精神科Q&A
【2094】妄想性障害の母を医療保護入院させました
Q: 40代男性です。私たちは、林先生の事実を伝える書籍とサイトにとても助けられました。私たちの経験も他の同じような悩みを抱えている方のお役にたてばと思いメールを差し上げました。
母(66歳)はX年から妄想性障害を発症し、精神科のクリニックで治療を続けてきました。当初は平成X-5年ごろからうつ病で同じクリニックへかかっていたのですが、途中から様子が変わっていったようです。(これは、当時は知らず、今回、医師に確認をして知った事実です)X年に受診した際は、財布の中や部屋の中から物がなくなるという訴えで、奇妙だなと思いつつも、薬(リスパダール1ミリ)が良く効きクリニックに通いだして1週間ほどで、問題はなくなりました。 何度か家族同伴でクリニックへ病院には行っていたのですが、家族相談を行わなっていなかったので、母から聞いている「うつ病」の治療だと思って、妄想性障害の治療を行っているという認識はありませんでした。
その後もとても順調に薬で妄想性障害を押さえて生活ができていたのですが、母の知り合いでうつ病だった友人がいたとのことで、薬をこうやってやめたという話を聞き、X+4年の春ごろ勝手に断薬してしまったようです。その後もクリニックには通っていたのですが、X+5年の春ごろから通わなくなってしまいました。それからもしばらくは大きな変化がなかったのですが、X+5年の秋から「隣家の家族が家に入ってきて物を盗む」、「友人のAさんがいない間に勝手に部屋に入ってきて着物を盗んだ」等の訴えが強くなってきました。当初は、認知症になってしまったのかと思いましたが、普段の生活でも妄想以外は問題なく暮らすことができる状態で、変だなと思っていました。
どうしても分からないので、X+6年の1月に母の通っていた精神科のクリニックへ家族相談を行い、そこで初めて母が妄想性障害で治療をしていたということを知りました。(もっと早く病名を教えてもらっておけばと思っても後の祭りです) 妄想性障害の再発ということで、医師からは入院を勧められたのですが、母の精神病院へのアレルギーは相当なものが有り、受診させようとしたところ、家の中で大声を出して騒ぎ、連れてゆくどころではなくなりました。 結局、別の精神科のクリニックを受診させることで妥協したのですが、クリニックで出された薬(リスパダール1ミリ)を、便秘がするとか、頭の働きが鈍る等の言い訳をして、飲んだり、飲まなかったり、錠剤を半分に割って飲むような状態が続きました。
そのうちに、妄想性障害の妄想がひどくなり、家の中で大声で叫んだり、妄想で隣家から意地悪をされているからと、大声で悪口や「死ね、死ね」と叫んだりして、警察に通報されること複数回、保健所から私の職場へ何とかしてほしいという電話がかかってくるようになりました。
X+6年の2月に入り、妄想の対象が隣家や友人から一緒に暮らす父へも及び始め、父が居たたまれなくなって家出を繰り返し、生活ができないような状態になりました。 それまでは、家族として医療保護入院という形の強制入院は逡巡があり、踏み切れずにいました。1月に保健所へ行った際にも、医療保護入院を強引にすすめたために家族が壊れてしまった例を聞かされて、正直、迷いました。
悩みに悩んでいたところ、「精神科Q&A」と「統合失調症 患者・家族を支えた実例集」に出あい、治療を受けさせる必要性を理解しました。 医療保護入院をするために、病院と保健所、警察へ相談を行い、一週間の時間をかけて、準備を進めました。民間救急による移送も検討しましたが、やはり家族で連れてゆく方が、無理矢理でもいいだろうと、車と運転手だけを手配し当日になりました。 当日、説得をしても母の病院へ行く医師はノー。それでも必死になって1時間以上、治療を受けることを説得しました。その時、母が「そんなに言うなら行ってやるけど、もう、家には帰らない」と言いだしました。 正直、こう言えば家族はひるむと母は思ったのでしょう。私は母の言葉を逆手にとって、車に乗せ病院につれてゆき、医療保護入院をさせることができました。 多くの方が、どうやって病院に連れてゆくのか悩まれていると思います。こういう事例もあるのだと知っていただければ幸甚です。 母の妄想性障害は、今回、断薬したことで、以前より進んでしまったと思います。妄想性障害は薬が効きにくいといわれているようですが、母の場合は、以前、薬がよく聞いたことを寄る辺に、治療を今回は断薬などせずに続けられるように支えたいと思います。 最後に、事実という形でいろいろな実例を紹介いただいたことで、私たち家族は救われました。本当に有難うございました。
林: 貴重な体験のご報告をいただきありがとうございました。
私に感謝いただいておりますが、この【2094】のご一家の助けになったのは、公開を前提に私のサイトに貴重な体験をお寄せいただいた方々だと思います。また、この【2094】の内容も、多くの方々の助けになると思います。ありがとうございました。
ひとつだけ解説しますと、
妄想性障害は薬が効きにくいといわれている
そのように言われていますが、正確には、「妄想性障害の中のある一群は薬が効きにくい」というべきでしょう。この【2094】のようなケース、すなわち、診断基準上は妄想性障害でも、実際には統合失調症に近縁のケースでは、大部分の場合に薬はよく効きます。今後も、薬をきちんと飲み続ければ、安定した状態を保たれると思います。
(2011.8.5.)