精神科Q&A
【2221】統合失調症で自殺した姉に謝りたい
Q: 私の姉は8年前に統合失調症と診断されました。昨年自ら命を絶ってしまいました。30歳でした。
姉がいなくなって3ヶ月ですが毎日色々な事を思い出し後悔する毎日です。その中でも悔やんでも悔やみきれないのは、私が里帰りした時、姉が「統合失調症の本を読んでみて」と持ってきた時に、インターネットで調べた事があるからと断ってしまったことです。ある程度は分かっているつもりでした。それを思い出して本を買い読んでみると、間違いをおこしていたことに気付きました。本を読むまでは、姉に対し、否定しない、不安を与えない事だけしかしていませんでした。すぐにでも病院で姉の症状を話し薬を代えてもらわなければなりませんでした。あの時、私が本を読んでいれば姉は生きていたのにと思います。姉は病院に月1回薬を貰いに通院していました。薬を確認しないと飲まない状態でしたが美容師を1人で出来るようになり実家で働いていました。お客様が来るまでは寝ているのですが、来ると起きて髪を切っていました。お客様の中に同じ病気を持つ人いて、その人と遊ぶようになり、夜も帰りが遅く薬の確認が出来なくなっていきました。聞くと「飲んでいるから私を信用して」と言いました。
1ヶ月位すると姉は1人暮らしをしたいと言い、私は反対したのですが、先生に相談すると、家族が構いすぎるのは良くないとのアドバイスで、アパートを自分で探してきて1人暮らしが始まりました。薬は朝と晩、母が確認に行っていました。
そのような生活が1年半位続いていたのですが友達(お客様)が良い先生がいると紹介され病院を変えました。そこは薬だけに頼らず食事やマッサージやカウンセリングなどをうまく取り入れて治療する所でした。とても気に入り症状も良くなったので薬が軽くなり喜んでいました。その頃から薬に頼らず健康に気を付けて病気を治そうし始めました。薬を飲む事を嫌がり始め、飲むように促すと量を調節し全部のまなくなりました。この時薬をどうやって飲ませればよかったのか、今でもわかりません。2週間位すると、被害妄想が出てきました仕事も休みがちになり外出しなくなり将来の心配ばかりしていました。その間も病院に行っていましたが、以前紹介してもらった先生は体調を崩し休んでいた為ほかの病院へ行きました。その病院でも前と同じ薬を出してもらい調節しながら飲んでいました。それから2ヶ月後、実家の近くに引越ししたいとすぐにアパート探して移りました。そしてもっと近くに住みたいというので実家に住むよう進めましたが、1人で住みたいのだといい家を増築してほしいといいだしました。それは無理だよと怒ると一生懸命考えに考えた結果なのにと落ち込んでしまいました。2、3日後実家に泊まりにきました。その日はとても母の言う事を聞いたそうです。翌日入院したいと自ら言い母と病院へ行きました。入院したいと相談しましたが、診察の結果そんなに悪い状態ではないですよ。入院を希望するなら今空きが無いので、薬を変えて待ちましょうと言われました。新しい薬を貰い実家に帰ると行動がおかしくなってきました。携帯電話を持ち1階のロフトの端にまたがり電話は掛けても、掛かってきてもいないのですが耳にあてていたそうです。母が病院に対応を求めて電話をすると電話線が抜いてあり、線を繋ぎ先生に連絡を取ると薬を飲んだら落ち着くので飲ませてくださいと言いました。その間に姉は自分でアパートに帰っていて、母がアパートに探しに行くと今日はアパートに泊まってと言うので母が泊まることになりました。夕食を食べ薬を飲み寝ようと床についたのですが、姉は床につかず部屋の中を歩き回っていたそうです。急に動きが早くなり母が声を掛けると苦しそうな表情で睨みつけそのままアパートから飛び出してしまいました。母が追いかけて行くと、途中で戻ってきたそうです。母は安心して近くに住んでいる兄に来てもらおうと電話してアパートに帰ると姉は帰ってなくて、近くのビルの屋上から転落していました。即死でした。
