精神科Q&A
【2292】返事ができないのはおかしいですか
Q: 40代女性、管理職です。職場の精神科医師同席の下、部下から管理能力を問われるバッシングを受けた時、医師に『こんなに言われて、何か言うことある?』と言われたものの、突然のことで少ししか話せないと、医師は『こういう時は何か言うはずです。おかしいから、(小さな脳梗塞もあると聞いているから)脳神経外科を受診してもらおう』と言われ、紹介状を書いてもらって受診し、MRIを取りましたが、長谷川式スコアは満点、症状を説明できる病変はないと言われ、精神科を紹介してもらったところ、適応障害による集中力の低下との診断で安定剤の処方を受けました。その後、退職し新しい職場の環境になれ、管理職でもなくなり、のんびりやってます。私がお聞きしたいのは、職場の医師が言った、『何か言わないのはおかしい』という言葉です。私の経験上は、以前から職場の人間関係で悩むことがあり、その人に恐怖感を抱くことが何度かあり、固まってしまって言葉が出ないというのは、よくあることだと思っていましたが、職場の医師の考えは精神医学的に正しいのでしょうか?
林: 臨床の場面において、医師は患者に医学的に正しい説明をするとは限りません。その代表は真の病名を告げないことで、これは精神科では非常にしばしばあることです。本件、
こういう時は何か言うはずです。おかしい・・・
この言葉だけでは、正しいかどうかわかりません。もし本当に「返事ができない」というだけで異常と判断したのであれば、それが不合理なのは質問者の疑問の通りです。しかし実際の場面では、それ以外に何らかの異常を示唆する所見があったのかもしれません。あるいは、この【2292】のケースはまずは脳神経外科を受診する必要ありと医師が考え、その理由づけとしてこのような言葉を述べたのかもしれません。
医師が患者に真実を説明しないことには、それなりの理由があります。しかしそれによって、患者が困惑したり、誤った医学的知識が蔓延しているという事実があります。
精神科Q&Aが、事実を回答するという方針を取っていることの背景にこの事情があります。実地の臨床では決して答えられない事実を、ネットでは回答することができます。
(2012.8.5.)