精神科Q&A
【2001】統合失調症である私の生い立ちから発症、そして回復
Q: 【1643】統合失調症と納得し、治療を続けた結果、非常に穏やかで爽やかな気分になりました、【1685】ようやく両親に統合失調症であると理解してもらえました、【1972】統合失調症で、一旦はかなりいい状態になったものの、急な減薬や両親の無理解などがあり、現在は不安定な状況ですでは回答いただきありがとうございました。
現在私はかなり難しい状況に立たされているため、自分の現状を把握するためにも、是非自分の経過をお伝えしたいです。長文になりますが、お読みいただければ幸いです。
まず、私の幼少期ですが、非常に体が弱く、親に迷惑ばかりかけていたようです。同年代との付き合いが余り得意ではなく、大人の機嫌を取るのが得意でした。母曰く、「明るくて性格的には扱いやすかった」そうです。小学校の低学年では体のことでいじめを受けたりしましたが、高学年になるとそんなこともなくなりました。当時の私は明るく、自他ともに認める温厚な人間で、通知表の通信欄にも「優しい」とかかれ、運動神経は悪かったものの勉強に関しては常にトップクラスで、友達も多く、精神的に恵まれていました。しかし小学校の半ばで転校し、状況は一変しました。新しい土地で、いじめにあったのです。友達も全然出来ず、辛い毎日でした。しかし当時の私はあまりそれを深刻に受け止めてはいませんでした。なんとなくやり過ごして卒業し、その土地の中学に進みました。
しかし中学でも全然友達が出来ませんでした。この頃からだんだん人が怖くなり始めました。また、前にいた土地に旅行したことがあったのですが、「街がなんのためにあるのか理解できない」、「景色が透明に見える」ように感じ、つい最近までいた街には思えない、という体験をしました。部活でもいじめにあい、人が怖いという感覚は強くなっていきました。この頃からカウンセラーにかかり始めました。当時は「すれ違いざまに通行人にバカにされている気がする。人が信じられない」と訴えていたようです。この頃から自分の性格が変わっていくように感じていました。行動が衒学的になり、無理に難しい言葉を使うようになりました。人が怖いあまり受け答えがトンチンカンになりました。暗くなり、何をしても楽しくなくなりました。インターネットにのめり込み、日がな攻撃的なことを書き込むようになりました。同級生達はいよいよ私を変な奴だと思い始めたようでした。塾でもいじめにあい、学校にも友達がいず、また家に帰れば当時不安定だった姉が暴れていて親には助けてもらえず、教師は私の敵に回っていて、地獄のような毎日でした。
それでも何とか学校を乗りきり、受験も成功して、県内でトップの高校に進学しました。しかし、日々は好転しませんでした。高校に進学したとき、私は相当変でした。「自分は何でもできる」という全能感がありました。実際はそうではないのに、「誰よりも勉強ができる」と思っていました。合唱をする部活に入ったのですが、その時も「自分は誰よりも歌が上手い」と思っていました。実際はそんなことはないことは頭では解っていたのですが、その様な発想は消えませんでした。そしてテンションが異常に高くなりました。先輩に対して失礼なことを言ったり、人の気持ちを考えない行動をしたりしました。と同時に、「自分は嫌われている」「自分は陥れられる」という確信が生まれました。異常に高いテンションとこのような被害妄想が私の中に同居していました。そして結局部内で浮いてしまい、部活は辞めざるを得なくなりました。そして部活を辞めたことでクラスでも変な目で見られ、いじめにあうようになりました。とても辛かったですが、自分で蒔いた種だという自覚はあったので、甘んじて受け入れました。
一年生の間はなんとか耐え抜き、二年生になってクラスが変わりました。これで対人恐怖も軽くなると思ったのですが、対人恐怖はエスカレートするばかりでした。別の部活に入り直し、心機一転頑張ろうとしたのですが、人が怖くて続けられずにいかなくなってしまいました。被害妄想のために友達付き合いも消極的だったため、クラスでも浮いた存在になってしまいました。結局またバカにされるようになりました。この頃から教室にいると自分をバカにする言葉が聞こえるようになりました。自分のやっていることを実況するような言葉でした。廊下を歩いていると、「あれが噂の〇〇か」という言葉が聞こえてきました。教室にいると監視されているように感じ、教室に居られなくなりました。そしてそれらの感覚はどんどんエスカレートしていき、最終的にはひっきりなしに悪口が聞こえるようになり、また悪口を言われると背筋が冷たくなって耐えられなくなりました。また、それまでアニメ等には全く興味がなかったのに、あるアニメのキャラクターに突然傾倒しはじめました。常にそのキャラクターの事が頭から離れなくなり、自分の意思とは無関係に頭に浮かんできました。自分が人に迷惑をかけていて、あらゆる他人の態度がそれを仄めかしているように感じました。
遊んでいても楽しい気持ちとつまらない気持ちが常に一緒にあり、混乱しました。またとても好きな作品を読もうとすると、何故か奇妙な不快感に襲われ読めなかったりしました。自分が嫌いになり、自分が醜すぎて、鏡が見られなくなりました。他人の目つきがビックリするほど悪く感じました。すれ違いざまに通行人に悪口を言われているように感じました。若者は自分に危害を加えると思い込み始めました。勉強ができなくなり、テストは赤点ギリギリでした。
