精神科Q&A
【1960】うつ病の部下が職場復帰したが、対応に困り果てている
Q: 50歳代のテレビ局関連のプロダクションに勤める者です。私の部下(40歳代)に関してどう対応してよいのか分かりません。その部下は、入社当初から元気がよく、快活で、明るい性格で、多岐にわたる番組の制作を通じてスキルアップもし、将来も期待しておりました。しかし、5年ほど前、ある大きな番組を制作していた途中に、急に「会社に来たくなくなった。吐き気もするし、仕事を辞めたい」と相談されました。私は彼がうつ病ではないかと思い、とりあえず心療内科で診察してもらうようにと助言しました。
次の日彼は心療内科を受診し、「うつ病。1カ月の休養を要す」という診断書をもらってきました。そこから彼は休職に入りましたが、1カ月、2カ月と過ぎても体調は回復せず、結局1年1カ月休職して、復帰しました。しかしながら、彼は「配属された番組に合わない」と訴え続け、仕事の面でも結果が出ず、評価としては「失格」を出さざるを得なくなりました。その後、本人も考えたようで、「部署を変えて欲しい」という提案がありました。その部署は我々の仕事の中でも割合軽い仕事量で、社内での協議の結果、部署替えになりました。部署を変わってからの彼は、以前の快活さを取り戻したようでした。勤務時間、態度にも問題なく、スタッフの信頼も得、時には早朝、深夜の勤務にも対応していました。それが1年程過ぎたころ、徹夜仕事が2日続いた次の日に、急に「身体が動かない」と訴え、診察を受けたところ、「不眠症」の診断が下り、とりあえず1週間の休職診断書が出ました。しかし1週間では体調も好転せず、結局3か月の休職。
それで復帰しましたが、今回は以前の彼とは別人のようでした。復職と言っても、以前の職場に復帰させるには、会社の事情として無理でしたので、比較的軽い、月に1回の仕事を担当してもらうようにしました。私としては、月1回の仕事をこなしながら、少しずつ負荷をかけ、元の状態に戻れるようにと配慮したつもりでしたが、新しい仕事を与えると、一旦は引き受けるのですが、必ずと言ってよいほど次の日に「体調が悪い」と休み、結局新しい仕事はできず、他のスタッフに振るということの繰り返しになりました。原因を聞くと「よくわからない。頭が真っ白になる」と、その時は本当に辛そうな状態なので、まだ負荷をかけるのは無理なのかと思いました。それでも何とか軽く負荷をかけてみるのですが、毎回体調が悪くなる。そんな状態が1年以上続いています。
勤務時間も医師から指導を受けているとのことで、午前11時から午後5時まで。彼の勤務時間の状態は、職場のモチベーションを下げます。しかし、何度勤務時間を変えてみようと相談しても、「医者の指導で…」という返事で仕方なく認めています。またこの状態が1年以上続いていて好転の兆しが見えません。それでも仕事でブレインストーミングなどをすると、活発に発言しますし、仕事のない時は快活な様子です。それでも仕事の負荷をかけると、途端に体調を崩してしまうのです。実際、彼にどんな仕事をしてもらえばいいのか分かりません。普段の言動を見ていると「うつ病は治っているのではないか」とも思われます。一体彼にどういう対応をしてよいのかが分かりません。質問としては、会社として、また上司としてどういう対応をしていけばよいのか。また彼は本当にうつ病なのでしょうか。お答えいただければ幸いです。
林: この部下の方の現在の状態からは、うつ病ではなく、単なる甘えと見ることができます。
しかし、あっさりそのように断言することにはやや躊躇させられるケースです。というのはこの人が
入社当初から元気がよく、快活で、明るい性格で、多岐にわたる番組の制作を通じてスキルアップもし、将来も期待しておりました。
という、元々は甘えて仕事をしないような人ではなかったからです。
うつ病かどうかは別として、元々の性格とは「変わってしまった」ように見えることは、何らかの精神疾患になった可能性を考えたくなるところです。
もっとも、色々なことがスイスイ動いて思い通りになっているうちは生き生きとしていても、少しでも自分の意に反する状況になるとあっさり心が折れるのは、未熟なパーソナリティの人の特徴でもありますので、この社員も、
5年ほど前、ある大きな番組を制作していた途中に、急に「会社に来たくなくなった。吐き気もするし、仕事を辞めたい」と相談されました。
この時の反応はそのようなパターンと捉えることができるかもしれません。
その場合、これを「甘え」と呼ぶという考え方もありますが、これは「ストレスが原因による精神的な不調」ですので、適応障害という診断名をつけることも可能です。
もっとも、適応障害という診断名はとても幅が広く、その中にはうつ病と同等の対応が必要なケースから、単なる甘えのレベルのケースまでが含まれています。
適応障害によって仕事が難しくなったときは、慎重な対応が必要です。もしこれをうつ病であるとみなし、うつ病と同等の対応、すなわち、早い時期に休養を取らせるような対応をするのは、それが適切な場合ももちろんありますが、不適切な場合もあります。すなわち、ストレスからすぐに逃げるという方策を与えることで、成長の機会を奪われ、その後もストレスがあるとすぐに逃げるという行動パターンを育ててしまうことも考えられます。
この【1960】のケースを見ると、そのようなパターンに陥ってしまったようにも見えます。
もっとも、それも表面的な解釈ということも考えられます。質問者の方には、この部下の表面的な状態そのものだけでなく、これら状態を本人がどのように考えているのか、よく話を聴くことによって、
上司としてどういう対応をしていけばよいのか。
を熟考されることをお勧めします。
なお、
また彼は本当にうつ病なのでしょうか。
上の私の解釈の正否はともかく、うつ病でないことは確かだと思います。
(2011.3.5.)