精神科Q&A

【2054】特定の人以外とは口をきかない13歳の娘


Q: 13歳の娘(長女)のことでお伺いします。 娘は5ヶ月前から精神科を受診し、現在はドグマチール100mg朝夕1錠、ベンザリン10mg1錠を処方されています。 薬はこれまでに、リスパダールなど、何回か変わっていますが、強いめまいなど訴えたため、最近ドグマチールに変わりました。 主治医からは、統合失調症の可能性があると言われました。   精神科を受診したきっかけは不眠の訴えと、私(父親)が娘はかんもく症ではないかとの疑いを持ったからです。 娘は家庭ではよくしゃべっていたものの、幼稚園に入園した際に、園ではほとんどしゃべらないことがわかりました。このころには、空想上の友達を創って遊んでいたりしています。その後小学校へ入学してもその傾向はかわらず、特定の友達やとの会話や授業中はしゃべりますが、特に大人との間では黙ってしまい、会話が成立しませんでした。友達も数人程度で余り多くはありません。 小学校3年生の時に、比較的大きな手術をしましたが、その際にも主治医の先生の「手術後の痛み」などの質問にまったく答えることができない状態でした。 この傾向は徐々に強くなり、小学6年生の半ばごろからは、親とも話せなくなりました。現在は親の問いかけに頷くか、小さな声でぼそぼそと2、3言話すだけになっています。娘に聞いたところ、親にも顔を見られたくない、食事をする姿を見られたくないといった気持ちがあるようです。  現在、中学校には通っていますが、友達はいないようです。 特定の男子生徒や一部の小学校の同級生とは普通に話せると本人は言っています。また、妹(次女)とは普通に話しています。 極端にしゃべらないこと以外は特に変わったとこもなく、成績は小さいことから良好で、今のところ中学に入ってからも変わりありません。 ただし、親とも話せなくなった頃から、体重の増減にこだわり出し、ダイエットを始めています。体重へのこだわりはかなり強いのですが、極端に体重が減るようなこともなく推移しています。  このような状況のため、かんもく症を疑ったのですが、初診の直前に、小学校6年生の頃から、稀に入眠時や起床時などに「悲鳴」や「名前を呼ばれる」などの幻聴があることを娘の方から話出しました。  更に、今までの受診のなかで、クラスや同学年の生徒がジロジロ見ることが気になる、特定の生徒たちが娘の顔を「ガン見する」、誰かが話していると自分の悪口を言っているような気がするときがある、自分の考えがほかの人に伝わっているんじゃないかという思えるときがある、いつも頭の中で娘の好きなアーティストの曲が流れている、何も考えていないときいろんな考えが沸いてくる(受診時には漠然とした話だったため、後日娘に内容を聞いたところ、生徒会での意見や、学校で出されて分からなかった問題の答え、書いている小説のストーリーなどが次々に頭に浮かんでくるとのことでした。)などの状況が小学校6年生頃からあることがわかりました。 また、不安感も強く、小学校のころは将来への不安や中学進学への不安、今は高校受験への不安が強くあるようです。娘によると、こうした不安は、しばし内容を変え、小学校学校3年生の手術のころからずっとあったものだそうです。その頃は、妻が交通事故を起こしたり、私が仕事上の重大なトラブルに巻き込まれたりして家庭内が大変だったため、娘にも大きな負担を強いてしまったのだと思います。  心理検査では、対人の緊張が強いという結果が出たと聞いています。  娘は主治医の質問にもほとんど答えることができません。主治医が「こういうことはある?」と聞くとうなずくか、黙ってしまうか、2、3の単語であるかないかなどを答えるだけなので、実際には具体的にどのぐらいの頻度でどんなことが起こっているのかはよく分かりません。  私の弟(娘の叔父)が統合失調症で、私のいとこ10人のうち一人も統合失調症を発病しているため、当初から、統合失調症の前駆症状かもしれないとの疑いを持ち続けてきました。 また、娘自身も以前、自分の病気はこれだと言って、自分で調べてきた「家庭の医学」の「統合失調症」の欄を示したことがあります。 今回思い切って主治医に病名を尋ねたところ、「統合失調症の可能性がある。一番気になるのは「他人からの視線が気になる」などの過敏さと緊張の高さ、本人がしゃべらないのでよくわからないが、何かあると思う。今はぎりぎりの所でなんとか持ちこたえている気がする。ストレスが大敵、特に受験のストレスが心配だ。こうした状態の時にどんな治療が正しいのかは、服薬がいいのか、ほかの手段がいいのか学説も定まっていない。まずは、服薬で本人の緊張を取ること、家庭ではストレスを溜めないように気をつけた方がよい、と言われました。  現在、本人によると不眠と入眠時などの幻聴はないようです。 親からすると、だれかが悪口を言っているような気がする、自分の考えが他人にも伝わっているような気がする、問題の答えが突然浮かぶなどの話は、私や妻にも思春期の頃には心当たりがあり、本当に病的なものなのか、娘がうまく表現できないので病的な症状に見えてしまうのかもよくわかりません。  娘は統合失調症の前駆症状または統合失調症なのか? 今後気をつけていけば、この状態のまま統合失調症の発病に至らないで生活していけることはあるのか? 家族としてこれから娘と接するにあたり気をつけなければならないことは何か? など、お聞きできえればと思います。  なお、これからも主治医と相談しながら、服薬管理だけは徹底させていきたいと考えています。  長々と失礼いたしました。どうかよろしくお願いします。


