#5 擬態うつ病 林公一著 宝島社新書 2001年 / 2007年復刊

「擬態うつ病」という名が初めて公表された原著です。
初版の2001年は、ごく一部の人々にはご評価いただいたようですが、反響としては大きいとはいえず、発行部数もわずかにとどまりました。その後、事実上絶版の状態でしたが、2007年に復刊し、初版当時よりも大きな評価をいただくことができたという経緯があります。以下は初版の紹介として2001年に私が書いた文章です:

 うつ病についての、わかりやすくて嘘のない本を書きたいと、私はずっと思っていました。それがようやく形になったのが、この「擬態うつ病」です。擬態うつ病というのは私の造語で、似て非なるうつ病のことです。

 うつ病についての知識は、最近ではかなり広まってきているように思います。それは患者さんにとって大きな恩恵になる一方で、症状に思い当たるものがあるために、うつ病を心配したり、うつ病だと思いこんだりする人も増えてしまっているようです。うつ病の中心症状は気持ちの落ち込みですから、無理もないことだとも言えるでしょう。そういう似て非なるうつ病をまとめて擬態うつ病と名付けました。

 擬態と言うからには、外見は似ていますが、本質は違っています。ですから、うつ病と同じ治療をしていても治りません。擬態うつ病の背景には、社会の風潮や、医療の問題や、甘えをはじめとする個人の姿勢があります。そういう背景も分析しながら、擬態うつ病を描いてみました。私は、うつ病よりもむしろ擬態うつ病の方が、現代病という名にふさわしいと考えています。

 私の真意は、擬態うつ病というものを描くことにより、逆に本物のうつ病の輪郭をはっきりさせようということです。だからこの本の主役は、擬態うつ病ではなく、本物のうつ病なのです。「擬態うつ病」というタイトルは実は擬態で、本当はうつ病の本を意図して書いたものです。本物のうつ病とは何かをわかって頂ければ、治療の恩恵を受けられる機会も多くなります。せっかく良い治療法があるのに、色々な誤解のためにそれを受けていない人が少なからずいらっしゃるのは残念なことです。もちろん、現代病としての擬態うつ病を描くことも、本書の目的のひとつではあります。

以下に章立てを示します。
第1章 擬態される、うつ病
第2章 うつ病は「こころの風邪」ではない
第3章 擬態うつ病はなぜ増殖したのか?
第4章 感情の進化と擬態うつ病
第5章 擬態うつ病への処方箋
第6章 うつ病の治療


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