今ふりかえってみて、姉には何が起きていたのだろうと考えます。本を読むと幻聴や幻覚が出ていて、それから逃げていたのではないかと思います。昔から、痛いのは嫌だ。死ぬんだったら雪の中でお酒を飲んで眠りながらがいいと話していたのに、どうして痛い方法になってしまったのか。そう思うと何が起きていたのか知りたいです。そして謝りたいです。これからどのような供養をしたらよいのでしょうか。
林: お姉さまのご冥福をお祈り申し上げます。
何が起きていたのか知りたいです。
このご質問に対しては、「統合失調症の症状が悪化していた」が唯一の確実な答えです。それ以外のことは誰にもわかりません。推定することはできるかもしれませんが、推定することに意味はほとんどありません。「統合失調症の症状が悪化していた」だけが間違いない事実であり、したがって、「統合失調症を適切に治療する」だけが唯一の対応法です。この【2221】に対する回答としてはすべて結果論ですが、将来【2221】のようなケースを出さないためにも、これまでの経過の問題点を指摘しておきたいと思います。
第一は、家族である質問者が、統合失調症についての正しい知識を得ようとしなかったことです。
姉が「統合失調症の本を読んでみて」と持ってきた時に、インターネットで調べた事があるからと断ってしまったことです。
病気という重要な事項について、インターネットの知識に頼ることは根本的な間違いです。このとき、お姉さまは質問者に助けを求めていたのであり、質問者は本を読んで統合失調症についての正しい知識を得るべきでした。
しかし、
あの時、私が本を読んでいれば姉は生きていたのにと思います。
とまでは言えないでしょう。
第二は、(おそらく)適切な治療が行なわれていなかったことです。
友達(お客様)が良い先生がいると紹介され病院を変えました。そこは薬だけに頼らず食事やマッサージやカウンセリングなどをうまく取り入れて治療する所でした。
「薬だけに頼らず」というのは、快く響く言葉で、現に、「薬だけに頼らない」というのは正しい方法であるといえますが、「薬だけに頼らない」ことを前面に出す治療機関は、おうおうにして薬の治療を軽視することがあり、また、そうでなかったとしても、「薬だけに頼らない」治療機関を求める人は、薬の重要性を軽視し、ひいては服薬の中断から再発につながるものです。(そもそも、マッサージが統合失調症に有効などという証拠はなく、その点からみればこの病院の信頼性に疑問を持たざるを得ません)
とても気に入り症状も良くなったので薬が軽くなり喜んでいました。その頃から薬に頼らず健康に気を付けて病気を治そうし始めました。薬を飲む事を嫌がり始め、飲むように促すと量を調節し全部のまなくなりました。
上記の説明の通り、このような経過は予想されるところです。そしてその先には症状の悪化があります。このケースではそれが最悪の帰結につながってしまいました。
第三は、入院が必要な時期に入院がなされなかったことです。
翌日入院したいと自ら言い母と病院へ行きました。入院したいと相談しましたが、診察の結果そんなに悪い状態ではないですよ。入院を希望するなら今空きが無いので、薬を変えて待ちましょうと言われました。
この時、入院治療を開始すべきでした。
統合失調症の人には病識がないとしばしば言われますが、ご自分の何らかの不調を敏感に感じ取っておられるのはよくあることです。この【2221】のケースでも、この入院希望もそうですし、もっと前に質問者に統合失調症の本を読むよう求めたのもその表れと解釈できます。これらはご本人からのSOSであり、周囲がそれに対応すれば大きな助けになりますが、無視されればその逆になります。
とはいえ、質問者が本を読まなかったことも、この時に入院治療がなされなかったことも、結果論というしかないでしょう。空きベッドがなかったという状況は如何ともし難いものです。
以上、このケースの問題点の指摘です。もちろんこれらは結果論で、質問者には何の役にも立たない回答です。
これからどのような供養をしたらよいのでしょうか。
それも私にはお答えできません。
が、この【2221】は統合失調症治療の貴重な失敗例であり、こうして公開させていただくことは、多くの読者の方々へのかけがえのないメッセージになると信じます。ご報告に深く感謝申し上げます。
(2012.3.5.)