精神科Q&A

【0598】子どもの登校拒否のような状態の夫は、神経症? うつ病? 擬態うつ病?


Q31歳の主人は、2年前、独身の時、仕事・上司との人間関係が原因でうつ病になりました。 その時の症状は、頭痛・不眠(ひどいと一睡もできない)・誰にも会いたくない・鳴ってもいない電子音が聞こえる・死んだら楽になれるだろうなと思う、というもので、受診の結果はかなり重いうつ病で、できれば入院したほうがいいと言われました。 
しかし、この時は先生とも色々話し合い入院はせず、約2ヶ月の自宅療養と投薬で(パキシル30r/日、その他細かい量までは覚えていませんがドグマチール、レキソタン、レンドルミン、ハルシオン)で症状は霧がはれるように軽快しました。 

2ヶ月後、実家から通勤出来る部署(営業職から事務職)に配置換えになり、復職しました。 復職後の経過は順調で、半年後には眠剤のみの内服となりました。 

ところが、抗うつ薬の内服を中止して3ヶ月ほどしてから、朝の調子が悪い、会社に行けないといった症状が 出現し、パキシルを再開しました。 確かに、朝の調子は悪かったようですが、休日などは旅行に行ったり外出したりしていました。 

しかし、この時は以前抗うつ薬の内服を開始した時のような霧がはれるような症状の改善は見られず、 パキシルを40mgまで増量しましたが症状はあまり変わりませんでした。 
また、新たに奥歯をかみしめるような緊張感が出始めたためデパス3回/日開始になりました。 

この時、私は症状が軽くならないのにどうして抗うつ薬を変えないのか?と思ったのですが、 担当医の話では今回の症状はうつと言うよりも神経症の気が強い、だからパキシルを増量しても以前のように効果が見られなかったのだろう、内服は変えないで経過を見ようということでした。 

それから約10ヶ月、一進一退を繰り返し現在の症状は以下の通りです。 
現在、一番の症状は「会社に行けない」ということです。 
ただ、うつ病で調子が悪いというのとは少し様子が違うように感じるのです。そう感じる理由としては、確かに朝は行動も鈍く、ぼーっとして調子が悪そうなのですが 調子が悪いので欠勤すると会社に連絡すると、その後は朝の調子が悪いと言っていた のが まるで嘘だったの?と言いたくなるぐらい普段どおり元気(大げさに言えば)になります。 見ている限りですが調子が悪いのはだいたい会社に行くまでの時間なのです。 
また、以前うつ病と診断されたときのように、調子の良い日悪い日の波はなく、ほぼ毎日会社に行きたくないと言います。 今の部署の人間関係は良好で問題はないと言います。行きたくないこれといった理由もないそうです。 

欠勤してしまうと、「家でぼーっとしていたらストレスがたまる一方だし、今日一日何もしなかったと後悔する、 何かしなくては。」と電車に乗って出かけたり、ボーリングに行ったりしています。 

人と関わるのはおっくうなので1人でできることをしていると言います。 テレビをみて笑ったりもしています。会社からの帰宅後、また休日は元気です。 睡眠も眠れない眠れないと言いながらも眠剤を飲むと1時間ぐらいで眠り、中途覚醒も 早朝覚醒も今はほとんどありません。7時間ぐらいは寝ています。 

擬態うつ病?とも思い林先生の本も読んでみたのですが、擬態うつ病とも違うように思うのです。 
もともと責任感が強くまじめな性格で、朝だけを見ているととても苦しそうでずる休みをしている と言う感じではありません。 

だらだらと書いてしまいましたが、一言でいうと「子供の登校拒否」のような感じなのです。 

本人に聞くと、「朝になると会社に行かなくてはと思うが、頭が重くなり、会社に行くのが怖くなり行けなくなる。そんな自分にも腹がたつ。会社に行ってしまえばそれなりに仕事は出来るし、朝のような嫌な気分ではなくなる。」と言います。 
主治医の先生は、今回の症状はうつというより神経症で、うつ病の神経症化といえる、とおっしゃいます。 
現在の内服は・ドグマチール50mg朝(体重増加のため減)、パキシル10mg夕、レスリン50mg眠前 ハルシオン0.25mg眠前、(デパス、レキソタンは頓用→晩は仕事に影響しないため 内服) です。 

ご相談したいのは、 
うつ病の神経症化というものは、治りずらいのですか? 
また、診療所の主治医ではなく、会社の産業医は入院した方が早く治ると言っている ようなのですが やはり入院して治療した方がいいのでしょうか。 


: ご主人の現在の状態は、うつ病の症状だと思います。神経症という診断は誤りでしょう。
発症からこれまでの経過を見直してみましょう。

2年前、独身の時、仕事・上司との人間関係が原因でうつ病になりました。 その時の症状は、頭痛・不眠(ひどいと一睡もできない)・誰にも会いたくない・鳴ってもいない電子音が聞こえる・死んだら楽になれるだろうなと思う、というもので、受診の結果はかなり重いうつ病で、できれば入院したほうがいいと言われました。

