精神科Q&A

【2144】毎日しっかり出勤しているのに、うつ病を理由に異動を拒否する同僚‏


Q: 私は30代女性です。40代の同僚についてご質問いたします。私か同僚のどちらかが隣県へ異動しなければならないことになりました。 現在は常日勤ですが、隣県へ異動した場合、夜勤をやらねばなりません。私は夫が単身赴任中のため1人で小学生と中学生の子を育てている状態なのですが、夫はあと2年帰ってくる見込みはなく、夜勤がある隣県へ異動した場合、夜間子供だけを家に置いておくか、退職しなければなりません。 そんな状況の中、私に異動して欲しい。と上司から言われました。 納得できなかった私が、上司に理由を尋ねると、同僚が、うつ病で6年前に診断書を出している。というのです。 その隣県の異動先は、私も同僚も過去に働いたことがあり、そこでうつ病になった。というのです。だから、異動によって再発されたら困る。と上司は話していました。 しかし、現在その同僚は、突発の休みを取るようなことはなく、遅刻も早退もせず、お化粧や洋服、おしゃれに気を使い、お芝居や映画を観に行ったりしています。さらに、その隣県で働いていた時から、その仕事はやりたくない。というのを私は聞いていました。 それを上司に話しましたが、上司は、彼女は薬を飲み続けているから、お芝居を観にいけたり、お洒落にも気を使えるんだ。と言うのです。 公務員ですから、私が育児を理由に退職するより、同僚が再発して自殺でもされる方が上司的には非常に困るわけです。 私はこの話があってから、食欲がなくなり、常に悪阻のような吐き気が続き1週間で体重が3kg落ちてしまいました。さらに、仕事は手につかず、夜もあまり眠れない状況で、同僚が楽しく笑っているのをみると、なんであの人だけ優遇されるの??という思いと、子供はどうしよう…という思いが頭の中を巡って、そこから抜け出せない毎日を送っているのです。 同僚は、本当にうつ病なのでしょうか?


林: この同僚の方は、文面のトーンから判断する限りでは、うつ病ではなく、擬態うつ病のようにも感じられます。けれども、上司のおっしゃるように、

彼女は薬を飲み続けているから、お芝居を観にいけたり、お洒落にも気を使えるんだ。

というのが実は正しく、この同僚の方は本当にうつ病であって、今はそれがよくなっている状態なのかもしれません。質問者は、

現在その同僚は、突発の休みを取るようなことはなく、遅刻も早退もせず、お化粧や洋服、おしゃれに気を使い、お芝居や映画を観に行ったりしています。

という点を見て、この同僚の方がうつ病であることに疑問を持っておられますが、うつ病は治る病気ですから、かつてうつ病で苦しんでいた人が、治った状態においては、このように色々なことを楽しめるのは、ごく普通のことです。
 そこで質問文をあらためて読み直してみますと、擬態うつ病と感じられるのは、文面のトーンからの印象という要素が大きく、この同僚の方がうつ病でないと推測する根拠には乏しいことがわかります。特に、うつ病の診断書が出たという6年前の状態についての具体的な情報が何もないわけですから、うつ病でないとか、うつ病ではなかったと考える理由が見当たりません。
 質問者がこの同僚に対して不信感を持っておられることは明らかですから、このメールの文章のトーンには、「この同僚はうつ病でない」という方向への偏りがあるとも考えられます。

しかしここでは一応、この同僚の方について、
a. うつ病でない
b. うつ病である
のどちらも考えられると仮定して、その両方の場合について回答してみたいと思います。

a. 【2144】の同僚の方が、うつ病でない場合
本当はうつ病でないのに、「うつ病」をアピールして、特別扱いを要求している。これは、擬態うつ病の典型的なパターンの一つです。
 そして、その特別扱いを容認し続ける周囲(このケースでは上司)が、本人を増長させる。(「増長」はやや強すぎる表現ですが、わかりやすさのためこの言葉を採りました)
 職場のような場では、誰かが特別扱いを受ければ、誰かがその分の負担を引き受けなければなりません。【2144】では質問者がこの「負担を引き受ける」役割を負わされており、その結果、

私はこの話があってから、食欲がなくなり、常に悪阻のような吐き気が続き1週間で体重が3kg落ちてしまいました。さらに、仕事は手につかず、夜もあまり眠れない状況で、・・・

という状態になってしまった。これは、擬態うつ病 / 新型うつ病 実例からみる対応法 のケース8に、「擬態うつ病の連鎖」として解説した通りの状況といえます。

b. 【2144】の同僚の方が、うつ病である場合
うつ病になった原因は、今回異動の候補となっている職場の環境にある、だから本人は異動を拒否し、上司も再発の可能性を考慮して、異動させないという決定をしている。
要約すれば、このような状況ということになります。
これは正しい扱いといえるでしょうか。
うつ病という病気の人を守る、という観点からは、無条件に正しいといえるかもしれません。そして、「病気の人を守る」は、反論を許さない絶対的な正義ともいえる命題です。
けれども、「絶対的な正義」とは、えてして暴走しやすいものです。
この【2144】の同僚の方がうつ病になったのは6年前で、現在はほぼ完全に治っている。そのようなケースを、今なお特別扱いする必要があるのか。
 話は戻って、「病気の人を守る」という観点からは、「再発のおそれがある以上、当然に特別扱いする必要がある」ということになるでしょう。そう言われると反論は困難です。反論したら、悪人扱いされそうです。
しかし、その特別扱いによって、この【2144】の質問者の方のように、不条理ともいえる負担を強いられている人がいらっしゃる場合は、どうでしょうか。周囲の人は、このように無制限ともいえるほどに耐えなければならないのか。
現実を直視した議論が必要な問題だと思います。直ちに答えが出せる問題ではありません。ただひとついえることは、医師の意見だけを尊重し続けることには、疑問を持たざるを得ないということです。医師は治療が役割であり、目の前の患者の味方ですから、たとえばこの【2144】の同僚の方から、「再発のおそれがあるから異動は好ましくないという診断書を書いてください」と頼まれれば、診断書の文章表現はともかく、書く場合が大部分でしょう。私もおそらく書くと思います。(但し、その診断書の文章表現はかなり熟慮すると思います)


【2144】の、

同僚は、本当にうつ病なのでしょうか?

というご質問そのものには回答できませんが、【2144】のような状況は現代の職場でしばしば発生しており、そこには上記のような問題があるということを認識されたうえで、質問者の職場の具体的な状況を見つめなおしていただくようお願い申し上げます。


(2011.11.5.)


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