精神科Q&A

【0396】一人暮らしの隣人に被害妄想の矛先を向けられ恐怖でいっぱいです


Q:  33歳女性です。主人と二人暮らしです。アパートの隣の部屋に住んでいる一人暮らしの女性(40歳位だと思います)のことでここひと月余り、怖い思いをしており、なんとかアドバイスを戴けないかと思いましてご相談します。以下、私をA、その隣人の女性をBとさせていただきます。
 3週間ほど前に、隣の部屋から深夜、壁を殴る音が聞こえました。
 そして、翌日にその部屋の女性が、もの凄い剣幕で怒鳴り込んできました。
(ドアを激しく叩きチャイムを鳴らせ続け「Aさん!ちょっと!Aさん!」と大声で怒鳴る)
 たまたま主人が在宅していましたので二人で話を伺ったところ、
「我が家の壁から昼夜問わず騒音がしてうるさくて我慢ができない。眠れない。」
「一日中ストーキングされていて、料理をしていれば"味噌を入れたよ"と嘲弄され、窓掃除をしていれば"それ誰が使った歯ブラシ?"と嘲笑される。」
「ビームが飛んできて痛い。」
「薬などは一切飲んでいないのに、昼過ぎまで眠ってしまう。」
などと、大変な剣幕で苦情を言われました。警察にも何度も通報しているとの事です。
でも、もともと私自身が音に対して過敏なので、我が家では夫にも協力して貰って、戸の開け閉てなどの音も響かないようにスポンジ剤で保護等したり、相当な注意を払って暮らしていますのでBさんのおっしゃるような音が出る可能性はほぼ99%ありません。
でもBさんには我が家からの騒音、ストーキングのいやがらせ会話が聞こえるのだそうです。
 私は以前から林先生の精神科Q&Aを拝見していましたので、苦情を伺っている時点で、Bさんの仰る内容が統合失調症(精神分裂病)の典型的症状ではないかと思いました。また、被害妄想の対象にされていると思うと不安でたまらず、アパートの管理会社や、保健所にも相談をしているのですが、当人が精神科医に会う事を拒否すれば治療も措置入院への運びも難しいという様なことを言われ困り果てています。
 騒音被害を訴えている当人は「本当に聞こえるんだから」の一点張りで幻聴という発想など全く持っていらっしゃいません。
 年明け、再び壁を殴りつける音が響いてきたので怖くなり交番に電話をしたところ、「前にBさんから通報があって見回りに行った事がある。少し精神的に不安定みたいだねぇ」といった呑気な対応です。
 もし、Bさんが統合失調症(精神分裂病)であれば、このままでは進行してしまって危害を受けるような事になりかねないと非常に不安です。この騒動の合間に聞いた限りでは、別居の娘さんと、ご実家に家族がいらっしゃる様でしたが、実際アパートでは一人暮らしで、ご家族の所在もどんな方かも分かりませんので、ご家族から通院を勧める様な事も望めません。
 壁を殴ってきたことについて、主人がBさんに事情を伺いに行き、また、翌日には管理会社の人に同席してもらって互いの部屋の確認をしたのですが、
「尋常ではない騒音が耐え切れなくて壁を殴った」
「Cさん(うちとは反対側の隣の人です)が屋根裏を伝ってお風呂や台所の様子を監視しに来ている」
「一日中どの部屋でも(4部屋の造りです)壁や天井から尋常じゃない騒音がする」
「CさんとAさん、階下の数件の人たちでストーキングをしていて嘲笑している(部屋の左右から「ねぇ、見た見た?」「凄いよねぇ」等、会話で聞こえるとのこと)」
「天井を歩く音や、監視カメラかマイクを引きずる様な音、人が落ちる音がする」
「眠ろうとすると催涙ガスが充満してきて苦しい。眠れない」
「寝ている間にビームが飛んできて痛いし襟足の髪が切れてしまう」
「部屋に居ると明かりが暗くなったり明るくなったりする」
「音を録音しようとすると外から呼子が合図し合って立ち消える」
など真剣に訴えており、我が家の家具の配置や用途を見てもらって「私達には覚えの無いことです」と説明しても、ある程度は納得してくれますが「でも、絶対ここの壁から聞こえる。どうして?!」と怒鳴ったりされるので疑いが晴れることも無く、怖くてたまりません。
 ともかく治療を受けてもらう事が一番の望みなのですが、親しくもなく、しかも被害妄想の対象にされている私達から通院を勧める事はできません。
 ご本人は精神科のお薬などに対しても非常に抵抗を持っている方らしく、精神科医の方に会うことも拒否するのではないかと云う様な状態なのですが、精神保健福祉法の23条や24条で、どうにかしてこの方に必要な保護と治療を受けてもらう様にできないものでしょうか。
 どの機関も傷害事件などが起きてからでなければ動いてくれないものなのですか?
交番にも大まかな事情を話したのですが、「転居した方がいいね」という様なアドバイスしかありませんでした。
 主人は仕事で大変忙しくしており、この事にばかり時間を費やすことはできませんし、  昼間一人で在宅している私は不安で萎縮しきってしまい、音を出すのが怖くて掃除・洗濯・調理などもまともにできない状態で、不便と苦痛に耐え切れなくなってきています。
音が聞こえ始めたのは半年前からだそうで、当時は時々だったそうですが今では毎日とのことで、被害妄想の矛先を向けられている身では、危害を受ける前に一刻も早くどうにか解決して貰わなければ恐ろしくてたまりません。

