精神科Q&A

【2300】豹変してしまった、統合失調症の友人


Q: 統合失調症の彼女(25才)とは高校で出会い、(私は23才です) それ以来8年の友人関係にあります。親友のような間柄です。 彼女が陽性症状が酷い時、あるいは陰性症状が酷い時等、これまで色々な事がありました。戸惑いを感じた時もありましたが、基本的に彼女は凄く常識的で生真面目で、気遣いのあるとても優しい人です。友人関係を解消しようと思う事はありませんでした。 でも最近の彼女を見ていると、友人関係を見直した方が良いのかなと深々悩んでしまいます。昨年あたりから彼女が豹変してしまったのが原因です。 去年の春に救急車で倒れて入院し、去年の初夏頃会った時もう彼女は変わっていました(入院前に連絡した時の彼女はまだ普通でした)。退院後でまだ落ち着いてないんだろう。そう思い、様子を見ていて1年が過ぎましたが、依然彼女は豹変したままです。 以下が彼女が変わってしまった点です。
【性格面】・人の意見や話を全く聞かない(上っ面だけで聞く)・自己中心的・考え方や行動がもの凄く幼稚・遊ぶ時に親を連れてくる・クスリや幻聴など自分の病気の話をTPOに関係なくいつでもどこでも始める (以前は病気の事を凄く気にしていて、外で話す事はありませんでした。)・気遣いがない・恥じらいがない・周囲を全く気にしない (自分が変わってしまった事に全く気付いていません。)
【身体面】・ぼんやりしている・口から大量に唾液が出てくる・歩く時、とてもフラフラしている・反応が鈍感・舌が上手く回っていない (以前は自分が人からどう見られるか凄く意識していた彼女が、今は全く気にしてないようです。) 
些細な変化なら受け止められますが、まるで別人のような変わりようです。今まで見てきた彼女の性格・性質が一変してしまい、戸惑いと違和感を凄く感じて疲れてしまうので今は距離を置き付き合っていますが、やはり長年付き合ってきた友人との関係を終わらせたくない気持ちが多々有ります。 今まで彼女とはお互い言いたい事を言いあってきたつもりです(多少気遣ってオブラートに包んだりもしましたが)。今も正直、どうしちゃったの?と聞きたいです。でも今の彼女を見ていると不安定な気がして、私が指摘する事によって崩れてしまいそうで言えません。(歩く時、フラフラしてるけど大丈夫?とこの前やっと言えましたが…) ご質問なのですが、 
(1)今の彼女の状態を彼女に具体的に指摘または聞いても良いですか。聞く事・指摘する事によって病状の悪化などありませんか。
(2) 1年以上様子を見ていましたが、私が思う彼女の豹変はこのままずっと続くのでしょうか。(これが普通の状態になってしまったのでしょうか。) 
(3)彼女から話を聞くと、発病して10年程で入院は10回ほど。高校在学中は元気で普通の状態でしたが、途中で中退してからの7年間(現在に至るまで)、陰性と陽性の繰り返し。高校在学中の元気さとは無縁でした。むしろ年々症状が悪化しているように思われます。彼女の病のレベルは重い方なのでしょうか。 PS。お答え頂いた事を参考に、また考慮し、彼女とよりよい友情関係でいられるように頑張ります。


林: 質問者が「豹変」と表現されていることの具体的な内容、すなわち、

【性格面】・人の意見や話を全く聞かない(上っ面だけで聞く)・自己中心的・考え方や行動がもの凄く幼稚・遊ぶ時に親を連れてくる・クスリや幻聴など自分の病気の話をTPOに関係なくいつでもどこでも始める (以前は病気の事を凄く気にしていて、外で話す事はありませんでした。)・気遣いがない・恥じらいがない・周囲を全く気にしない (自分が変わってしまった事に全く気付いていません。)

これらは、統合失調症による人格水準の低下と解釈できるものです。人格水準低下は、陰性症状の一種です。

一方、「豹変」の記載のうちの、「身体面」の内容、すなわち、

【身体面】・ぼんやりしている・口から大量に唾液が出てくる・歩く時、とてもフラフラしている・反応が鈍感・舌が上手く回っていない (以前は自分が人からどう見られるか凄く意識していた彼女が、今は全く気にしてないようです。) 

これらは、統合失調症の症状というよりむしろ、抗精神病薬による副作用の可能性が強いと思います。

一般に、統合失調症の陰性症状は、抗精神病薬の副作用と区別がつきにくいこともよくあります。すなわち、陰性症状と思われていたものが、薬を減らしたら軽くなり、時には消失するということも時にあります。

そうしますと、これらの「豹変」は、実は薬が多すぎることによる副作用ではないかという推定も出てきそうですが、この【2300】のケースについては、副作用だけとは考えにくく、統合失調症が慢性化して、陰性症状としての人格水準の低下が進んできているとみるべきだと思います。
それは、【性格面】として記されている内容が、副作用とは質が違うからです。また、【身体面】についても、身体に現われているもの自体は副作用と思われますが、それらを「今は全く気にしていない」というのは、やはり人格水準低下の色彩が感じられるものです。

抗精神病薬の副作用として、いわば「性格面」に見られるのは、意欲低下や無為といったものです。(実際には、意欲低下や無為も、副作用によるものと、真の陰性症状には違いがありますので、単に言葉で「意欲低下」「無為」と書くと、副作用と陰性症状は区別がつきませんが、精神科医が直接診察すれば、かなりの区別はつくものです)
それに対し、この【2300】のケースでは、人間としてのいわゆる高等感情の低下が認められますので、【性格面】として記されている内容が副作用である可能性はきわめて低いといえます。

とは言え、身体面には副作用が出ていることから、これは飲んでいる薬が多すぎるのであり、薬を減らせば「豹変」の度合いは弱まるのではないかという考え方も生まれるでしょう。
しかし、この【2300】のケースでは、これまでの経過と現在の症状から見て、かなり重症の統合失調症であると思われます。そうしますと、かなり副作用が出たとしても、それをやむを得ないと判断せざるを得ないほどの大量の薬を飲むことが必要であると考えられます。すなわち、もし副作用を気にして薬を減らせば、非常に激しい精神症状が再発し、入院する以外になくなるという状態になるでしょう。

以上を背景として、ご質問にお答えします。

(1)今の彼女の状態を彼女に具体的に指摘または聞いても良いですか。聞く事・指摘する事によって病状の悪化などありませんか。

指摘も聞くのもやめたほうがいいでしょう。おそらくそれをすれば悪化します。

(2) 1年以上様子を見ていましたが、私が思う彼女の豹変はこのままずっと続くのでしょうか。(これが普通の状態になってしまったのでしょうか。) 

陰性症状は基本的に難治です。このまま続くと予想すべきでしょう。さらに進行して人格水準が低下すると、むしろエネルギーがなくなった感じになり、周囲が困惑することは逆に減り、しかし無為・自閉が進むこともあります。

(3)彼女から話を聞くと、発病して10年程で入院は10回ほど。高校在学中は元気で普通の状態でしたが、途中で中退してからの7年間(現在に至るまで)、陰性と陽性の繰り返し。高校在学中の元気さとは無縁でした。むしろ年々症状が悪化しているように思われます。彼女の病のレベルは重い方なのでしょうか。 

重い統合失調症です。症状の消長を繰り返しながら、人格水準の低下が進んでいく。これは古典的な統合失調症の経過です。

PS。お答え頂いた事を参考に、また考慮し、彼女とよりよい友情関係でいられるように頑張ります。

彼女が重い統合失調症であることを認識したうえで、ぜひ友人として支え続けてあげてください。

(2012.9.5.)


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