびっくりするくらい泣いて哀しみました。 でも、すぐに例の駆除で治ったのでそのときの私にはその涙の意味がよくわからなかったのです。 

するとそのあたりから記憶は曖昧ですが、すこしずつ母の様子がおかしくなり、毎日、毎晩のように母は自身の頭を気にするようになっていました。 

頭がかゆく、そわそわするので、専門の病院にも何件か行ったそうです。すると、どこのお医者でも「ケジラミなんていない」と診断されたそうです。 

仕事から帰って来ては彼女は洗面所の鏡の前で、セロハンテープの粘着を利用して、シラミを採集し、ルーペで覗く、といった日々が何年も続きました。 

もう一度、病院へいくと「精神科へ行ったほうがいい」とすすめられたそうです。しかし、母は激怒して「虫は毛穴の奥に巣穴を作って潜んでいるんだ!」と言い張るようになりました。 
私が中学2年のときについに自分で坊主頭にしてしまいました。仕事へ行くときは、カツラをつけていました。 
私も多感な時期だったので文句を言ったりしました。すると「あんたのせいだよ!!!」と大声で言われたことがショックで今でも覚えています。 

その頃から、殺虫スプレー、犬猫用ノミ駆除薬、銀杏、などなど、虫を殺すために色々試しているようでした。 
夜寝る前には、頭のかゆくてそわそわする部位に爪をたてて虫をつぶした(← 本人曰く)後、かゆみ止めを塗り、殺虫スプレーを吹きかけ、ラップで頭皮を包み、周りをガムテープでふさいで(←虫が外に出ないように)耳栓をして寝るのです。 
そんな面倒なことをよくやるなあと思っていたのですが、最近は、仕事で疲れているせいかそれもやらなくなり、その代わりに、かゆい、虫がいると言う部位は頭から全身に広がりました。 
家にいるときは、四六時中、頭にぼりぼりと爪をたて(すごい音がする)、全身の皮膚にも爪を立てるようになりました。 久々に母の裸をみたら全身がただれて傷だらけで、ひどく驚き、ショックを隠せませんでした。 

そんなにひどいなら病院に行こうと誘うのですが、拒みます。 精神科をすすめたこともありますが、「異常者あつかいするな!」と言います。 

「全身の体に虫が住んでいて、シラミ駆除薬は効かない、 今では製造禁止されているDDTじゃないとだめだ。」などと言います。 

今母はどんなに疲れても、仕事を生き甲斐にしていますが、仕事を辞める時(定年)のことを考えると恐いです。私自身、悩み続けて来ましたが、そろそろ本当に深刻になってきてしまいました。私の人生もありますから、そのためにも母親にはよくなってほしいのです。 

春休み中に私だけで精神科へいこうと思っていましたが、 当本人の保険証がないと保険がきかないということや(母が持っていて、言いずらい)、どの病院がいいのかで迷ったりしているうちに日がたっていました。 
その前に一度、林先生にお聞きしたいと思い、メールしました。よろしくお願いします。 


: これは皮膚寄生虫妄想です。お母様の症状は、皮膚寄生虫妄想としてはかなり典型的です。かゆみや異常知覚があり、それは皮膚に虫などがいるためであるという妄想です。そして、実際には虫などいないということを誰がどう説明しても、いないという証拠を見せても、決して納得しないのが普通です。この妄想以外には症状がなく、他の面ではまったく正常ですので、Monosymptomatic hypochondriacal psychosis 単一症候性心気精神病(【0606】もご参照ください)の一種と考えることもできます。

皮膚寄生虫妄想の人は、当然ながらまず皮膚科を受診するのが普通です。そして一通りの検査をして、皮膚科医はやはり当然ながら虫などいないと診断するのですが、これまた当然ながら本人は納得せず、別の皮膚科医にかかったり、自己流の治療をしたりするものです。ですから、あなたのお母様の経過は非常に典型的です。

皮膚寄生虫妄想は難治ですが、抗精神病薬がよく効くことがあります。中でもピモジドpimozide(商品名はオーラップOrap)が有効と書かれている文献が多いのですが、はたしてこの薬が特に有効なのかどうかはよくわかりません。

ですから皮膚寄生虫妄想が治るケースというのは、皮膚科医や家族から精神科受診を勧められ、あまり納得しないままに渋々精神科を受診し、そしてやはりあまり納得しないままに抗精神病薬を飲む、というパターンです。いずれにせよ、治療のためには精神科を受診する以外ないでしょう。


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