: 転居されることをお勧めします。
 このような回答をするのは非常に残念かつ不本意ですが、あなたにとっての現実的で確実な解決法は、転居することだと思います。このままでは危険です。他人をあてにするより、逃げたほうがいいと思います。
 ご質問の中にある、精神保健福祉法の第23条は、ご承知とは思いますが、次のようなものです。
「精神障害者又はその疑いのある者を知った者は、誰でも、その者について指定医の診察及び必要な保護を都道府県知事に申請することができる」
【0321】にも書いたことですが、この法律がある以上、あなた自身が通報することは可能です。この申請がなされた場合の都道府県知事の対応は第27条に記されています
「都道府県知事は、第23条から前条までの規定による申請、通報又は届け出のあつた者について調査の上必要があると認めるときは、その指定する指定医をして診察をさせなければならない」
そして指定医の診察の結果、措置入院になることはあり得ることです。

 けれどもあなたがお聞きになりたいのは、「措置入院になることはあり得る」などという曖昧なことではなく、現実にはどうなることが多いのかということだと思います。それがあなたのご質問のひとつ、
どの機関も傷害事件などが起きてからでなければ動いてくれないものなのですか?
につながっているのでしょう。
この質問に対する回答は、ケース・バイ・ケースと言わざるを得ません。地域によっても、また直接の担当者の考え方によっても違ってくるでしょう。
 つまりそれは、上記の法律の文言にある、「疑い」をどう解釈するか、また措置入院の法律の文言にある「おそれ(自らを傷つけ、または他人に害をおよぼすおそれ)」をどう解釈するかにかかってきます。
 被害妄想の矛先を向けられているあなたにとっては、この方があなたに害をおよぼす「おそれ」は非常に高いと思われるでしょう。私もそう思います(ただしあくまでもメールの文面からそう思えるということです)。
 しかしこの判断は間違っているかもしれません。
 もし間違っていたら、本来は拘束される必要のない人を拘束してしまうことになります。これは重大な問題です。そして「おそれ」の段階で動けば、何パーセントかの確率で必ずそういうことは起こります。
 あなたの場合はどうでしょうか。もちろんこのまま放置してあなたが被害を受けるかどうか、本当のことは誰にもわかりません。
 現実には本当はどうかということよりも、あなたを守ってくれる可能性のある人がどう判断するかが問題になります。
 そうしますと、あなたはすでに保健所に相談して不本意な回答を受け取り、また警察にも相談し、「転居したほうがいいね」という答えを頂いているとのことですので、傷害事件でも起こらない限り、動いてもらえないと理解するべきでしょう。(なお、精神病院に直接相談に行くのは、他人であるあなたが行っても【0309】のようなことになってしまうでしょう)
 
 私は必ずしもそういう状況が好ましくないと言っているのではありません。
 「おそれ」の段階で動くことについては、慎重になるべきなのは当然です。
 しかし、それは第三者の言うことであって、当事者であるあなたにとっては、「おそれ」が極めて高いと実感されているわけですから、話は別です。
 もしこの「おそれ」があなたの杞憂、つまり客観的にはおそれが無いのだとしても、すでにあなたは
「昼間一人で在宅している私は不安で萎縮しきってしまい、音を出すのが怖くて掃除・洗濯・調理などもまともにできない状態で、不便と苦痛に耐え切れなくなってきています。」
という状態ですから、このままではあなた自身の心身が害されることになると思います。

 この隣人のBさんについては、何とか治療を受けさせてあげたいと私は思いますし、あなたもそれについては同じだと思います。しかし、メールを拝読した限りではそれはかなり難しい状況に見えます。また、あえて申し上げますが、あなたはBさんのことよりもあなた自身を大切にすべきでしょう。ご自分のことを第一に考えれば、この状況からは逃げるのが最善だと私は思います。もう一度だけ繰り返しますが、これは非常に残念で不本意な回答です。けれどもこれが現実です。


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