精神科Q&A

【2139】妻の妄想が2,3日で消えました


Q: 30代男性です。2年前、妻が突然「盗聴されている」と言い出しました。妻は仕事が忙しく毎晩遅くまで働いていたため疲れが溜まったのかと思っていましたが 「カメラが仕掛けられて、様子を公開される」「会社の人間が信用できない」などと言い出し、錯乱しているようにも見えたためすぐに心療内科へ連れて行きました。 病院で薬をもらった後、20時間以上深く睡眠し錯乱や奇妙な言動は一切なくなりました。様子がおかしい時期はほんの2,3日の間でした。 今はカメラが無い事や、盗撮の公開がない事実を本人は理解し「どうしてそんな状態になったのか」を笑いながら話せますが「本当にそれがあった(感じた)」という記憶は残っているようです。 発症期間がとても短かったのですがその時の様子・症状は先生のページにも記されている「統合失調症」そのものだと思います。 いま健康な生活を送り、その時の事はもうあまり話さないようにしていますが私もその時のショックは頭から離れずおそらく本人も何らか引きずる物はあるのではないかと思います。 発症期間の短さと回復の早さこういうケースも存在するのでしょうかまた、心がけなければいけないケア方法などはあるのでしょうか  宜しくお願いいたします。


林: 
発症期間がとても短かったのですがその時の様子・症状は先生のページにも記されている「統合失調症」そのものだと思います。

その通りといえます。
そして、この【2139】のように、ごく短期間で、統合失調症の症状がすっかり消失するケースが、稀ではありますが存在するのも事実です。
このような場合の考え方としては、
(1) 治療がとてもよく効いた
(2) そもそも、統合失調症ではなかった
の二つに大別することができます。
 現代の公式の診断基準では、症状が少なくとも6ヵ月続くことが統合失調症と診断する条件になっています。が、治療が奏功した場合は、症状の持続はもっと短い期間でもいいという規定も記されています。
けれども、この【2139】のケースのように、薬物療法をしたとはいえ、2,3日で症状のすべてが消失した場合は、本当にこれは治療が効いたのかという疑問が払拭できません。多くの統合失調症では、いくら薬が効くといっても、ここまで短期間で症状が消えることはまずないからです。すると、このようなケースでは、「統合失調症だが、治療がとてもよく効いて短期間でよくなった」のか、「そもそも、統合失調症でなかった」のかは、判断不可能というのが厳密には正しいということになります。
「そもそも、統合失調症でなかった」ということになれば、短期精神病性障害あるいは急性一過性精神病性障害という診断名になります。これについては【2115】をご参照ください。

なお、このこの【2139】については、重要な点として以下を明らかにする必要があります。

・その後の服薬状況はどうなのか
今は健康とのことですが、薬を飲んでいるのでしょうか、いないのでしょうか。
文面からは飲んでいないように推定できますが、そうだとすれば、どれだけの期間飲んだのか、飲むのをやめてからどのくらいになるのか、それによって回答は微妙に変わってきます。

・ いま本当に症状はゼロなのか
メールからはゼロのように読み取れますが、それは質問者の判断にすぎないのであって、精神科医が診察すれば、統合失調症の症状が残っていることも十分に考えられます。

以上が重要な問題点として残っています。
しかしいずれにせよ、この【2139】のケースは、症状が出てからきわめて早期に精神科を受診し、治療を受けられたことが、非常に良い経過につながったことは間違いありません。統合失調症のQ&Aの実例の中には、早く治療を受ければほとんど何の問題もなかったのに、と悔やまれるケースが膨大にあります。

(2011.10.5.)


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る