林:
幼稚園に入園した際に、園ではほとんどしゃべらないことがわかりました。このころには、空想上の友達を創って遊んでいたりしています。

幼稚園時代には、「空想上の友人」(想像上の友人)がいること自体は特に病的とはいえません。
けれども、

その後小学校へ入学してもその傾向はかわらず、特定の友達やとの会話や授業中はしゃべりますが、特に大人との間では黙ってしまい、会話が成立しませんでした。

このように、現実の人とのつきあいに問題が出てきた場合は、注意を要するといえます。
そしてその後も

小学校3年生の時に、比較的大きな手術をしましたが、その際にも主治医の先生の「手術後の痛み」などの質問にまったく答えることができない状態でした。 この傾向は徐々に強くなり、小学6年生の半ばごろからは、親とも話せなくなりました。現在は親の問いかけに頷くか、小さな声でぼそぼそと2、3言話すだけになっています。

というように、人間関係の問題がむしろ進行していると解釈できますので、この時点で、何らかの病気の疑いは強まってきていたといえます。

また、

小学校6年生の頃から、稀に入眠時や起床時などに「悲鳴」や「名前を呼ばれる」などの幻聴があることを娘の方から話出しました。

このように、入眠時や起床時などの幻聴は、それ自体は病的とはいえませんが、

 更に、今までの受診のなかで、クラスや同学年の生徒がジロジロ見ることが気になる、特定の生徒たちが娘の顔を「ガン見する」、誰かが話していると自分の悪口を言っているような気がするときがある

これは被害妄想的な過敏さですので、ここに至るまでの経過とあわせて、統合失調症のごく初期や前駆期の疑いありといえます。
さらに

自分の考えがほかの人に伝わっているんじゃないかという思えるときがある、

これは自我障害の一種である思考伝播であり、

いつも頭の中で娘の好きなアーティストの曲が流れている、何も考えていないときいろんな考えが沸いてくる

これは幻聴ないし自生思考で、いずれも統合失調症の症状です。

その頃は、妻が交通事故を起こしたり、私が仕事上の重大なトラブルに巻き込まれたりして家庭内が大変だったため、娘にも大きな負担を強いてしまったのだと思います。

このように、ご家族は心理的な原因を重視しがちで、それは「だから統合失調症でない」という判断に傾く根拠になりがちですが、それは事実ではなくご家族の願望にすぎません。(この【2054】の質問者はそのような非現実的な願望をお持ちではないようですが、一般的にはそういうことがよくあります)

そして、

私の弟(娘の叔父)が統合失調症で、私のいとこ10人のうち一人も統合失調症を発病しているため、当初から、統合失調症の前駆症状かもしれないとの疑いを持ち続けてきました。

遺伝的素因は統合失調症では重要ですので、このご判断は正確であるといえます。

結論は、

「統合失調症の可能性がある。一番気になるのは「他人からの視線が気になる」などの過敏さと緊張の高さ、本人がしゃべらないのでよくわからないが、何かあると思う。今はぎりぎりの所でなんとか持ちこたえている気がする。ストレスが大敵、特に受験のストレスが心配だ。こうした状態の時にどんな治療が正しいのかは、服薬がいいのか、ほかの手段がいいのか学説も定まっていない。まずは、服薬で本人の緊張を取ること、家庭ではストレスを溜めないように気をつけた方がよい、と言われました。

この主治医の先生のご説明の通りです。

ご質問項目については、

娘は統合失調症の前駆症状または統合失調症なのか?

その通りです。

今後気をつけていけば、この状態のまま統合失調症の発病に至らないで生活していけることはあるのか?
家族としてこれから娘と接するにあたり気をつけなければならないことは何か?


これらについては、直接診察されている先生のご判断のほうが、メールから判断している私よりもはるかに信頼できますので、先生にお尋ねください。


◇ ◇ ◇

【2053】に続き、この【2054】も、「想像上の友人」が存在しても、解離ではなく統合失調症であったという例です。


【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。


(2011.6.5.)



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