精神科Q&A
【2293】 統合失調症が再発した妻を苦労して病院に連れて行ったのですが、出てきた医師にひどい対応をされ、今は打つ手がない状態です
Q: 私は45歳になる男性会社員です。 妻は41歳。高校生になったばかりの長女がおります。 「見張られている」と妻が言い出したのは、私と長女が記憶する限り、X年の暮れからです。 以来、カウンセラーを会社に紹介してもらうなどしてあちこち相談しました。海外転勤を打診されていたこともあり「引っ越せばよくなるかもしれない」と今にしてみれば、悪気はなかったのでしょうが、いい加減なアドバイスを色々な人からたくさんいただき、時間を浪費しました。X+1年の秋になって「良くなった。もう大丈夫」という妻の言葉を信じ、海外転勤することになりました。ところが、X+2年の春になって、長女が「ママが転勤先とは違う所へ行こうとしている」と言い出すようになりました。 妻が残したメモや長女に話した内容によると、妻は自分を「米軍が遺伝子操作によって造ったクローン人間だ」と信じています。米映画「ボーン・アイデンティティ」のようなイメージのようです。さらに「これまで周囲にいたのは全て米中央情報局(CIA)が用意した偽の親族・友人で、自分を見張っていた」と思い込んでいます。私もその「見張り」の一人です。 その遺伝子を受け継いだ娘に危険が迫っているため、娘を連れて米国に行かないといけないと信じ、貯金を取り崩し米ドルに代え、米国行きの航空券を何枚も買っていました。大量の両替を不審に思った業者のうち一社が私に連絡をくれ、問いただしたところ、包丁を持ち出したため、警察を呼ぶ騒ぎになりました。 転勤は取り消しになり、会社中がこの騒ぎを知って、私の妻が統合失調症であることは同僚にも親戚にも友人にも周知されています。 妻の病状が、私も含めてなかなか分からなかったのは、妻は「見るからにおかしい」タイプの患者ではないことが理由の一つです。 むしろ、警戒する相手には毅然としていて、嘘を堂々と発言します。 このため、一度は自宅に突入してきた警官隊も妻の言い分を信じ「夫婦喧嘩に介入はできない」と引き揚げようとしました。 しかし、この騒ぎ以前から、知人のアドバイスで統合失調症を疑った私が近くの警察署の生活安全課に相談していたことから、その担当者が駆けつけ、再度聴取してくれました。妻は警官隊に「料理をしようと包丁を持ったら、夫が怒鳴りながら襲ってきただけです。いつものことです。お騒がせしてすみません」とまるで私からのDVがあったかのような説明をしていました。しかし、米ドルの件を教えてくれた会社に私が電話しようとしたところ「うるさい、だまれ」と態度が豹変。これをもって生安課に保護され、鞄から大量の現金や米国行きを示す予定表などが出てきたため、精神科に送られました。
以下、誤解のないようお伝えするため、病院名・医師名などは具体名をそのまま書きます。(注: 実名は林が削除しました)
妻はX+2年6月、A病院に強制入院となりました。 A病院の最初の主治医はB先生でした。私からすれば、ようやく私の話をはぐらかしたり、疑ったりせず、正面から聞いて妻の問題に取り組んでくれた方です。信頼できる先生でした。 統合失調症と診断され、ジプレキサによる治療で8月には劇的に改善しました。釣り上がっていた目が穏やかになり、数年前と変わらない表情が戻ってきました。声も全く変わり、笑顔が見られるようになりました。 X+2年9月にはB先生がご開業のため退職されるとのことで、C先生に引き継がれ、この年の暮れ、退院が許可されました。 すっかり素直な性格になった妻は退院時には、毎日のジプレキサ4錠の服薬と、2週間に1回の通院を約束していました。 年が明けてX+3年1月の間は、幸せな家庭生活が戻っていました。 ところが、2月に入ると、妻は寝てばかりいるようになり、どうもおかしいと思っていたところ、ある日、ハンドバッグに大量のジプレキサが隠してあるのを発見しました。 問いただすと、通院もしていません。 驚いてC先生に電話すると「来ないので心配していた」という返事でした。 以来、私が1ヶ月に1度、A病院へ行っては、ジプレキサの処方箋をもらい、帰宅しては妻に飲むように諭し、ときには強引に飲ませようとしたこともありましたが、1カ月に1錠でも飲ませられればいい方でした。 妻は十分に納得して退院したはずでした。しかし、入院させられたことへの恨みが日増しに増幅していったようで、X+3年4月ごろからは私を強く憎むようになりました。心底からにじみ出るような恨みのこもった目でにらみ、「みんな分かっている」「知っているくせに」と意味不明の憎悪の言葉を投げつけます。 私とは日を追うごとに口をきかなくなりました。一度でも口を開けば「離婚してくれ」「離婚してくれ」と区役所からもらってきた離婚届を突きつけてきます。 