これはうつ病の発症と考えられます。その後、

約2ヶ月の自宅療養と投薬で・・・症状は霧がはれるように軽快しました。

このように抗うつ薬が鮮やかに効いたことも、うつ病という診断を裏付けるものです。

その後、半年間で抗うつ薬を減量し、ゼロになってから3ヶ月後、

朝の調子が悪い、会社に行けないといった症状が出現

これはうつ病の再発でしょう。
うつ病がよくなってから抗うつ薬をどのように減量するかは、うつ病の相談室の119ページからにも書きましたが、はっきりした決まりのようなものはなく、経過を見ながら徐々に減らしていくというのが普通です。もっとも、再発を防止するためには減らさずに続けたほうがいいというデータもありますが、この方のように、一回目の発症で、治療経過も良かった場合には、やはり減らしていくのが普通でしょう。

そして、再発したら当然また抗うつ薬の治療を再開します。以前有効だった薬を使うのが常識です。ところが、

この時は以前抗うつ薬の内服を開始した時のような霧がはれるような症状の改善は見られず

以前有効だった薬が、再発の時も有効なケースが大部分ですが、時おりこのように効きが悪いことがあります。理由は不明です。(薬の作用メカニズムから、一応の説明はあるのですが、証明されていることではありません)

ここで次にどうするかは、意見のわかれるところですが、あえて単純に説明しますと、

a. うつ病の再発なら、抗うつ薬を増量するか、別の抗うつ薬に変える。
b. うつ病の再発でなければ、精神療法や環境調整に努める。

ということになります。(a.でも精神療法や環境調整は必要ですし、b.でも薬は必要です。どちらを重視するかを単純化して説明しているにすぎません)

このケースは、うつ病の再発であると私には思えます。ですから、

この時、私は症状が軽くならないのにどうして抗うつ薬を変えないのか?と思った

という、あなたの疑問はもっともだと思います。

ただし、うつ病の再発であるという私の判断は、あなたのメールのみに基づいたものです。それは、朝だけが非常に悪いこと、また、

もともと責任感が強くまじめな性格で、朝だけを見ているととても苦しそうでずる休みをしている と言う感じではありません。

というあなたの観察、それに何より、2年前の発症時の状態は確実にうつ病だったことなどが、うつ病再発という判断の根拠です。

もちろん、直接診察された先生の、

今回の症状はうつと言うよりも神経症の気が強い

というご判断も尊重したいところです。しかし、その後同じような状態が10ヶ月も続いているところをみると、やはりこれはうつ病で、抗うつ薬でしっかり治療すべきだと思います。今のままでは長引く一方で、ご本人もご家族も無用に苦しむことになるでしょう。


うつ病の神経症化というものは、治りずらいのですか?

うつ病の神経症化、というのは、時々使われる言葉で、「うつ病がある程度よくなった後に、神経症のような状態が続く」といった意味です。(はっきりと定義されている言葉ではありませんので、この言葉の使い方は人によって多少は違っています)
この説明を始めると長い話になってしまうのですが、ごくごく単純化しますと、
(1) うつ病の直接の症状
(2) うつ病から二次的に起きた症状 (つまり、うつ病の直接の症状ではない)
の二種類に分けることができます。

(1)は、意味としては簡単です。神経症に見えるけれども、実際にはうつ病の症状(多くは軽い症状)だということです。うつ病が治りきっていないケースや、治った後の再発であるケース(この回答の上のほうに書いたa.) があります。治療は抗うつ薬が中心です。この【0598】はこれにあたると思います。

(2)は(1)に比べると複雑ですが、一例としては、うつ病で休んだことにより生じた状況に対する反応があります。つまり、たとえば一年仕事を休んだために、不本意な部署に異動させられたようなケースです。さらには解雇されたというケースもありうるでしょう。この場合、気持ちが落ち込むのはいわば当然の反応です。しかも薬で単純に治せるというようなものではないのは明らかです。上のb.に書いたとおり、精神療法や環境調整が必須になります。しかし、解雇のような大きな変化があれば、落ち込みは長く続くようになるでしょう。うつ病が長引くと、このように二次的、さらには三次的影響が出てくるのは、うつ病の相談室129ページにも触れたとおりです。だからこそ、うつ病であれば、早めに抗うつ薬を飲んできちんと治すことが必要なのです。
また、(2)の場合、はたしてそれが本当に二次的な症状なのか、それともうつ病が再発しているのか、わかりにくいこともよくあります。このため治療はますます困難になります。

うつ病の神経症化というものは、治りずらいのですか?

このご質問に対しては、(2)のタイプの場合は治りにくいといえるでしょう。
(何度も言ったとおり、ご主人は(1)だと思います)


また、診療所の主治医ではなく、会社の産業医は入院した方が早く治ると言っている ようなのですが やはり入院して治療した方がいいのでしょうか

現在の処方は、ご主人の今の症状がうつ病だとすれば、不十分です。この薬を続けていても治らないでしょう。ということは逆に、処方を変えれば速やかに回復することは十分期待できると思います。また、他の症状がなく、朝の気分だけが問題だとすれば(メールからはそのようにも読み取れますが、本当は何ともいえないと思います。よく診察すれば、それ以外の症状があることは非常に多いものです。いま「朝の気分だけが問題だとすれば」と言ったのは、あくまでも仮定です)、リタリンを使うという方法も考えていいケースだと思います。
 けれども、一進一退の状況がすでに10ヶ月続いているという現状では、心機一転して治療に専念するという意味でも入院を考えていいと思います。入院した方が早く治るというのは、産業医の先生のおっしゃる通りだと思います。


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