精神科Q&A
【2145】うつ病の母の入院治療についての疑問
Q: 私の母は現在60歳です。もともとは社交的でおしゃべりや買い物や趣味に夢中になるような明るい人でしたが(心配性ではありましたが)兄弟や近所の方の死がきっかけでうつ病を患うようになりました。(1年半程前) しかし当初はそこまで重症ではなく、一度は薬で回復し旅行も楽しめる程になっていたのですがその矢先に父が突然心筋梗塞で亡くなってしまい、それを機に再発してしまいました。(亡くなったのは約半年前) 症状は徐々に悪化し父の死から4ヶ月あまり経った頃に自殺未遂を図りました。手首を3カ所深く切り、動脈、腱、神経と激しく損傷しました。 その自殺未遂から現在1ヶ月以上が経ちました。現在の母は1日の大半をベッドで寝て過ごしています。食事やトイレは自分行きます。話したり、感情もあります。何にも興味を持てず、病気は治らないと信じていて治りたいという意欲もありません。自殺はもうしないとは言っていますが、自殺をしてもまた失敗してしまうと思うからにすぎず、できることなら消えてしまいたいと思っています。 今まで通院していた病院からは入院を勧めらましたが、本人は入院を非常に嫌がったので悩んでいました。しかし入院可能な病院に一度診察してもらったところ、「今日から即入院しましょう」と言われ3日前から入院しています。
入院したものの、下記の点が気にかかっています。 @本人としては自宅にいるよりストレスが大きく、心底嫌がっていて絶望しています。それでも現在の母には入院させるしかないのでしょうか。余計に悪くなるのではないかと心配です。 A薬の量が多い。特に説明もなく投薬が開始されたので、処方している薬を教えてほしいと頼んだところ下記の内容でした。 朝・昼・夕リーマス錠100 1錠アナフラニール錠25m 1錠セニラン錠2m 1錠 就寝時リフレックス錠15m 1錠セロクエル25m錠 2錠ロヒプノール錠 1錠 (睡眠薬)メイラックス錠1m 2錠 (睡眠薬) 私が読んだ本には基本的に抗うつ薬は1種類を処方するとありました。最初の処方でいきなりこの種類は多すぎると感じました。これ程の種類を処方しては、どれが効果があり、どれが合わないのか、どう見分けるのでしょうか。また、調べたところリーマス錠はそう病の薬とありました。母はそう状態なことは全くありません。うつの人が自殺をしたい衝動にかられて発作的に行動することを抑制するという意味で処方されてるのでしょうか。 主治医に尋ねるべきとは思いますが、週に1日しか病院にいないことと、正しいと思って処方している本人に質問しても、この処方が正しいという説明しか返ってこないと思うので。 よろしくお願いいたします。
林: うつ病が長引き入院となり、ご心配のこととお察しいたします。
けれども、質問者の心配内容は全体として杞憂の範疇に入るといえるでしょう。
現在の主治医による入院治療選択という判断および処方に、大きな間違いがあるとは思えません。
@ 本人としては自宅にいるよりストレスが大きく、心底嫌がっていて絶望しています。それでも現在の母には入院させるしかないのでしょうか。余計に悪くなるのではないかと心配です。
そういうご心配をされるのはある意味もっともですし、住み慣れた家のほうが病院より安心できるというのも当然のことです。しかし、お母様の症状と経過からみて、病院という慣れない環境で過ごすことのマイナスよりも、入院治療によるプラスが優っていると主治医は判断されたのだと思います。うつ病が長引いてこのケースのような状態が続いている場合には適切な判断であると思われます。
A 薬の量が多い。特に説明もなく投薬が開始されたので、処方している薬を教えてほしいと頼んだところ下記の内容でした。 朝・昼・夕リーマス錠100 1錠アナフラニール錠25m 1錠セニラン錠2m 1錠 就寝時リフレックス錠15m 1錠セロクエル25m錠 2錠ロヒプノール錠 1錠 (睡眠薬)メイラックス錠1m 2錠 (睡眠薬)
お母様の症状からみて、この処方内容は特に多いとはいえません。
私が読んだ本には基本的に抗うつ薬は1種類を処方するとありました。
それが基本です。しかし基本は基本にすぎず、本やネットの情報よりも、主治医の方針のほうを信頼すべきです。これはどんな場合にもいえることです。本やネットから仕入れた知識は(私のこのサイトを含め)、はっきり言えば聞きかじりであり、それをもとに主治医の方針に異を唱えるのは、半知半解と言わざるをえません。
最初の処方でいきなりこの種類は多すぎると感じました。
このケースの処方は「最初の処方」とはいえません。すでにうつ病として長い経過をたどり、しかも経過は思わしくないわけですから、質問者の言うところの「基本」に従って、「最初の処方」から始めるのは、この段階では不適切である可能性が高いです。
また、調べたところリーマス錠はそう病の薬とありました。母はそう状態なことは全くありません。
それも半知半解の知識です。うつ病にリーマスを処方することについての説明は非常に複雑になります。ごく単純にいえば、うつ病にみえても、躁うつ病の因子があると思われるケースでは、リーマスを最初から処方するのは合理的な治療です。
但しこれはごく単純に説明しているにすぎません。「躁うつ病の因子がある」という判定はそう容易ではありません。また、その場合、抗うつ薬を併用することの是非についても議論があります。これらについての説明はここでは省略しますが、全体を通していえることは、この【2145】の質問者のご心配は、病気についての半知半解の知識に基づいている部分が大きいということです。ご家族のこのような姿勢が原因で適切な治療がなされにくくなり、病気が長引くことも稀ではありません。入院された病院からの説明不足という要素も確かにあるのかもしれませんが、その病院への入院治療を選択した以上、一定期間は入院主治医の方針に従うことが最善です。
(2011.11.5.)