ただ、この間も朝は1時間ほど起きて洗濯や掃除は行い、夕方にもまた起きてきて、夕食も長女の分はきちんと作っていました。 A病院へは月に一度、私一人で行っては、こうした状態をC先生に伝えていました。C先生からは、退院から1年が過ぎようというX+3年の晩秋から「通院しないことだけを見ても治療は失敗」と結論が下され、再入院を勧められるようになりました。しかし、妻は絶対にA病院へ行こうとしません。連れていくには、プロの業者さんにお願いして家に来て説得してもらうしかないということでしたが、娘が受験だったため、家庭内を荒立てたくないと考え「待ってほしい」と伝え延び延びにしていました。 しかし、受験も終わり、今年5月、C先生から紹介していただいた業者さんに頼み1人2万円で合計8万円を支払い4人ほど家に来ていただきました。業者さんはさすがプロで、1時間ほど説得した結果、私がいくら言っても病院に行こうとしなかった妻を連れていくことに成功しました。 ところが、病院へ着くと、C先生とは別のD先生という初対面の医師が出てきました。「入院担当だ」とおっしゃいます。 D先生はほどなく妻と意気投合。妻が「私は『離婚してほしい』と何度もお願いしているのに、夫はそれが嫌で私を病気扱いしようとします」と主張。医師はすっかり信じ込み「彼女は病気ではない」と言い出しました。ゾンビのような振り付けで「君ね、統合失調症の患者というのは、もっとアーアーとおかしいものなんだ。見れば分かるんだよ」と言います。「これでは、とても入院なんて無理だね」という医師に、何度も主治医のC先生を呼んでほしいと懇願しましたが、「僕が入院担当なんだよ」という一言ではねつけます。 「あんたが単に奥さんから嫌われてるだけなんじゃないの」というD先生に私も感情的になりました。もし妻が病気ではなく単に離婚を求めているだけという診断なら、私がこれ以上この問題につき合う必要はありません。その場で鞄から、かねて妻から突きつけられていた離婚届を出し、医師の目の前で妻の名前の横に署名と捺印をしました。D先生は「夫婦の問題に口は挟めないなあ」とおっしゃっていました。 数日後、C先生に電話をしました。先生は「申し訳ありません。こんなことになるとは」と言うばかり。C先生が、目上の医師の判断を覆せないのは分かりました。C先生からは「とにかく様子を見ましょう。入院の必要性を裏付けられる材料をもっと集めてほしい」と言われました。しかし、その後、私は家に帰るのが嫌で、なるべく自宅にいないようにしています。A病院にも足が向きません。あの日を思い出すだけでも、強い疲労感と屈辱感に苛まれます。 離婚届には当事者の夫妻以外に保証人2人の署名と捺印が必要です。私の方の親戚一同は妻が統合失調症だと知っているため全員が断りました。 ところが、妻の実家の方で、妻に同調し、もう一人の親族を説得して署名・捺印してしまいそうな人が現れました。7月末にその方の家に妻が行くことになっていると、先日聞かされました。 署名・捺印されれば離婚が成立します。 自分でサインしたので、私の責任ですが、離婚成立後は、家を飛び出した妻がどういう運命をたどるのか、結果的に将来は長女が、私が現在味わっている苦しみを背負うことになるのではとないかと重い気持ちを抱いています。 私としては、妻がジプレキサで一度は回復した以上、妻が統合失調症であることは間違いないと考えています。そのジプレキサを飲んでいない以上、再発しているし、危険な状態なのでしょう。 しかし、業者を再度雇って、A病院へ連れていく気力がもうありません。思い出すだけで、大変疲れます。またD医師が出てくれば同じことの繰り返しでしょう。 別の病院、別の医師を探そうにも、D先生のような医師を回避するには、どこをどう探したものか途方に暮れています。 そうこうするうち、妻は家の火災報知機に化粧品のクリームを塗り込み破壊してしまいました。「盗聴」されていると思っているようです。先日は換気扇の網の内側にタオルを入れていました。異様な物音で気付き、取り出しましたが、これも「監視」を避けるためのようです。 しかしながら、今の私は頼っていた病院とこうした形で断ち切られつつあり、打つ手を失っています。 質問は以下の通りです。
(1)抵抗がありますがA病院での治療を続けるべきでしょうか
(2)新しい病院を探す場合、どこをどう探せば統合失調症について分かってくれる医師を見つけられるのでしょうか。D先生のような医師を回避できるのでしょうか
