精神科Q&A
【2104】中3の娘は統合失調症の前駆症状か、それとももう発症しているのでしょうか
Q: 中学3年生の娘について相談いたします。娘は4ヶ月前からから不登校状態です。その2ヶ月ほど前から風邪、発熱、頭痛などで体調を崩すようになり、病院にかかることが多くなりました。インフルエンザではなく、マイコプラズマ気管支炎と診断され抗生物質を処方されたのですが、最初の薬では効かず薬を代えてもらっても熱は下がりませんでした。その後も現在まで38度までの微熱が続いています。ネットで症状などを調べ、自律神経失調症のような気もしたのですが、1年ほど前に小児科医院で、「この子は甲状腺が大きいね。しばらく様子を見てみましょう。」と言われたことを思い出し、専門の病院を訪ねたところ、甲状腺が4倍腫れていると言われました。軽い橋本病のようなので、精神症状(イライラする、怒りっぽい、食欲がない)や多汗や動悸、指先の痺れ、身体の痛み、痒み、浮腫み、体重増加、眠気、不眠、疲労感などすべてそこからきていて、だるくて学校に行けないのだと思っていました。 しかし受験生なので、甲状腺の薬(ホルモン剤)を処方してもらえば、登校できるのではないかと考え、主治医に相談すると、数値も悪くないし学校にいけないのは甲状腺ではないと言われ、心療内科を紹介して頂きました。そこで受診したところ、丁寧に診察してくださり、思春期に詳しい大学病院を紹介して頂きました。予約の電話を入れると初診は一ヶ月待ちでしたが、迷った末予約を決めました。何故迷ったかといいますと、娘が心療内科受診で何かを感じたのか「早く病院にかかりたい。早くして。」と珍しく、そう話したからです。前置きが長くなりましたが、私の気になる娘の症状は
○自分の部屋で閉じこもりじっとしている(ときどき音楽を聴いたり、テレビをみたり、漫画を読み描きしている)
○昼間ひとりで居る時に、ピンポンとチャイムがなると上まで人が上がってきて家のなかに入ってくるんじゃないかと怖いらしい。私の仕事場まで「怖い」とメールや電話が来る。 なので頑丈に玄関をロックしている。
○ひとりで外出しなくなった(人ごみが嫌らしい) 外出は1ヶ月に1〜4度くらい(通院を含む) 外を歩くとき私と並んで歩きたがらない、別行動をしたがる。
○寝つきが悪く、朝方4時まで眠れないらしい。
○偏頭痛持ちですがカロナールが効かなくなって、以前とは違い後頭部が痛いらしい。 殴られた後の余韻のような痛さという。
○食べ物(特に汁物)の味がしないという。お茶など変な味がするという。薬のような味。
○お風呂に入る頻度が減り、おしゃれをしなくなった。
○以前は明るく友人も多く、町内のリーダーをしたり、陸上部の部活動に熱心でドッチボールの好きな子供だったのに、180度変わってしまった。
○思えば数年前からイライラしていることが多く、些細なことで異常なくらい怒り出すことがあった。 例えば娘がテレビを見ているそばで話を主人と始めると、必ず「うる さい」と怒り出す。その怒り方が普通ではなく暴れる感じ。
○誇大妄想的なことを本気なのか冗談なのか話す。「私は神より凄い」「私は一番可愛い」など。以前は「私もう少し可愛かったら良かったのに、、、」と言っていたのに。
そして、先日、娘と話したときには、次のようなことを聞かせてくれました。
○色々な気になる症状の始まり→中1の終わりから中2の初め
○幻聴、空耳→男の声か女の声か判らないが、すごく遠くの方から自分の名前を呼ぶ声と笑い声が、ぼう〜としていると聞こえてくる。(小 学校高学年から)
○人の視線→中2の終わり頃から気になる。外を歩くのが不安で下を向いてしまう。
○自分の周りの雰囲気が怖い。
○寝るときに電気を消すと、ドアから人が覗いている気がする。
○寝てる途中で目を開けたら、大勢の人間が自分の顔を覗き込んでいるような感じで怖い。(これが不眠症の原因)
○学校にいたとき、後ろの方で自分の悪口、噂話をされているような気 がする。人の会話の内容がすべて自分の悪口、陰口を言っている気がする。
○自分が心の中で悪いことを考えていると、人に見透かされているような気がする。自分の頭の中の考えが他人にばれてしまう。
○人が信用できない。(両親も親友も友達も皆)
○イライラして暴れたくなって、暴力を振るいたくなったり、暴言を吐きたくなる。
○ひとりで居るとき、悲しくも無いのに無性に泣きたくなる。
○症状はいつもあったけど、我慢していた。しかし、今年爆発してしまった感じ。
○ひとりになりたい。ひとり暮らしがしたい。人混みが嫌い。
○同世代、同年代の人間がいると不安になる。老人や中年や赤ちゃん、小さな子供は平気。 ○光が眩しい。曇っている日でも眩しく感じる。時々目が見えないようなおかしくなるときがある。
○自分以外の人間は汚いと思っている。
○心療内科を受診した後から、同じ内容の悪夢を何度も見るようになった。
