精神科Q&A

【0464】祖父が亡くなったあと様子が一変した母は単なるアルコール依存症でしょうか


Q: 私は29歳女性(既婚・1児の母)です。私の母(52歳)のことでご相談いたします。

 母は、2年ほど献身的に介護していた祖父(癌)が亡くなったころから、様子が一変しました。

 以下の通りです。

・家事を一切しなくなり、部屋に閉じこもるようになった。本人は体の不調を訴えていました。(それは不定愁訴で、毎日どこか必ず具合が悪いと言っていました。内容は日によって異なり、更年期の治療を始めたところ、体のほうは楽になったようですが、閉じこもりは変わりませんでした)
・24時間、チビチビとした飲酒を毎日家族に隠れてしていた。泥酔したことはないのですが、種類は問わずかなりの量を飲酒していました。(ビールの缶が数日でゴミ袋いっぱいになる程で、それ以外にも、押入れに缶を隠したり、こっそりとコンビに等で捨てていた様子)
 本人は「不眠のため」と言っていますが、昼間でも隠れて飲酒していました。また、夜中でも 起き出して毎晩飲酒している状態でした。それ以前は晩酌程度の飲酒量でした。
・身だしなみや清潔に対する意識がなくなった。(もともとお洒落ではなかったのですが、ジャージ等で1日を過ごし、しかも何日も入浴せず、着替えもしないので悪臭が漂うほどでした)
 入浴はたまに外出(病院など)する時のみ仕方なくする・・・といった状態で、身なりはやはりジャージでした。
・親戚に対して、時に褒めてみたり逆に悪口を言う等の矛盾がみられた。祖父の介護に対する他の兄弟の対応に不満をもらしていました。
・ある同じ食べ物を1ヶ月以上毎日必ず摂取していた。(饅頭が続く時、うどんが続く時となど、ある期間ずっとそれしか食べないので、よく飽きないものだと疑問に思うほどでした) 以前はそのような食生活ではありませんでした。
・パチンコ店に朝から晩まで毎日入り浸るようになった。一度、探して無理やり引き戻した事がありその後は行っていないと本人は言っています。
 (ギャンブルに嫌悪感を持っていた人でしたので、大変驚きました)
・同じものばかりいくつも購入し、使わず埃にまみれている。病的というほどではないかも知れませんが、洗剤や安物のTシャツ・台所用布きんなど、必要以上いくつもいくつも買ってきます。本人は「安いうちにまとめ買いしているだけ」と言っています。
・良い時は大変多弁で、人の話を遮ってでも自分の話をします。もともとそういう傾向は あったのですが、それが著しくみられました。
・夜中や早朝に親戚の家に電話をし、祖父の介護の不満をその家の子供に懇々と訴えていたそうです。それが度々あったと、後日聞かされました。
 その件について母と話し合いましたが本人は全く悪びれた様子もなく「だって姉さんの子供なんだから いいじゃない!」と答え、反省しませんでした。
・「悪夢を見た」と言って、睡眠中奇声をあげることが度々ありました。人が襲いかかってくる夢や、死んだ祖父が枕元に座り、恐い目で睨まれた夢をみたと言っていました。
・後に当時を振り返り、「あの頃は死にたいと思ったことはなかったが、死んでもいいとは思っていた」 と母が言っていました。

 以上のことから、2年半ほど前に母を精神科に連れて行ったのですが「アルコール依存」ということでした。

 内服(マイスリー・ルジオミール)とカウンセリングを主に治療を始め、1年が経ちます。

 最近では徐々に閉じこもりもなくなり、飲酒量も減ってきました。また、人との交流も積極的になり、家事も不完全ながらするようになったのですが、近頃再び別の症状が出てきました。(現在内服薬は中止となっています)

