精神科Q&A

【2349】お腹の音のせいで人生が狂ってしまった


Q: 20代女性です。ずっと悩んでいることがあるのですが、誰にも相談できないので林先生に聞いていただけたらと思いメールしました。 私は中学3年生の終わりごろから授業中よくお腹がなるようになりました。 とても恥ずかしかったです。 それからお腹が鳴りそうだと思うと焦りや不安を感じるようになりました。 だんだん静かな場所が苦手になってきました。 高校に入学すると、中学に比べて授業中に騒ぐ人間などおらず、さらに静かな環境となりました。 試験も多く、お腹の音の事で不安や焦りを感じる機会が増えました。 実際に授業中に鳴ってしまったときには恥ずかしさで半ばパニックに陥り、動悸がし汗が止まりませんでした。手足の先が冷えてぴりぴりと痺れるような感覚もありました。 ある時、どうにも不安になって試験中に退室してしまいました。 それからというもの授業も途中で保健室に逃げ込むことが増えました。 もともと平熱が高かったため、微熱だということでベッドで休ませてもらえるのですが、そのときも気が気ではありませんでした。 隣のベッドには他の生徒が寝ているし、近くに先生もいるので、お腹の音が気になって休むことなどできないのです。 学校に気の休まる場所がないので、早退が増えました。 試験も別室受験になりました。 別室受験ですら同じ部屋に数人の他の生徒と監督の先生がいるため、お腹の音が不安で途中退室する有様でした。 このころ学校の勧めで精神科に通っていましたが、悩みを正直に話しても相手にしてもらえないだろうと思っていたので「学校に行くとお腹が痛くなる」と嘘をついていました。 症状について嘘をついているのだから当然悩みは解決しませんでした。 精神科の静かな待合室にいることも苦痛でした。 授業が受けられないので成績は下がり、せっかく勉強してきても試験が最後まで受けられないので赤点ばかりになりました。 高校2年生になると学校へ行くこと自体が恐怖となっていました。 「学校へ行けばまたお腹の音のせいで恥をかいたり不安や焦りと一日中闘わなければいけない」そう思うと涙が止まりませんでした。 結局、不登校になりました。 自分でもお腹の音が原因だなんてあまりにもくだらないと思っていたので、情けないやら恥ずかしいやらで家族にも相談できませんでした。 母も最初は優しくしてくれたのですが、私が理由も話さず学校に行かないことに段々と怒りが湧いてきているようでした。 ある日、家で私が泣いている最中に過呼吸になりました。初めてのことでした。 近くにいた母が「うるさい」と私の背中を蹴りました。 なぜかその瞬間、自分の意志とは関係なしに奇声を上げていました。 精神と肉体が離れた感じがして怖かったです。 私はもう限界だと思いました。 通っていた高校を辞め、通信制高校に編入しました。 なんとか卒業できたのですが、お腹の音に対する不安はなくならず、大学受験を諦めました。 本当は学校で勉強したかったし、大学にも行きたかったです。 映画館や図書館や美術館にも行きたいのに、この不安のせいで静かな場所には行けません。 静かな場所にいるとお腹が鳴るんじゃないかと不安や焦りを感じ、動悸や汗が止まらなくなり、しまいには逃げ出したくなるのです。 先生、これは病気なのでしょうか? 治すことは可能なのでしょうか? 長々とすみませんでした。


林: このような訴えをされるケースの多くでは、本人が思っているほど周囲は気にしていないものです。それどころか、実際には音などしていないか、しているとしても到底周囲に聞こえる大きさではないことが大部分です。さらにいえば、このように説明されると、「でも自分の場合は確かに音がしている。それなのにわかってもらえない。他のケースと一緒にされて悲しい」と本人は感じられるものです。しかしこの精神科Q&Aは、実際の診察場面とは異なり、本人の受け取り方は度外視して事実を伝えるものです。そして事実は上の通りです。
「お腹が鳴って恥ずかしい」という訴えは、自分についての何らかの事柄が、人に伝わってしまっている、という点で、自己臭症や醜形恐怖などと共通点がある症状です。いずれにせよ、精神科で治療を受けることをお勧めします。

このころ学校の勧めで精神科に通っていましたが、悩みを正直に話しても相手にしてもらえないだろうと思っていたので「学校に行くとお腹が痛くなる」と嘘をついていました。

当然ながら受診してもこれでは適切な治療を受けることはできません。症状を正直に話して、適切な治療を受けてください。
(ただし、直接診察された精神科医は、真の症状を見抜いていた可能性はあると思います。この種の症状の方は、症状の核心は口にせず、関連したことだけを話すことがよくあるからです。「お腹が鳴る」のが核心であるのに対し、訴えは「お腹が痛くなる」というのはその典型の一つといえます)


(2013.2.5.)

その後の経過(2013.4.5.)


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る