○身体症状→頭痛、後頭部痛、動悸、胸が痛く息苦しい、微熱、不眠、寝つきが悪い、腹痛、便秘、下痢、食欲不振、指先のしびれ、筋肉痛、喉の痛み、こむら返り、多汗、手汗、足のムズムズ感、生理不順、吃音 イライラ感、朝なかなか起きれない、視力低下、吐き気など
このような様子なのですが、どうでしょうか? 実は私の姉は4年前の春錯乱状態になり、非定型精神病と診断され自殺の心配があったため入院しました。退院して2年間通院していましたが、2年前の春に自殺してしまいました。姉には幻聴、幻覚があり盗聴器を仕掛けられているとか、自分は狙われている、テレビが変だと警戒していました。そして「怖い、怖い」とよく怯えていました。
こうした背景のため、私は過剰に心配しているのかもしれないとも一時は思ったりしたのですが、上のような症状を娘から聞いて、これはもう橋本病から考える以上の精神症状なので、やはりメンタル面に重大な病気を持っていることを確信致しました。よく話してくれたと娘の勇気に感謝しました。この娘の話から、やはり統合失調症と判断して間違いないでしょうか?そしてそうだとすると、もう発症しているのでしょうか?早く専門の思春期外来に受診したい気持ちでいっぱいですが、予約はまだ一ヶ月も先です。大丈夫でしょうか? とにかく何かをしなくてはと、林先生がお薦めされている「精神病」という本を購入し読んでみて、大変勉強になりました。どうにもこうにもまず受診してからの事だと考えて、焦る気持ちを静めています。その間に病状が悪くならないかと心配ではありますけれど、自分自身も覚悟を決めて動揺しないように心の準備期間と思い、少しでもこの病気の情報を得ようと考えております。林先生のこのサイトのような相談の場があることに感謝致します。
林: 橋本病をはじめとする甲状腺の疾患では、精神症状が出ることは珍しくありません。その症状の中には幻覚や妄想もありますが、多くはそれらの性質が統合失調症とは違っています。とはいえ、稀ではありますが、症状だけをみたのでは統合失調症と区別がつかない場合もあります。また、甲状腺の疾患による精神症状は、甲状腺ホルモンの数値と相関する(つまり、甲状腺ホルモンの数値が正常範囲だったり、正常範囲にかなり近い場合には、精神症状は出ない)とされていますが、実際のケースではそうでないこともしばしばあります。ですから、この【2104】のケースも、症状がいくら統合失調症に似ていても、それだけでは甲状腺が原因でないとは言い切れません。
また、
現在まで38度までの微熱が続いています。
というのも気になる点で、甲状腺疾患の影響か、さらには他の病気(精神症状をきたす病気。たとえば脳炎)の可能性も捨て切れません。
けれどもこの【2104】のケースにはさらに、質問者のお姉さま(ケースからみれば伯母様)が非定型精神病であったという重要な情報があります。非定型精神病の概念は曖昧だったり難解な点もありますが、統合失調症にかなり近縁の精神病ですので、この【2104】のケースには、「精神病の遺伝負因あり」ということができます。このことと、現在の症状あわせると、やはり統合失調症の可能性がかなり高いという結論になります。
質問者が現在、とても大きな不安を感じておられることは痛いほど察せられます。
どうにもこうにもまず受診してからの事だと考えて、焦る気持ちを静めています。その間に病状が悪くならないかと心配ではありますけれど、自分自身も覚悟を決めて動揺しないように心の準備期間と思い、少しでもこの病気の情報を得ようと考えております。
現状では、質問者のこの姿勢は適切であるといえるでしょう。
けれどもあえてひとつ言わせていただけば、このケースを診察した心療内科の医師に、きちんとした診断をつけて、統合失調症の治療を開始していただきたかったと思います。専門の病院に紹介すること自体、適切であることは間違いありませんが、その病院の受診までに日があるのであれば、それまでの期間、治療を開始するか、少なくとも密にフォローアップして、病状の変化を綿密に観察していただき、悪化の兆候があればその時点で治療を開始していただきたかったと思います。看板が「心療内科」であれ何であれ、心の病を扱うクリニックである以上、統合失調症の診断と治療は必須事項であり、受診された患者さんに統合失調症の疑いがあれば、たとえ専門医に紹介するという方針をとるとしても、それまでの間は診療を担当する責務があると私は考えます。
あるいはこの心療内科の先生は、紹介先の病院の初診が一ヶ月先になるとはご存知なかったのかもしれません。もしそうであるなら、初診の予約日の前に、もう一度この心療内科の先生を受診して診ていただくことが薦められます。
その間に病状が悪くならないかと心配ではありますけれど、
このご心配はまさにその通りで、「焦らないことが大切」は事実ではありますが、「だから初診までは様子をみる」のが正しいとはいえません。
(2011.8.5.)