前回の入院を振り返ると、今回も5月に入院さえできていれば今頃は…と思うと、悔しくてなりません。 しかし、こうした悔しい思いを病院や一部の医師に抱かされたことがある患者の家族は、私だけではないのかもしれません。 私の体験の一部でも紹介していただくことで、こうした家族の参考になれば幸いです。 先生にお答えいただけても、いただけなくても、いずれにせよ私は毎日、回答を探しています。 しかし、今回文章にまとめたことで少し落ち着けました。 妻の病気が分かって以来2年間、このサイトには、私自身、何度も勇気付けられました。 最後になりましたが、どうもありがとうございました。 どうか末永くこのサイトが続くことを願っております。
林: これは誰がどう見てもD医師の重大な過誤です。質問者の憤りは正当なものです。しかし私が質問者に同調したり同情したりしても何もなりませんので、具体的な方策を提示したいと思います。
(1)抵抗がありますがA病院での治療を続けるべきでしょうか
はい、そうすべきだと思います。
(2)新しい病院を探す場合、どこをどう探せば統合失調症について分かってくれる医師を見つけられるのでしょうか。D先生のような医師を回避できるのでしょうか
Dのような医師を回避する方法はありません。
これら回答の背景は以下の通りです:
メールには実名が書かれていたA病院と、同院の院長先生を、私はよく知っています。院長は大変信頼できる医師です。C医師、D医師とは面識がありませんが、C医師は基本的には信頼できる医師であることがメールからは読み取れます。(「基本的には」というお書きしたのは、「基本的には信頼できるが、頼りない」という意味を含んでいます。この【2293】のような事態については、C医師にもかなりの責任ありとみるべきであり、にもかかわらず、
「申し訳ありません。こんなことになるとは」と言うばかり。
というのは無責任のそしりを免れないでしょう。さらに
「とにかく様子を見ましょう。入院の必要性を裏付けられる材料をもっと集めてほしい」と言われました。
に至っては、責任放棄と言わざるを得ません。)
繰り返しますが、院長先生は大変信頼できる医師ですので、この【2293】の事態が発生したという情報が伝わっていれば、何らかの適切なリカバリーの処置を取ってくださると思います。それがなされていないということは、おそらく院長先生はこの事態をご存知ないのでしょう。するとまずは院長先生に情報をお伝えすることが勧められますが、「院長を出せ」という要求は典型的なクレーマーのものですので、伝え方には慎重を要します。下手な言い方をすれば、その後は全く相手にされなくなるでしょう。(表面的には丁重に応対されるが、実質的には相手にされない)
C医師から院長先生に伝えていただくよう話を持って行くことができれば、それが望ましいです。おそらくこのD医師には、C医師のみならず、病院全体が困窮していると思われますので、その状況をうまく利用できれば、C医師の口から院長先生に自然に伝えていただくことが可能になるでしょう。
ところで、私がここで憤っても何もなりませんが、D医師の対応はあまりにひどいと言わざるを得ません。「家族が入院させようとして連れてきたが、入院させるような病状ではない」ということ自体はしばしばあることです。また、この【2293】のケースのように、医師の前での言動からは入院の適応に見えない、それどころか病気にさえ見えないが、実はそんなことはないということも、統合失調症では少なくありません(たとえば【1671】)。そのような場合に、入院可否の判断を誤ることはどんな医師でもあり得ることです。しかしこの【2293】のケースでは、それまでもA病院で治療を受けていたのですから、カルテを見れば経過はすぐにわかるはずであり、それをせずに追い返すという対応は、医師としての基本的な義務を全くはたしていないと言うべきでしょう。
そのようなD医師が入院担当者として勤務していることがより根本的な問題ですが、さらにより根本的な問題として、精神科病院の勤務医不足という事態があります。C医師もD医師も若い医師のようですが、【2293】のケースが最初に診ていただいていた充分な経験あるB医師が開業して退職されたというのが象徴的と言えます。現在の我が国の多くの精神科病院では、このように能力ある医師が退職していってしまうという問題が発生しています。その背景には・・・
いや、余計なことまで話が及んでしまいました。【2293】に戻ります。今回の事態は、A病院としては例外的な出来事であったと考え、引き続きA病院で治療を受けることをお勧めします。
なお、【2279】もご参照ください。精神科Q&Aで、現実の病院の診療を批判する場合、それは質問メールとして掲載されている内容をすべて事実であることを仮定したものです。あくまで仮定であって、その内容が事実であるか否かは問題にしていません。したがって厳密には「現実の病院の診療の批判」ではなく、虚像への批判に近いものです。
(2012.8.5.)