対人恐怖症

 

対人恐怖症の実例


 

 

 

 

 

鈴木さん(仮名、20歳女性)は、人の視線が怖い。人と目を合わすことに恐怖を感じるのだ。といっても、人の目つきが怖いということではない。反対に、自分の視線や表情が、人に悪い印象を与えるのが怖いというのに近い。つまり、相手に対して自分が一瞬でもよくない感情を持つと、それが自分の表情に出てしまい、それを見て相手が自分を嫌な奴だと思うのが怖いというのが根底にあるように自分では思う。

いつごろから人の視線が怖くなったのか、自分でもよく思い出せない。ただ、かなり小さいころから、人の顔色をうかがっていることが多かったように思う。だからいつからこんなに悩み始めたかよくわからない。しかしよく考えてみると、中学3年の時、一度試験で大失敗をして悪い点を取ってしまい、それが表情に出てしまったことで友人の手前恥ずかしい思いをしたのがきっかけだったような気もするが、はっきりしない。ただ勉強は結構できる子だったので、この時のエピソードがかなりショックだったことは確かである。

いずれにせよ、今は人の視線が怖いために、人と会うのを避けることが多い。といっても表面上は生活にそれほど支障はない。家族やとても親しい2,3人の友人と目を合わすのはぜんぜん平気である。また、逆に初対面の人、全く知らない人も平気である。何回か会って名前は知っている程度の人が一番苦手なのだ。

 

 

解説

鈴木さんのような症状を視線恐怖といいます。視線恐怖は、対人恐怖症の症状としてはかなり多いものです。中心となるのは「人の視線が怖い」ということですが、鈴木さんのように「自分が他人の目にどう映っているか」を気にすることの結果として、人の視線を避けたくなるのが、対人恐怖症としての視線恐怖の特徴です。ただしこのようなことは、誰にでもある程度はあることです。軽い場合には単なる恥ずかしがりやと区別がつきません。人は10歳から20歳くらいの間に、自分を客観的に見る力がどんどん強くなってきます。そうすると他人からの評価や自分が他人からどのように見られているかを気にするという心理が生まれます。ですからこのくらいの年齢では、ある程度は対人恐怖的になることは健康なこととも言えます。

鈴木さんの場合は、はっきりしないながらもきっかけがありましたが、きっかけは全くないこともあります。また、鈴木さんのように優等生的だった人に多い傾向はありますが、優等生的な人だけにあるとは限りません。もうひとつ、鈴木さんのように、とても親しい人や、その反対の初対面の人はぜんぜん平気ということもよくあることです。中途半端な知り合いがいちばん苦手ということが多いのです。

いずれにせよ、軽い場合は、誰にもあることと思って気にしないことが第一です。対人恐怖の悩みから立ち直った人は、口をそろえて「開き直ったのがよかった」とおっしゃっています。あまり気にしないこと、開き直ること、平凡ですが、そういうことを心がければ、自然に治ることが多いのです。

ただ、対人恐怖のために外にあまり出られなくなるなどの支障が出た場合は、精神療法や抗不安薬などの治療が必要になります。

また、症状としては対人恐怖でも、実際にはほかの病気の症状であることも非常に多いものです。その場合は治療法が全く違ったものになります。ぜひ似て非なるケースもお読みください。 

 

戻る

対人恐怖症のトップページに戻る

ホームページに戻る