精神科Q&A
【2294】保健所と精神科の非情な対応について
Q: 20代男性です。数年前のことです。正確に覚えている部分だけを書くようにしたつもりですが、ある程度間違いがあるかも知れません。 知り合いの女性Aは酷い虐待のためか、解離性同一性障害(正式な病名が何なのかは、これから述べる理由から存じませんが、いわゆる多重人格)になっていました その事実が発覚した後、Aから話を聞いてみると家庭環境にかなり問題があることがわかりました ・Aは大学生(重要かどうかは分かりませんが、合格したのは別人格の方)・虐待していたのは母親(離婚済み)・同居しているのは父・父方の祖母・妹・祖母は認知症であり、妹は重度の精神疾患であるように聞こえる・特に妹については家から出ないどころか一歩も動こうとすらしない・父は妹については放置。また、祖母についてもデイケアや何かを依頼しようとすらしない・父は祖母の面倒を見るために休職中・祖母は昼夜が逆転しているので父もそれに合わせて生活を送っている・父はAが多重人格であると気づいていない・Aの内部の人格たちは服装を変えたりして気づいてもらおうとしている・父はAが思い通りにならないと怒鳴り散らす。一例を挙げますと、Aがある日鍵を落としてしまったそうです。帰ってきたAに対して父はこう言ったそうです。「誰かが鍵を拾って家に押し入ってくる可能性もあるんだから鍵を探してこい」「人殺しに見つかったらAのせいでみんな死ぬんだぞ」と。Aはその後1ヶ月近く鍵を探すことを強要され続けたそうです
また、Aの行動にも尋常ならざる点が多々見受けられました。覚えているものだけ列挙します ・Aは思い通りにならないとキレる ・そのキレ方も通常とは異なり、A(主人格)はキレる。B(Aの別人格の一つであり、賢いということになっている)が私とAとの関係を『仲裁』しようとする。ただし、話が前後しますがAのキレ方は理不尽極まりないものであり、例えばA「後ろを歩いている人が通り魔である可能性があるのにあなたは安全だと言い切った。証拠を出せ」とキレBは「証拠がないのに言い切るあなたが悪いんでしょう。Aにちゃんと謝りなさい」と仲裁する、というような感じです ・複数の人格を使い分けてとにかく自分を正しそうに見せかけようとする・寝ると人格が交代する ・それと関係しているのかどうかは不明だが、Aの睡眠時間は信じがたいほど短い(1日20時間は起きているのが毎日) ・A自身は恐ろしいほどに何も出来ないため、あらゆる人から馬鹿にされている ・これについてはAが自分が馬鹿にされる理由を理解できないため、別人格がAのために原因を探ろうとし、更には別人格が自分と敵対する人間を攻撃してしまうためもはや破滅的な状態になっている(具体例を挙げるべきなのでしょうが正直無理です) ・Aは睡眠中に別人格たちと対話しているようである。調べたところ多重人格の症例でそういうのはよくあることなのだそうですが…。Aは心の中でアルバイトをしているが、給料は出ない。会社は赤字で、倒産寸前。会社の商売内容は『絶望を売ること』。心の中には『絶望』『破壊』『拒絶』という魔物がすんでいる。心の中にはマグマがあり、それに焼かれると消滅する。冥界の門があり、そこに入ると人格は死を迎えることが出来る。などと、言っていることがもはや理解できません。というよりも理解できそうなのが怖いです。 特に会社の給料について思うところがあるのでもう少しだけ書きます。「給料は『希望』 現実世界におけるお金は、ものに交換することで幸福や安心を買うことが出来る数字。 だから私の中では希望を消費して幸福を入手することが出来るの」一見すると精神疾患の患者の妄言にしか見えない文面ですが、これには重要な側面があります。このセンテンスの前半は、ゲームのセリフが元になっています。まさかと思いAが口走った他の様々な言葉についても調べてみましたが殆どがゲームやアニメや漫画といった何らかの創作物が元になっていました ただ、Aの病状についての話が本題ではないのでこの程度で終わらせて頂きます。
ともかく、私はAの状態を放置できないと判断し、Aには一旦私の実家に移ってもらいました。前述の家庭環境もあり、また、Aの支離滅裂な発言から判断するに劣悪な家庭環境であるというAの言葉自体がバイアスのかかったものである可能性も拭いきれなかったからです。まずは休ませて様子を見ようと考えました Aの父にはそういう状態だから少し休ませてあげて欲しい、連絡は申し訳ないが我慢して欲しいと伝えました。しかし、Aの父は連日Aに連絡をよこし、Aは父に監視されていると騒ぎ立てるまでに至りました 実家にいる2週間の間にAはそれまでのAを含む3人格から6人格までに増えました。その中には猫の人格も含まれています 人格を使い分け人を思い通りにしようとする症状も続きます。(母曰く、聞き分けの無い子供みたいに見えるとのこと)もはや手に負えず、保健所に連れて行ったところ、「あなたには病院での治療が必要。 それだけでなく、お父さんも危険な状態だから 家族療法を受けないといけない。地元で病院を探すべき。そしてあなたはお父さんと一旦距離を取る必要があるから入院施設のあるところを選びなさい」と言われ、早速行動に移しました
