精神科Q&A
【2335】統合失調症の薬への依存からの脱出を目指して
Q: 30代女性です。私はなぜかわかりませんが、2年前に統合失調症と診断され服薬をしていました。服薬をしていた頃、体調は重く、2年ほど家と病院の往復の日々を送りました。薬の副作用が強く、1年前に薬を飲みたくないと思いました。副作用では、会話ができなくなる、記憶が曖昧になる、全身にブツブツができる、体重増加、喜怒哀楽がなくなるなど、生きているのか死んでいるのかわからなくなるようなものでした。病状が良くなってから、薬をやめることにしました。このままでは社会復帰もできなくなります。薬を絶ち、3ヶ月ほどですが体調は良好です。社会復帰もしました。ただ、今でも換気扇の中から大きな声が聞こえたり、カバンの中から聞こえたり、行事で親族が集まると、みんな私をいじめるために集まったのだと考えたり、有名人だからとサインの練習をしたり、職場で蝶の絵を書くと「斬新すぎて怖い」と言われて悲しくてもう合わせる顔がなかったりします。でも、自分の中でこれは妄想、これは幻聴というものの区別が少しずつついてきています。医師は薬物療法を勧めますが私の熱意もあって今は飲まなくてもいいと言ってます。悪くなったら飲むという約束なので、幻聴が聞こえても医師には隠して体調がいいと伝えています。私は病気だとしても症状が軽いので、気合で乗り越えるつもりですが、どう思いますか?
林: すぐに薬を再開してください。この【2335】は、いったんよくなった統合失調症が再発する場合の非常に典型的なケースです。このままでは入院になるでしょう。典型的な点は、
薬を絶ち、3ヶ月ほどですが体調は良好です。
というふうに、薬をやめたらかえってよくなったと感じておられること。(統合失調症 患者・家族を支えた実例集 のcase23もご参照ください)
そして、
今でも換気扇の中から大きな声が聞こえたり、カバンの中から聞こえたり、行事で親族が集まると、みんな私をいじめるために集まったのだと考えたり、有名人だからとサインの練習をしたり、職場で蝶の絵を書くと「斬新すぎて怖い」と言われて悲しくてもう合わせる顔がなかったりします。
これらは統合失調症の妄想であることは明らかで、
でも、自分の中でこれは妄想、これは幻聴というものの区別が少しずつついてきています。
というふうに、自分で妄想や幻聴であるとわかっているから心配ないと安心していること。この安心は独りよがりな安心にすぎず、このまま薬を飲まずにいれば、妄想や幻聴であることがわからなくなります。(そして、その時には治療を受けようという意思はほぼ完全になくなっています)
また、
医師は薬物療法を勧めますが私の熱意もあって今は飲まなくてもいいと言ってます。
こんなことを医師が言うことはまずありません。
ところが、薬をやめようとしている統合失調症の人の多くは、「医師が飲まなくていいと言った」と主張するものです。それは、医師の何らかの言葉を、「薬を飲まなくていい」と、(これも独りよがりに)解釈していることが大部分です。
また、医師の側としては、どうしてもご本人が薬を飲むことに納得しない場合の一つの方法として(いくつかある中の一つの方法にすぎませんが)、今はいったんはやめてもいいが、悪くなったら飲むという約束をご本人と交わしたうえで、一時的な薬の中断を認める場合があります。この【2335】のケースはそうであるとも考えられますが、
悪くなったら飲むという約束なので、幻聴が聞こえても医師には隠して体調がいいと伝えています。
このように、そのような約束があっても、ご本人が薬を飲みたくないために病状を医師に隠し、そのようにすれば早晩もっと悪化するのが通例です。
以上の通り、この【2335】は、いったんよくなった統合失調症の方が、薬の中断によって悪化していく場合の典型的なケースです。
私は病気だとしても症状が軽いので、気合で乗り越えるつもりです
統合失調症は、気合では乗り越えられません。
(2012.12.5.)