精神科Q&A

【2307】双極性障害U型の夫の症状がラピッドサイクルになってきた


Q: 50代前半の夫は物心が付いた頃からサボり癖(といわれていた)があり小学校も行きたくないとサボっていたようです。その頃は病気という自覚はありませんでした。成人してからも時々うつ症状がでて20代には最初の結婚も起業した会社も失っています。私と結婚したのは40歳で、それまではずっと独身で建築関係の会社に長く勤めていました。この時も会社に迷惑をかけまくっていましたが社長が理解ある方だったのでなんとか仕事を続けていました。結婚後子供ができてから度々短期の家出がありこれ以上会社に迷惑がかけられず退職しました。その後また会社を起業しました。その頃から病院を探し転々としましたが最終的に大学病院の先生を紹介され、そこで躁うつ病と診断され病名が確定しました。それまではどこの病院でもうつ病と診断されていました。ところがそれから10年の間に症状は悪化していき、元はうつ症状が通算で1年のうち1〜2ヶ月だったのが半年以上になってしまいました。躁の状態は比較的軽いのでその時に仕事をしていたものですから、会社をよく続けられたという感じです。その頃テレビの特集で多剤で診療時間が短いとうつは治らないと知り、それと同時に躁うつ病には抗うつ薬処方はNGだと知り正に今の先生の治療がそれだと気づき転院をしたのが3年前です。現在かかっている先生はリーマスを中心に処方し、落ちた時にランドセン、漢方を出してもらい、症状は安定してきました。前の先生は控えめにと言って許されていた飲酒も、現在の先生からは止められ、それを守っていましたので去年の夏とかまでは順調に仕事もできていました。時々落ちてもランドセンで2、3日で上りました。本人に少しだけ希望が見えたのが大きかったです。ただ鬱が深いのとイライラが伴うのではらはらはさせられていましたが。ところが約一年前からリーマスの副作用の下痢がひどく勝手に飲まなかったり減らしていたりしたのがいけなかったのか、その後から躁うつが小刻みになってきてしまいました。今までにないくらいの短い間隔です。ラピットサイクラーというそうですね。最近は2週間くらいで落ちてしまい鬱の期間も1週間から10日かかってしまいます。リーマスはきちんと飲んでいるのですが。本人の落胆も鬱に反映して尚深く落ちてしまいます。昨年までの状態に戻す事は可能なのでしょうか?このままだと本人のみならず家族や社員、仕事先もふりまわされてしまいます。


林: ラピッドサイクラーの治療は確かに難しいものがあり、現在、定番といえるものはありません。今の主治医の先生のところで、腰を落ち着けて治療を受け続けることをお勧めします。
ご家族が病気について情報を集め、知識を深めるのは望ましいことです。けれども主治医の治療を受けている以上、主治医以外からの情報はあくまで参考であると考えるべきで、治療方針の決め手とするべきではありません。

その頃テレビの特集で多剤で診療時間が短いとうつは治らないと知り、それと同時に躁うつ病には抗うつ薬処方はNGだと知り

とのこと、確かに多剤は好ましくないというのも、躁うつ病には抗うつ薬は投与すべきでないというのも、有力な見解ではあります。原則的には正しいといえるでしょう。けれどもこれはあくまでも原則であって、絶対に避けなければならないというルールではありません。臨床研究からは、躁うつ病に抗うつ薬を投与しても有意な効果は得られないというデータは確かにありますが、このデータが将来にわたって支持され続けるかどうかはまだわかりません。また、そうしたデータはあくまでも統計であって、個々のケースのすべてに適用できるものではありません。「躁うつ病には抗うつ薬処方はNG」とまでいうのは極論です。
多剤についても同様です。躁うつ病の治療の中心薬としては、現在、リーマス、デパケン、テグレトールの三種が常用されています。(さらにラミクタールが第四の薬として最近注目を浴びています。) かつてはこの三種のうちの一種だけを投与するのが躁うつ病治療の王道とされていましたが、その後の研究では併用したほうがより有効というデータがいくつも発表されています。質問者が見たテレビの特集番組はメールの記載からは3年と少し前のものと推定されますが、当時、一種だけが正しいという定説が流布していたのに対して、その主治医の先生は最新のデータをもとに多剤を投与されていたのかもしれません。そもそもテレビの特集といっても、それはそこに出演した医師の見解にすぎないわけですから、そのまま鵜呑みにするのは不合理です。
いずれにせよ、主治医以外からの情報源に振り回されることは、病気の経過を悪くするばかりです。病院を転転とすることは、治療方針を迷走させ、病気を長引かせることにつながります。

(2012.10.5.)


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