精神科Q&A

【0484】パニック障害にも「擬態」というものがあるのでしょうか


Q: パニック障害にも「擬態」というものがあるのでしょうか? 私の義弟が中学生の時に「胸が苦しい」と病院に行き、精神科の先生の診断で「パニック障害」と診断され、それ以降は薬のみの治療を現在もしています。中学二年生の頃から引きこもりをしていた彼でしたが、18歳になり就職をしたのですが、人間関係がうまくいかずやはり「パニック障害」を理由に勤め先を転々とし、結局は働く事を辞めてしまいました。
 彼の兄である主人が会社を経営していたこともあり、家に同居をして仕事をしていましたが何かにつけ「パニック障害」を口にだし、仕事場の人やお客様にも「自分はパニック障害だ」とまるで自慢しているかのように言い廻ってしまいます。挙句の果てには「病気で生きる希望が無くなった」「働かなくてもいい」「お金なんて人生に必要が無い」と言い出し、仕事をしなくなってしまい実家に帰ってしまいました。彼の父親にも問題があると思いますが、主人の他の2人の兄弟達も彼に対する関心が薄く彼が具合が悪いと言えば「可哀想に・・・」と言って彼に同意してしまい又もや引きこもりをしています。私から見ても主人から見ても周囲の人から見ても「正常」にしか見えません。ですが、「働くこと」「社会生活」このキーワードを聞くと、とたんに「パニック障害」を口にしています。私自身は彼が「パニック障害」の症状である発作などを見たことは無く、最近では家族も「症状」を目にしていません。病院に行って帰ってきた彼に「どうだった?」っと尋ねると「えっ!一生治らない病気だから・・・何も変わらないよ。」と答えます。病院を変えてみたらとか先生に一回会わせて欲しいと言うと極端に抵抗しますし、手がつけられません。パニック障害とかうつ病などの診断が難しいものだと言う事は私自身も色々と調べた結果知っていますが、どう考えても「狂言」「心配をしてもらいたいだけ」「甘ったれ」にしか感じることができないのですが・・・家族として今後どう接していけばいいのかをとても悩んでいます。

: まず主治医にお会いして今の状態の説明と、それからできれば家族としての対応方法をお聞きすることが第一です。
「先生に一回会わせて欲しいと言うと極端に抵抗しますし、手がつけられません」
とのことですが、家族としての適切な対応方法は主治医から聞かなければわからないことですので、その点をこの方によく説明し、それでも「抵抗する」ということなら、協力は拒否するくらいの姿勢でよいと思います。

 どんな病気にも疾病利得(しっぺいりとく)というものがあります。疾病利得とは、病気であることによって、何らかの有利な点があるということです。これを強調しすぎることは、病気の人に対する不適切な対応につながりますので、軽々しく疾病利得ということを口にするべきではありませんが、この方のようなケースでは、疾病利得を享受している、言い換えれば、病気であることを利用して好き勝手にふるまっていると考えざるをえません。

 ただし、傍目からはそのように見えても実際は違うというケースもありえますので、主治医に確認することが必要なのですが、その主治医に会うことを本人が「極端に抵抗する」ということは、本人にも何か「病気」の本当の内容を人に知られたくない理由があると当然考えられます。そしてそれはこの場合、病気であるという役割に安住している姿があると疑われます。(一般には、病気の本当の内容を人に知られたくない理由はさまざまですが、今いったのはあくまでこの場合に限ってのことです)

「「働くこと」「社会生活」このキーワードを聞くと、とたんに「パニック障害」を口にしています」
これが事実だとすれば、まさに疾病利得を享受していると判断できます。

ただし、
「私自身は彼が「パニック障害」の症状である発作などを見たことは無く、最近では家族も「症状」を目にしていません」
 これは、パニック障害であるとかないとかいう判断の根拠にはなりません。治療がうまくいけば発作は抑えられるので、周囲の方が長い期間発作を目撃しないことは十分ありえます。また、発作そのものが長期間なくても、本人はいつ発作があるかわからないと、常に不安を感じておられることもよくあります。そういう場合は治療を続けることになります。

もっとも、
「病院に行って帰ってきた彼に「どうだった?」っと尋ねると「えっ!一生治らない病気だから・・・何も変わらないよ。」と答えます」
 とのことですが、パニック障害は決して一生治らないという性質の病気ではありません。それに、「治らない」ことを本人がこのような言い方で強調することは、やはり疾病利得を手放したくないという態度だと思います。

 以上、きびしめの回答をしましたが、その背景には、この方のようなふるまいは、本当にパニック障害で苦しんでおられる方に対して非常に失礼であると私が考えているということがあります。どんな病気でも、それに耐え、あるいは病気であることを隠しながら、生活している方がたくさんおられます。そうした多くの方の努力に対し、この方のような態度は冷水を浴びせるようなものだと思います。

 なお、ご質問のなかで触れられている擬態うつ病という言葉は、私はもっと広い意味で使っています。たとえば、本人には決して疾病利得を求める気持ちがなくても、うつ病を擬態してしまうことはしばしばあります。このあたりのことは擬態うつ病をお読みになっていただきたいと思います。

 それはともかく、擬態うつ病の増加の背景には、うつ病についての情報の氾濫など、いくつもの要因があります。だからこそ私はあえて擬態うつ病という言葉を作ってみたという事情があります。

 他の病気については、疾病利得のためにその病気に安住しているケースをすべて擬態と呼ぶ必要はないと思います。

 ですからご質問のタイトルである、「パニック障害にも擬態というものがあるのでしょうか」に対する答えは、「どんな病気にも擬態にあたるものはありますが、それらをすべて擬態と呼ぶ必然性はないでしょう」ということになります。

 


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