精神科Q&A
【2155】精神医療に未来はあるのでしょうか
Q: 私は30代男性で、以前自殺未遂を起こして精神病院に2ヶ月ほど入院していた者です。このような質問を精神科医に対してするのは大変失礼である事は十分承知しておりますが、是非お聞きしたいのです。お許し下さい。 まず、私個人の病院での体験からお話します。外来での最初の問診で2、3質問に答えたのち、その医師はいきなり私に対してではなく、後ろに控えていた看護師さんに、「統合失調症だね。」と告げました。具体的ないきさつや症状などについては、あまりにも長くなるので敢えて省略させていただきますが、とにかく自殺未遂の影響で体がひどく衰弱し、また体幹に障害を抱えて身動きも取れなかったため、不信感を抱きながらもそのまま指示に従って入院する事にしました。病棟では別の医師が主治医となり、改めて診察を受けましたが、体の障害の影響もあり、予定された検査の全てを行う事はできず、診断はつけられませんでした。その後、直接検査を施行したソーシャルワーカーが、「代替の検査方法があるので、主治医に提案してみます。」とおっしゃったので、2週間ほど待ったのですが、なぜか結局採用されませんでした。従ってその2ヶ月の間、全く診断がつかないまま入院しておりました(当然、投薬その他の治療も一切ありませんでした)。その間、病棟の対応や医師、看護師間の連係や意思疎通の面などで不信感が次第に強まり、主治医に、「体の治療を優先したいので転院したい。」と告げました。しかし私を単にもっと長く入院させたいのか、あるいは私が主治医や看護師にしばしば不満を口にするので信用ならないのか(単に病院を抜け出す口実と思っているのか)、主治医は当初反対でした。しかし代替検査を施行しなかった件1つを見ても、もはやここにいる事に何の意味も感じなく、「這ってでも出て行く。」と強硬に言い張って、転院させてもらいました。 その他病棟内で十数人の患者さんと会話をしました。その印象は、まずとても従順で優しい事と、おとなしい時と明るくて饒舌な時がはっきり分かれている事(薬の影響でしょうか)、そして生活(睡眠)のリズムが昼夜逆転している事です。また、入退院を繰り返したり、保護室と一般病室を行ったりきたりで、中にはそれが3年以上続いているという方もいました。治療と言っても山のような薬を飲む以外は殆ど寝ているだけであり、そうした入院生活に耐えられなかったのか、病院から20km以上離れた自宅まで裸足に近い状態で歩いて逃げた方もいました。一番印象に残ったのはむしろ見舞いに来た患者さんの親御さんの方で、禁止されている物の持込を患者さんに頼まれて進んでしたり、ねだるままに大量のお菓子を買い与えられて、私の隣で病院食を食べずに一日中お菓子を食べている患者さんもいました。 退院後、しばらくはその病院に対する不満で頭が一杯でしたが、冷静に考える内に、家庭環境の問題や、医療システム全体の問題であると思うようになりました。本当は治療などほとんど不可能なのではないか。それをわかっていて(或いはそう思い込んでいて)、経営のために患者や家族に対しては、言葉や投薬でごまかしてとにかく長く入院させてやりすごさざるをえないのではないか。しかし本来、数多ある精神疾患に対して、また個々の患者に対して、それぞれ違った様々なアプローチがあるとは思いますが、そこで実際数百人いる入院患者一人ひとりにきめ細かく対応するのは、人的にもコスト的にも極めて難しいと思います。政治による法制度などの整備や、地域社会の理解と協力、何より患者と家族の自覚と自立が必要だと思いますが、それでも足りるのかどうかすら、私ごときにはわかりません。とにかくこの複雑に入り組んだ現代社会の中で、私には全く光が見えないのです。一体、精神医療に未来はあるのでしょうか。私は現在も苦しい時がありますが、再び精神科の門を叩く気持ちにはどうしてもなれません。林先生は今後の精神医療についてどのような展望を持っていらっしゃるでしょうか。是非お伺いしたいと思います。よろしくお願い致します。長文失礼しました。
林: つらい入院生活を送られたご様子、同情申し上げます。
病院についてここに書かれている内容は、一部は質問者の病気のために事実が正確に把握されていない面もあるとは思いますが、かといって全く的外れとも言えないでしょう。実体験は貴重なものです。けれども、質問者はたった一つの病院を体験されただけですから、それをもとに
一体、精神医療に未来はあるのでしょうか。
という問いを発するのは、個人的体験を一般化しすぎていると思います。
もしそこまでお考えになるのではあれば、まずは日本の精神医療の実態を、良い面も悪い面も含めて、広くご覧になる努力をすべきでしょう。私のサイトの精神科Q&Aも、精神科というものを知る資料のひとつになると思います。現在、精神科Q&Aは2000項目以上あり、これは日本の精神科のごくごく一部を映し出しています。あくまでこれも「ごくごく一部」です。
(2011.11.5.)