しかし…この話はここからが本題です。と、いうよりも… ある病院では「何で病院に来たの?」「入院したい? 何で入院するかどうか患者が決めるの?」「え、今別人格さんですか…? 刺したりしない?」(実際にこう言ったかは記憶していませんが、攻撃しないと知って安心するという会話の流れはありました)「親がおかしいってそれは家庭の問題だろ。医者に相談しないでくれるかな。そもそも何で自力で解決しようとしないで病院に来てるの君は」「文句ばっかり言うだけで、何も問題の解決目指して行動してないでしょ。筋違いじゃないの言ってること」あまりのことに絶句して、「それがおかしいから連れてきたんだよ」とすら言えませんでした 補足しておきます。しつこく入院を迫ると、この医者はあろうことか閉鎖病棟を見学させてくれました。目的は自明ですが。見学中、医者はしつこく何度も「ねえ、入院やめる気になったよね」と言っていたそうです また、保健所でも同様に「そういう事情で病院探すって…何で?」「病院は治療するところであって、お悩み相談するところじゃないんだよ。そのへん履き違えてない?」「そもそも入院が前提ってのがおかしいんだけど君たちの言っていること。何で病院かかる前から入院するかどうか決まってるの」「家庭の問題を相談しないでくれない?」「自力で解決しないで、どうしてここに話を持ってくるの?」「君たちの言ってることが無茶苦茶で、お答えすることはありません」 付け加えますが、一番最初に私の実家の管轄の保健所でAが説明した内容と、Aの住所の管轄の保健所でAが説明した内容は全く同一であり、正直な話『Aの話の内容の稚拙さから、少なくとも異常性は読み取れる』というものでした。また、入院云々についても私の実家の管轄の保健所で相談したところ入院するよう勧められたと言っただけであり、少なくとも勝手に入院すると決めたわけではありません こういった状態で、公的機関に頼れないとはどういうことなのでしょうか。自力で解決しろとはどういうことなのでしょうか。努力しろとはどういうことなのでしょうか。
林:
こういった状態で、公的機関に頼れないとはどういうことなのでしょうか。自力で解決しろとはどういうことなのでしょうか。努力しろとはどういうことなのでしょうか。
わかりません。
質問者はこの女性Aさんの状態についてかなり正確に把握していると思われます。
Aの支離滅裂な発言から判断するに劣悪な家庭環境であるというAの言葉自体がバイアスのかかったものである可能性も拭いきれなかった
という記載からも、Aさんの状態について冷静な立場をとっていることが窺われます。(しばしばこのようなケースにかかわっている友人は、本人の言葉を丸呑みにして、いかにも自分はAの正当な擁護者であるかのような気持ちになり、本人は正義の行為をしているつもりが実は周囲に多大な迷惑をかけていることがあるものですが、この【2294】の質問者はおそらくそうではないのでしょう)
したがって、Aさんの状態についてのメール記載内容はかなりの信頼性があると思われますが、その内容から判断する限り、医学的な治療を要する状態であって、
「家庭の問題を相談しないでくれない?」
という保健所職員の言辞は不合理といえます。
また、Aさんが解離性障害であるという診断も間違いないでしょう。
メールに書かれている人格交代についての記載は、解離性同一性障害として矛盾はなく、また、
Aが口走った他の様々な言葉についても調べてみましたが殆どがゲームやアニメや漫画といった何らかの創作物が元になっていました
こういうことは解離性障害の方にはしばしば見られるものです。
ただ疑問点として、
知り合いの女性A
とのことですが、提示されているのは「知り合い」という情報のみで、質問者と彼女がどのような関係にあるのかが不明で、また、これにも関係しますが、
Aの父にはそういう状態だから少し休ませてあげて欲しい、連絡は申し訳ないが我慢して欲しいと伝えました。
他人である質問者が、本人の肉親である父親にこのような指示を出すことが適切かどうかは、このメールからは判断しかねます。(質問者は指示でなく依頼であるとおっしゃるかもしれませんが、父親から見れば指示ということになるでしょう)
質問者が自分とこの女性との関係をいかなるものと認識していたにせよ、父親の側からいえば、娘とのかかわりについて、他人からの指示に従う義務はないといえるでしょう。
それはそうと、質問のポイントである、病院と保健所の対応についてですが、冒頭に一行でお答えしたとおり、なぜこのような対応がされたのか、私にはわかりません。
すべてこのメールに書かれた通りだとすれば、病院と保健所の対応は不条理であり、この質問【2294】のタイトルに象徴されるように「非情な対応」といえるでしょう。
けれども、メールによる質問の常ではありますが、これは一方の当事者からの言い分にすぎないため、回答として「これは不条理な対応です」とか「これは非情な対応です」と言うことはできず、冒頭の通り、「わかりません」というほかはありません。
この質問メールから、おそらく確実に事実であると推認できるのは、
a. 友人につきそって病院(や保健所)に行き、入院を希望した
b. 病院(や保健所)は、入院を拒否した
ということのみです。質問者とAさんが具体的にどのように入院を依頼したかが不明ですし、(依頼の仕方が不条理であった可能性が否定できません)、すると病院や保健所の対応は、その依頼の仕方に見合ったレベルの拒絶であったかもしれません。一般的には、「入院すべきでない病状なのに、一方的に入院を希望する」患者はしばしば存在しますので、この【2294】がそうでなかったということも言い切れません。
したがって回答は
わかりません
となります。
(2012.9.5.)