このころにネットで統合失調症の存在を知ったのは幸いでした。精神科にかかり、エビリファイの服用を始めました。すると、悪口を言われても気にならなくなり、だんだん聞こえなくなり、最後には全く聞こえなくなりました。人が怖い気持ちが無くなっていきました。アニメのキャラクターへの傾倒もなくなり、また加害妄想のようなものもなくなりました。勉強も少しずつできるようになりました。その頃、二年生になってからの「いじめ」は、単なるからかいを自分が過大解釈していたに過ぎないと気づきました。(からかわれていたのは事実のようでしたが、受け取り方が極端でした。)当初、主治医は統合失調症とはおっしゃいませんでした。親も楽観していました。そのころに林先生に初めてメールを送り、統合失調症と回答をいただきました。私ははじめこそ自分が統合失調症と信じて疑わなかったのですが、主治医が否定なさったので、違うのかと思い、親が薬に懐疑的だったのもあり、一時期薬を勝手に止めました。そしてすぐにまた元の状態に戻ってしまい、薬を再開して現在に至ります。薬を再開したころに、主治医から初めて病気の説明を受けました。私がネット等で仕入れた知識とほぼ符合する説明でした。現在は何となく人が信用できない程度の症状しかありません。が、薬をやめた時期に勉強ができなくなり、それがまだ続いていて、学業に支障が出ています。また、何となくだらしなくなり、金銭感覚がありません。
これが私の全ての経過です。
以下が質問です。
1、やはり私は統合失調症でしょうか
2、その場合、両親に理解してもらうにはどうすべきでしょうか。(一度は主治医に説明してもらって納得していたのですが、最近になってまた「性格だから気にしすぎるな」などと言っています。本を読んでもらったら、「あなたには全くあてはまらない」と言われました。) 主治医に相談しても反応がありません。
ここまで読んでいただきありがとうございました。本来は主治医に質問するべきなのはわかっているのですが、主治医はあまり症状を説明してくださらないので、事実を知りたくなり林先生にまたメールをすることにいたしました。また、もし私が統合失調症であるなら、私の体験談を公表することが他の患者さんの利益になることもあるかと思い、他の患者さんのためにも私の体験を掲載していただきたいという意図もあります(これは思い込みかもしれませんが)。度々申し訳ないのですが、ご回答を頂けたら幸いです。長文になってしまい申し訳ありませんでした。
林:
1、やはり私は統合失調症でしょうか
そうです。発症からこれまでの経過は、きわめて典型的な統合失調症です。
2、その場合、両親に理解してもらうにはどうすべきでしょうか。(一度は主治医に説明してもらって納得していたのですが、最近になってまた「性格だから気にしすぎるな」などと言っています。本を読んでもらったら、「あなたには全くあてはまらない」と言われました。)
一度納得されてからそれを翻したこと、また、これだけ典型的なあなたの症状を目の当たりにしてもなお「全くあてはまらない」と言っておられることからみて、ご両親は、何が何でも息子が統合失調症であると認めたくないか(そういうご家族はたくさん存在します)、理解力が乏しいかのどちらかだと思います。
今後はご両親に対し、統合失調症という病気をはっきりと認めていただくことは後回しにして、とにかく治療に協力していただくようにするのが現実的な対応策だと思います。これは決して好ましい方法とはいえないのですが、やむを得ないでしょう。
そして、ご両親のあなたの病気についての無理解の原因として、統合失調症という病気についての知識の乏しさがあることは否定できません。逆に言えば、あなたが統合失調症を発病する前に、ご両親がこの病気についての正しい知識を持っておられれば、ここまで頑なに病気を認めないということはなかったと思われます。そしてこの背景には、そもそも統合失調症という病気の実像があまりに人々に知られていないという現実があります。私がこのサイトで、また、統合失調症 患者・家族を支えた実例集 で、統合失調症の明るい面も暗い面も、事実をすべてお見せしようとしているのは、この現実の解消が一つの大きな目的になっています。したがって、
もし私が統合失調症であるなら、私の体験談を公表することが他の患者さんの利益になることもあるかと思い、他の患者さんのためにも私の体験を掲載していただきたいという意図もあります
そのような意図でメールをいただいたことは大変ありがたいことです。今回ここに掲載させていただくことで、多くの読者の方々の参考にさせていただきます。ありがとうございました。
◇ ◇ ◇
統合失調症の発症、前駆症状、そしてその早期発見、早期治療が今回の【2000】から【2078】までのテーマです。この【2001】は、そのテーマに入る前に、統合失調症という病気の典型的な経過をあらためてご紹介するという目的もあって掲載させていただきました。
要点だけ解説しますと、まず、この【2001】のケースの中学時代の体験、
