擬態うつ病 / 新型うつ病
         実例からみる対応法
    林 公一 著  保健同人社
      2011年4月発売

2001年に擬態うつ病を出版してから、ちょうど10年が過ぎ、「対応法」をまとめることができました。以下、本書『擬態うつ病 / 新型うつ病 実例からみる対応法』あとがきの前半部分です。

うつ病という病名を告知するとき、私は患者さんに、「うつ病という病気には、ひとつとても良い点がある」と必ずお話しています。
うつ病という病気の良い点、それは、「うつ病は、治る」ということです。
しかも、治るためにするべきことは、簡単です。「薬を飲んで、休養を取ること」です。
いや、うつ病の治療が簡単とは言いません。うつ病が治るためには、患者さん本人は、薬を飲み、休めばいい。がんばらなくていい。そういうふうに、受け身的でいいことを、簡単と表現しているにすぎません。
かつて、うつ病には有効な治療法がありませんでした。
ところが、一九五〇年代に抗うつ薬が発見されてから、このつらく苦しいうつ病という病気の治療法は目覚ましく進歩しました。そして確立されたのが、「薬を飲む。休養を取る。がんばらない」を中心とする、うつ病の治療原則です。
この原則は、時代が変わっても変わることはありません。
けれども、あろうことか、日本社会の状況の方が変わってしまいました。
擬態うつ病の誕生と増殖です。
うつ病でないものがうつ病とされたり、うつ病と称されたりすることで、いったい真のうつ病とはどのようなものかが、曖昧になってしまっているのです。
その結果は、治療法にも影響しています。何十年もかかって確立された、うつ病の治療法への信頼がゆらいでいます。うつ病でないものに、うつ病の治療や対応がされていることが多いことがその理由です。そんなことをしてもよくなるはずはありません。すると、「うつ病の治療や対応法と呼ばれているものが間違っているのではないか」という疑問が生まれるのは自然です。しかし事実はそうではなく、間違っているのは「うつ病の治療や対応法」ではなく、そもそもその人が「うつ病」である、という認識の方なのです。
このようなことの余波として、真のうつ病の人たちが最適な治療を受けにくいことさえ起きています。
うつ病という病気の認識が高まっても、これでは本末転倒です。
いや、いま高まっているのは、うつ病という病名の知名度だけで、うつ病という病気の認識は高まるどころか混乱に向かっているというべきでしょう。
しかも、擬態うつ病の一部が、新型うつ病として市民権を獲得しつつあるという、予想だにしなかった状況が現れています。ニセブランドが、あたかも真性のブランドの分家であるかのように大手を振って歩いているようなものです。

このような状況にあたって、擬態うつ病 / 新型うつ病 への対応法を示したのが本書です。この本での「対応法」とは、周囲がその人にどう対応するかということと、本人が本人の状態にどう対応するかということの両方を含んでいます。つまりこの本は、本人や、家族や、周囲の人たち、すべての方々のために書いた本です。

章立ては以下の通りです。

1章 甘え
断章 うつ病
2章 適応障害
3章 仮病
4章 新型うつ病 ?
5章 境界性パーソナリティ障害
6章 注意 !



本書の実例も、私の他の著書と同様、原則として、このサイトにいただいた相談メールの内容を、個人情報保護などに考慮して改変したものです。公開を前提として貴重な体験をお寄せいただいたサイト読者の皆様に深く感謝申し上げます。

 

(2011.4.5.)