 実は昨年末に弟が結婚したのですが、そのお嫁さんと同居するようになった為、母は気をつかい、お嫁さんに恥ずかしくないよう、家事等に力を入れていました。

 また、仕事を持つお嫁さんの為に食事の支度は殆ど母が担当していました。

 母は毎日大きな買い物袋をいくつも買い込み、常に食事の支度のことが頭にあったようです。

 母は裕福な家庭に育ち(お手伝いさんがいたような家庭)、家事は不得意でしたのでかなりの負担になっていたようです。

 また近頃はインターネットにはまり、1日中あるサイトの掲示板にアクセスしていました。夜中まで起き出してネット仲間と交流し、時にはオフ会にも参加していました。

 その入れ込みようは、PCを扱う私から見ても異常で、その掲示板上で人間関係のトラブルが勃発すると(他人のトラブルです)、それはもう、そわそわと落ち着きがなくなり、PCの前で溜息をついているような状態です。

 また、ある日回線工事により数日ネットの接続が出来なくなったことがあったのですが、それはそれは大騒ぎして、工事を急がせたこともありました。

 そんなある日、些細なことで母と口論となったのですが、それ以降「私のこといいように使って!!」「あんたはお父さんとグルになっている!」「あんたの為にどれだけの時間割いてると思ってるのよ!!」

と言って私を拒絶するようになりました。確かに結婚後も実家には頻繁に出入りしていましたが、かと言ってそれ程大きな面倒をかけたとは思えません。(父と私は確かに気が合い、考え方も似ています)

 そして翌日早朝には、物を投げ、気違いかと思うほど大きな声で号泣し、父に罵声をあびせたそうです。(父とは以前、離婚の話が出たこともあり、夫婦関係は破綻に近い状態でしたが、弟の結婚・同居を機にそれは小康状態でした)

 実は1ヶ月ほど前にも似たような状態になったことがあったのですが、その時は話し合いで直ぐに治まりました。

 母には心を許せるような友人がひとりもいません。今まで何十年間も、母の友人が訪ねてきたのを見たことがありませんでした。(そんなことも、いまの状態に関係しているのでしょうか)。

・・・というのが、現在までの経緯です。

 内服薬の内容から「うつ」だと確信していたのですが、先生のHPを拝見して照らし合わせてみても一般的なうつとは違うような気がします。

 ボーダーライン(境界型人格障害)も疑ってみたのですが、これもよく分かりません。

 精神科の主治医からは「うつではない、軽度のアルコール依存です」と説明されたのですが、それだけとはとても思えません。

 林先生は、どのように診断されますでしょうか。是非、教えてください・・・。

: お母様は、うつ病ではありません。境界型人格障害でもないと思います。アルコール依存症であることは確実です。問題は、それ以外に何か病気があるかどうかということです。私は、何かあると思います。少なくとも、何かあるかもしれないと考えて、検査をすべきです。その「何か」とは、脳の変性疾患(痴呆の一種)です。診断のための検査としては脳のMRIと脳波が必要です。また、その「何か」の有無にかかわらず、まずアルコールをやめることが必要です。

 お母様の症状は、お祖父さまが他界されたことをきっかけに始まっており、症状は多彩ではありますが、「人格変化」とまとめることができます。これは、脳の変性疾患のように、脳そのものに何らかの障害があるときに見られる症状です。これを器質的人格変化といいます。

 もっとも、お母さまの症状が始まったきっかけがお祖父さまの他界、すなわち、

「2年ほど献身的に介護していた祖父(癌)が亡くなったころから、様子が一変しました」

とのことですので、一見すると心理的な原因に対する反応のように見えますが、その内容がもともとのお母さまの人格とはかけ離れていること、長く続いていること(具体的な期間は不明ですが、2年半前に精神科を受診されているということは、少なくとも2年半以上は続いていますので、「長く続いている」と判断できます)、さらにどの症状も脳の器質的障害による人格変化として矛盾はないことから、心理的な原因に見えるというのは表面的なことにすぎず、実際には脳の中に原因がある可能性がきわめて高いと判断できます。脳の中に原因がある場合でも、お母さまのように、一見すると心理的ストレスが原因であるように見えることはよくあることです。

 そして脳の中の原因を見るには、まずはMRIかCTの検査をすることが必要です。脳波もとったほうがいいでしょう。したがいまして、最初に申し上げたとおり、診断のためにはこれらの検査が第一ということになります。もっとも、それはそれとして、アルコール依存症であることも確かです。

 そしてすべては検査所見が出てからということになりますが、お母さまの臨床症状からもっとも考えられるのは、前頭側頭型痴呆だと思います。
 


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