「街がなんのためにあるのか理解できない」、「景色が透明に見える」ように感じ、つい最近までいた街には思えない、
このような外界の変容感は、統合失調症にしばしばあります。実際には外界でなく自己のほうが変容しており、それを外界の変容として感じ取っているのです。
当時は「すれ違いざまに通行人にバカにされている気がする。人が信じられない」と訴えていたようです。
このような被害妄想(当初は軽い被害妄想で、「被害妄想的な過敏」ともいえるもの)は、統合失調症の典型的な症状です。
「自分は何でもできる」という全能感がありました。
「自分は嫌われている」「自分は陥れられる」という確信が生まれました。異常に高いテンションとこのような被害妄想が私の中に同居していました。
ハイテンションや全能感だけですと、躁うつ病の躁状態にも思えますが、ここまでの経過(そして、この後の経過)、被害妄想の存在とあわせると、これらも統合失調症の症状と判断できます。
この頃から教室にいると自分をバカにする言葉が聞こえるようになりました。自分のやっていることを実況するような言葉でした。廊下を歩いていると、「あれが噂の〇〇か」という言葉が聞こえてきました。
当初は軽かった被害妄想がはっきりしてきており、さらに幻聴が出現しています。統合失調症が進行してきていることは明らかです。
また、それまでアニメ等には全く興味がなかったのに、あるアニメのキャラクターに突然傾倒しはじめました。
このように、興味の対象が急に変わることも、統合失調症の初期症状のひとつです。アニメのようなものより、むしろ哲学や神学といった、いわゆる難解な学問に傾倒することのほうが多いです。
遊んでいても楽しい気持ちとつまらない気持ちが常に一緒にあり、混乱しました。またとても好きな作品を読もうとすると、何故か奇妙な不快感に襲われ読めなかったりしました。
これらは、相反する二つの考えの同時発生で、両価性と呼ばれる体験にかなり近似しています。
このころにネットで統合失調症の存在を知ったのは幸いでした。精神科にかかり、エビリファイの服用を始めました。すると、悪口を言われても気にならなくなり、だんだん聞こえなくなり、最後には全く聞こえなくなりました。
エビリファイは抗精神病薬の一種です。抗精神病薬の服用により、速やかに症状が改善しています。統合失調症では、なるべく早期にこのような治療がなされることが望まれます。
「いじめ」は、単なるからかいを自分が過大解釈していたに過ぎないと気づきました。
病識も現れています。
私ははじめこそ自分が統合失調症と信じて疑わなかったのですが、主治医が否定なさったので、違うのかと思い、親が薬に懐疑的だったのもあり、一時期薬を勝手に止めました。
主治医の先生がなぜ統合失調症を否定されたのか不明ですが(あるいは、本当は否定などされておらず、単にはっきりとは病名を告げなかったのを、ご本人が「否定」と受け取ったのかもしれませんが)、いずれにせよ、せっかく薬でよくなったのに、勝手に薬を止めてしまうのは、残念ながらこれも統合失調症の典型的な経過だというのが現実です。そして薬を止めれば
そしてすぐにまた元の状態に戻ってしまい、
となるのは当然です。そして、
薬を再開して現在に至ります。
このように薬を再開すれば、また改善が期待できます。
ここではあっさりと「薬を再開して」と書かれていますが、実際には、統合失調症がいったんよくなっても、薬を止めてまた悪くなると、「薬を再開」すること自体が非常に難しいことがしばしばあります。病識が失われ、薬を拒否するようになることが多いためです。
この【2001】では薬を再開して改善したものの、
現在は何となく人が信用できない程度の症状しかありません。が、薬をやめた時期に勉強ができなくなり、それがまだ続いていて、学業に支障が出ています。また、何となくだらしなくなり、金銭感覚がありません。
「何となく人が信用できない程度」というのは、軽い陽性症状といえますが、「また、何となくだらしなくなり、金銭感覚がありません。」は陰性症状で、今は陰性症状が主な問題になっているといえます。これもまた、統合失調症の典型的な経過です。【2001】のケースは現在、統合失調症 患者・家族を支えた実例集 のp.18などにお示しした「統合失調症の経過図」の、消耗期にあると判断できます。
【2002】からは、統合失調症の発症初期や前駆期の様々な例をご紹介します。その前に、統合失調症の典型的な経過がこの【2001】のようであることをご確認ください。さらに統合失調症についてのQ&Aには、大量の実例があります。そこには良い経過のケースもたくさんありますが、治療が遅れたり、治療がなされなかったことなどによる悪い経過のケースも、目をそむけずに是非ご覧ください。そのような悪い経過になるのを避けること、少しでも早期に治療を開始することを目指すためには、早期発見、早期治療が必要なのです。それが今回【2000】から【2078】のテーマです。
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【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。
(2011.6.5.)